第五十二話 仲間達の成長
翌日の夜。
白石圭吾は、晩飯を終えてようやく一息ついた。
昨夜の呼び出しから二十時間以上働き続けた身体は重い。
それでも、シャワーを浴びた後には、いつものようにPCを起動していた。
無機質な起動画面の先に、昨日とは違う、もうひとつの世界が広がっている。
【ココア】「Whiteさんお疲れ様!」
【スカイ】「一昨日の塔、クリアしましたよd(^_^o)」
スカイ、Gemini、タイガー、ハルト、ココア。
自分が抜けた後も、彼らは息を合わせ、きっちり結果を出していた。
特にスカイとGemini。
まだ高校生の二人は、課金もせず、毎日ログインし、地道なタスクを欠かさない。
仲間と協力して素材を集め、ボス周回をこなす姿をよく見かける。
その積み重ねが、確実に数字として現れていた。
サーバー総合力ランキングには、上位50名の名前が掲載されている。
51位以下は、自分の順位を本人しか確認できない仕組みだ。
それでもスカイやGemini、タイガーは200位前後。
さらに、同じ無課金ながら経験豊富な“むー”は148位と、ついに150位の壁を越えていた。
課金勢の陰に隠れがちな無課金・微課金層の中では、もはや軽視できない存在だ。
「若いのに、よく続けるもんだな……」
圭吾は小さくつぶやいた。
社会に出れば、努力しても報われないことが多い。
けれどこの世界では、努力した分だけ数字が動き、仲間と結果を分かち合える。
それが、この歳になっても彼を惹きつけてやまない理由だった。
ギルドチャットには、ココアの軽い報告が流れていた。
【ココア】「Whiteさんいなかったけど、ハルトの立ち回りで何とかなったよ」
【ハルト】「いや、あの場面はスカイとGeminiが上手く連携してくれたから」
【スカイ】「また今度一緒に行きましょう!」
【Gemini】「Whiteさんの守りが恋しかったですけどね!」
モニターの光に、圭吾の表情がわずかに緩む。
「……まだ、俺の居場所はあるな」
そうつぶやくと、圭吾はキーボードに手を置き、静かに再びログインを開始した。
現実では会社を支え、ゲームでは仲間を支える。
そのどちらも、彼にとっては“盾”であることに変わりはないのだった。
この日は珍しく、ログインしているメンバーが多かった。
オニッシュ、ココア、White、そしてゆずの四人は上級ダンジョン《火山》へ。
その他のメンバーは、個人拠点の強化素材を集めるため、沼エリアの探索に向かった。
燃え立つ溶岩と赤黒い岩肌が続く、現在配信中のダンジョンの中でも最難度を誇るエリア。
ドラゴンやロックゴーレムが徘徊し、一歩間違えば即全滅もあり得る。
それでも四人は、息の合った動きで危険地帯を突破していった。
【オニッシュ】「ボス部屋前、あと一体。慎重に行こう」
【ココア】「了解! この辺、岩投げが痛いから注意ね」
【ゆず】「了解……あ、誰かいる?」
ゆずの言葉に、三人の動きが止まる。
視界の先、溶岩の赤い光に照らされて、四人組の別ギルドが姿を現した。
サンドウォール。
このサーバーでも屈指の戦闘ギルドで、しばしばランキング上位を賑わせているチームだ。
先頭に立つのは、モーニングスターを担ぐ純白の法衣を羽織った男・すなっち。
彼のすぐ後ろには、巨大な斧を担ぐ前衛・ジャコウ、杖を構える魔法使い・ぽよぽよ、そして短剣を腰に下げた飛車の姿があった。
【ココア】「サンドウォール……まさかここで会うとはね」
【オニッシュ】「敵対エリアじゃないし、様子見よう」
両ギルドの間に、わずかな沈黙が流れた。
どちらも武器を下ろし、牽制するように距離を取る。
【すなっち】「おー、ココアさんたちか。久しぶりっすね」
【ココア】「相変わらず深いとこ潜ってるね」
【すなっち】「うちの連中が勝手に来ちまって……ま、ここら辺は誰が来てもおかしくないか」
軽い挨拶の後、双方は互いのチーム状況を簡単に確認する。
戦闘にはならず、ほんの短い言葉のやり取りだけ。
だが、ゆずはそのやり取りを横で見ながら、そっとつぶやいた。
【ゆず】「サンドウォールって、すなっちさんが重課金だから強いって言われがちだけど……実際は、それだけじゃないよね」
【ココア】「どういう意味?」
【ゆず】「うん。ジャコウさん、あの重装で前出てるのに無駄な被弾がないし……ぽよぽよさんの詠唱タイミングも完璧。飛車さんの動きも速い。あれは課金だけじゃ出せないよ」
その分析に、Whiteも静かに頷く。
【White】「確かにな。すなっちがかなり課金してるのは事実だが……仲間の支えがあるから、あの位置を保ててるんだろう」
火山の空気を切るように、遠くでドラゴンの咆哮が響く。
すなっちたちはそれを合図に再び進行を始め、溶岩の彼方へと姿を消した。
【ココア】「さて、私たちも行こっか」
【オニッシュ】「うん、ボス前まであと少しだ」
炎に照らされた道を進みながら、ゆずは小さく笑う。
【ゆず】「……私たちも、もっと強くなりたいね」
その言葉に、Whiteは短く「そうだな」と答えた。




