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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第一章 琉韻loveの物語

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第一話 推しの妹

 月曜の夜。

 バイトから帰ってきた星音せいねは、制服のままベッドに腰を下ろし、ノートパソコンを開いた。

 サンドボックスウォーズ――通称SBW。

 所属ギルド・斬々抜断のギルチャは、今日も雑談で溢れている。


【マルメン】「塔の報酬、マジでしょっぱすぎ。煙草買う金の方がマシ」

【シャイン】「はい出たまたマルメン節w」

【ルミナ】「てかバッタ民、昨日のレイド出た人いる?」

【クルス】「おれは寝落ちした。金糸雀が頑張ってた気がする」

【金糸雀】「寝落ちギルメンは晒していいですか」

【琉韻love】「推しの笑顔で全てが浄化されるから許してあげて!」

【ノイス】「また始まった」

【リオン】「宗教タイム入りました」

【シャイン】「乾杯しよ。今日も平和!」


 そんな他愛もないやり取りが、星音は大好きだった。

 前にいたDARK KINGとは全然違う。

 勝ち負けも、効率も、ギスギスもない。

 ただ、夜にログインして、誰かと笑い合う。

 そういう場所が、彼女にとっての“居場所”だった。


 そしてもう一つの居場所が、推し活だ。

 星音の推しは、ヤケ酒45のセンター・篝火琉韻。

 星音のハンドルネーム「琉韻love」はそのまんま、魂の叫びだ。


 放課後はレストランのバイト、休日は遠征。

 時給とお小遣いのすべてをライブ、グッズ、ガチャに注ぎ込む。

 その甲斐あって、サーバー統合ランキング40位。

 重課金に混じっての順位は、もはや誇りそのもの。


【マルメン】「琉韻love、バッタの顔になってきたな」

【琉韻love】「琉韻ちゃんが見てると思えば、努力なんて余裕です!!」

【ルミナ】「見てないと思うけどね」

【琉韻love】「やめてルミナさん、現実は毒です!!」


 笑いながら、星音はいつものように推しの配信ページを開いた。

 月曜午後九時、定期配信。


 今日のタイトルは――

『【初コラボ配信】特別ゲストとゲーム実況してみた!』


「コラボ!? 誰と? 芸人さん? 俳優? まさか別グループ?」


 胸の鼓動が早くなる。配信ページのカウントダウンがゼロを示し、画面が明るくなった。


「みんな~こんばんは! 琉韻だよ~!」


 星音は思わず、画面に手を合わせた。

 この声、この笑顔、この空気感。

 生きる糧。酸素。いや、太陽。


【琉韻love】「推しが息してるありがとう!!」

【リオン】「バッタ民、すでに宗教行きw」


 コメントを打ちながら笑っていたその時、琉韻の声が少し弾んだ。


「今日はね、特別なゲストを呼んでます! 紹介しまーす!私の妹、紫苑です!」


「え……?」


 画面の端に、もうひとりの少女が映った。

 淡い髪、怯えたような目。

 少し硬い笑顔で「こんばんは」とだけ呟いた。

 コメント欄が爆発する。


「ガチ妹!?」

「似てる! 可愛い!」

「この姉妹、破壊力やばい!」


 星音も一瞬、息を呑んだ。


「凄い、琉韻様そっくり…!」


 そして、琉韻は明るい声で、こういった。


「紫苑はゲームが大好きでぇ、SBWにハマってます!さっそく配信しちゃいま〜す!」


 画面にゲームの様子が映る。名前は隠してある。

 主観モードで姿もわからない。


 しかし、ダンジョン攻略中、使用武器に視聴者が湧く。


「紫苑ちゃんハンマー使いw」

「ギャップやばw」

「琉韻ちゃんより好きかも♡」


 星音は沈黙する。


(…え?あのハンマー…)


 そしてすぐに、胸の奥がざわついた。

 どこかで、見たことがあるような。


 ある名前が、頭の中に浮かんだ。

 喉の奥で、何かがカチリと音を立てた。

 星音はノートPCのキーボードに手を置き、ギルドリストを開いた。


 フローライトのメンバー一覧。


 ――オニッシュ。


 O・N・I・S・H。


 画面をにらむ。

 もう一度、ゆっくりつぶやく。


「オニッシュ……シオ……ン……?」


 目を見開く。

 指先が止まる。


 ONISH。

 ――並び替えれば、SHION。


 息が止まった。


「……嘘……オニッシュって、琉韻様の妹……なの……?」


 指先が震える。

 配信の中で、琉韻が笑っていた。

 まるで何も知らない観客たちを導くように、眩しい光の中で。


「ね、可愛いでしょ? 私の自慢の妹なの」


 コメント欄は熱狂していた。

 でも星音の中では、別の熱が走っていた。

 胸の奥で、警鐘のように小さな違和感が鳴り響く。


 ――偶然じゃない。

 彼女は、あの()()()()()だ。


「てか、あんなガチムチ男性アバターのオニッシュが、そもそも女の子だったことにまず驚きなんだが…!?」


 画面の光が、まるで別の世界のものに思えた。


【シャイン】「琉韻love、生きてる? コメント止まってるぞw」

【ルミナ】「推しの妹にショック死した説」

【マルメン】「おい酸素吸え、酸素」

【リオン】「宗教信者、現実に帰還しろー」


 星音はあわててキーボードを叩いた。


【琉韻love】「あ、あはは!ごめん、ちょっと感動してた!てか妹ちゃんさ…」


 手のひらがじっとりと汗ばんでいた。

 心臓はまだ、ありえない速さで跳ねている。


(……オニッシュが、琉韻様の妹……?)


 口の中でその言葉を繰り返す。

 けれど、確証はどこにもない。

 たまたま名前が似てるだけかもしれない。


 それにもし本当にそうだったとしても、みんなには言いたくなかった。

 自分だけが知ってる推しの秘密みたいで、胸の奥がくすぐったくて、誇らしくて。

 星音は一瞬、画面を見つめた。

 口を開きかけて、ゆっくりと閉じる。


【ルミナ】「妹ちゃんがどうした?」

【琉韻love】「超可愛い!それより、今度うちのギルドでも配信やってみようよ!」

【シャイン】「え、マジ?やろうやろう!」

【マルメン】「俺、声出すと職場バレするんだけどw」

【リオン】「それはそれでネタになるw」


 星音は小さく笑った。

 けれどその笑みの裏で、胸の奥では別の炎がゆらめいていた。


(いつか話してみたい。オニッシュ…いや、紫苑ちゃんと)


 自分だけが知る、推しのもうひとつの顔。

 その秘密を抱えたまま、星音はそっとログアウトボタンに指を伸ばした。


 次の瞬間、モニターの明かりが消える。

 暗くなった部屋の中で、星音の唇がゆっくりと動いた。


「絶対、仲良くなってみせるからね……紫苑ちゃん!」


 その小さな願いが、後に誰も予想しなかった運命の歯車を回し始めることを、星音はまだ知らなかった。

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