第五十三話 共闘、そして宣戦布告
灼熱の洞窟を抜けると、視界いっぱいに赤い光が広がった。
地面の岩は脈打つように熱を帯び、頭上からは溶岩が滴る。
天井が崩れ、炎の塊のような巨影がゆっくりと姿を現す。燃え盛る髪と溶岩の肌。手には真紅の大剣・レヴァンティン。
その名が画面上に浮かび上がった。
【システム】《炎帝スルトが現れた》
【オニッシュ】「えっ!?レアボスじゃん!!」
【ココア】「うそでしょ!?まだ討伐報告なかったやつだよ!」
その時、もう一つの光が差した。
同じボス部屋の入口に、別ギルドの旗印が立つ。
見慣れた緑の紋章・サンドウォール。
【ゆず】「あれ、サンドウォールも来てる?」
【White】「共同戦闘になる。下手に動くな」
相手もこちらを警戒していた。だが、炎帝の咆哮が全てをかき消す。
その瞬間、誰もが悟る。
今は敵も味方もない、生き残るために共に戦うしかないと。
【すなっち】「全員、バフ展開。回復は俺が回す!」
【ジャコウ】「了解、前衛でヘイト取ります!」
【飛車】「DPS出す! 後衛頼んだ!」
【ぽよぽよ】「魔法陣、設置完了!」
サンドウォールの陣形は見事だった。
すなっちの回復魔法が光を放ち、味方のHPバーが一気に満ちていく。
その支援力は、まるで神話級。
【ココア】「やるねぇ……こりゃ本気だ!」
【オニッシュ】「速攻、決めます!」
【White】「俺が正面を受ける。援護を!」
スルトのレヴァンティンが唸りを上げる。
火柱が上がる中、Whiteの大盾が正面で衝撃を受け止めた。
「なんだこりゃ、すなっちのバフがなけりゃ絶対即死だな」
火花が散り、画面全体が赤く染まる。
【White】「オニッシュ、今だッ!」
【オニッシュ】「アースブレイク・イクリプスッ!!」
巨大ハンマーが地を割り、衝撃波が走る。
スルトの巨体がよろめき、気絶の文字が表示された。
【ゆず】「ここで終わらせる!」
愛刀・魂穿が青く輝く。
一閃。炎を裂き、スルトの胸を貫く。
爆発音と共に、炎帝が崩れ落ちた。
【システム】《炎帝スルト 討伐成功》
【ココア】「勝った、のか」
【オニッシュ】「速攻が刺さりましたね、モタモタしていたら全員マルコゲでした」
【すなっち】「やっぱWhiteさんの盾、頼りになりますね」
【White】「そっちの支援がなけりゃ、秒もかからず焼かれてたさ」
【ジャコウ】「ナイス連携でした。まさかこの組み合わせで勝てるとは」
【飛車】「素晴らしいチームワークであった」
【ゆず】「課金者はすなっち一人って言われてるけど……仲間も強いじゃないですか」
【ココア】「ほんと、全員レベル高すぎ!」
スルトの炎が静かに消え、洞窟には赤い残光だけが残った。
それは、敵味方の区別を越えて、戦い抜いた者たちの証のように見えた。
【White】「いい戦いだったな」
【すなっち】「また会いましょう。次は敵として、ね」
二つのギルドがわかれると、広間には再び熱風だけが吹き抜けた。
ーーそして。
土曜日、午前七時三十分。
この時間になると、各ギルドの宣戦布告が一斉に解禁される。
まず最初に布告を行ったのは、ダークキング。
選んだのは北東銀区画。
サンドウォールが中央金に全勢力を充てるのは明白。
かつて全金・銀を制覇し、そこからまさかの拠点無し。だが、彼らは僅か2週間で銀大区画まで戻ってきた。
サンドウォールは当然、中央金を死守する。前回の激戦で一度掌中に収めたこの金地を、絶対に譲る気はない。
【すなっち】「中央金はうちが守る。ここは確定で取りに行く」
その宣言通り、サンドウォールのメンバーたちは早朝から配置を整えていた。
まさに全勢力。譲る気はない。
一方、北銀区画では思わぬ火種が生まれる。
ブルーアーチが宣戦布告。
対するは、キリキリバッタ。
キリキリバッタの狙いは、フローライト同じく中央金。
ブルーアーチにとって、これが初の銀区画挑戦。
その背後には、無課金・微課金勢の地道な積み上げがあった。
キリキリバッタが布告に成功すればほぼ確定。だが、フローライトが布告に勝てば、互いに意地と誇りを懸けた全面戦争となる。結果は読めない。
そしてーー
【システム】《フローライトが中央金大区画へ宣戦布告》
布告を制したのはフローライトだった。
狙うは、サンドウォールの牙城・中央金。
【ココア】「さぁ、フローライト初の金取りだ!」
ギルドチャットが一斉に湧き上がる。
【White】「相手にとって、不足はない!」
フローライトとサンドウォールによる、激突が幕を開けようとしていた。
フローライトは全勢力を中央金に集中させるため、 誰にも布告されなかった北東銀大区画には、ゆずが作ったサブアカウント、「すだち」を置いてきた。
本隊はすべて主戦場へ。
この夜、フローライトのすべてを賭けた戦いが始まる。
午後九時前。
金大区画・中央平原。
巨大なオブジェ《黄金神殿》を中心に、二つの旗印が風にはためいていた。
一方には緑の紋章、サンドウォール。
もう一方には青の紋章、フローライト。
互いのギルドが、ついに対峙する。
【ココア】「全員、準備はいい?」
【White】「おう、盾役の背中は任せろ」
【オニッシュ】「開幕から全開で行く!後衛、援護お願い!」
【スカイ】「了解、任せてください!」
【むー】「射抜いて見せます」
サンドウォール側のボイスチャットも活発だ。
お互いアクティブメンバーはフル動員。
だが、数だけ見れば圧倒的に不利だった。
サンドウォール総勢十八人。
対してフローライトは、たったの九人。
人数差は二倍。
しかし、ステータスの内訳は違っていた。
サーバー総合力ランキング。
サンドウォール側でトップ入りしているのは、ギルドマスター・すなっちのみ。順位は堂々の2位。
一方、フローライトはオニッシュが4位、Whiteが35位、ココアが36位。
さらに、ランク外ながらハルトとゆずは100位以内に名を連ねる実力者だ。
戦力は拮抗。
だが侵攻側のフローライトには、初動の有利がある。
人数の差をどう覆すか…この戦い、結果は誰にも読めなかった。
【White】「相手の主力はすなっちだけではない。ジャコウ、飛車、ぽよぽよ。全員レアボス経験者だ。油断するな」
【オニッシュ】「火山で一緒に戦った仲だけど、今日は敵だね」
【ゆず】「でも、あの時感じた。すなっちの支援力、やばいです」
【ココア】「だね。あれ、バフ切れた瞬間に死ぬレベルだもん」
実力者同士。そこに数の不利と、金大区画という最大級の報酬地が重なる。
緊張感は頂点に達していた。
【システム】《カウントダウン開始。残り60秒》
【ココア】「フローライト、突撃準備!」
全員が「了解!」と返事をする。
中央金大区画。その頂点を懸けた決戦が、いま幕を開ける。




