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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第十章 Whiteの物語

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第五十話 フローライトの盾

 前回の激戦を経て、またしても勢力図は大きく塗り替えられた。


 王国騎士団はあえて独占を避け、自ら戦力を分散。結果、サンドウォールとキリキリバッタ、二大勢力の同時侵攻を受けることになる。壮絶な抵抗の末、ついに拠点をすべて失った。


 その結果、中央金と北東銀はサンドウォールの支配下に。南銀はキリキリバッタ、北西銀はフローライトが制した。


 一方、北西銅ではフローライトが焼肉キングダムを退け、防衛に成功。

 しかしウィンドクローバーの東銅、そしてフローライト戦に総力を注いでいた焼肉キングダムの北東銅――この二つの区画は、ダークキングによって奪われることとなった。


 また、南東銅では、王国騎士団との激闘を繰り広げたキリキリバッタが守りを捨て、そこにブラッドハウンドが進出。初めての大区画制圧を果たす。

 南西銅では、すでに西銅を支配しているブルーアーチがそのまま勢力を拡大した。


 こうして、次のバトルで銀大区画への挑戦権を手にしたのは、ブルーアーチとダークキング。

 戦乱の火種は、さらに燃え広がろうとしていた。


 深夜二時。

 Whiteこと白石圭吾(しらいしけいご)は、明日は仕事だというのに、PCの前から離れる気はなかった。

 ボイスチャットには、三つのアイコンが灯っている。


【むー】「前回のバトルはキツかったですね」

【オニッシュ】「うん、正直ギリギリだったね」

【White】「俺は椿を足止めするのでいっぱいだったな、結局また負けてしまった」

【むー】「Whiteさん最後ずっと赤ゲージで立ってたの見てました」


 そのとき、沈黙していたアイコンがようやく点滅した。


【タイガー】「みんな、悪かった。今回、仕事で出れなかった」

【オニッシュ】「気にしないでいいよ、フローライトはリアル優先だし。それに全員インしてたとしても、誰かは銀の拠点に残らなければならなかったんだから」

【むー】「そうそう!」

【タイガー】「あぁ、でも次は必ず出る」


 タイガーの声は低く、どこか申し訳なさそうだった。


【オニッシュ】「ところで、Whiteさん。次の布告成功した場合なんだけど」

【ホワイト】「ん?」

【オニッシュ】「一緒に最前線で戦ってくれませんか?」

【White】「前線?俺、防衛専門だぞ」

【オニッシュ】「わかってます。ですが、サンドウォールは他とは違います。すなっちさんの攻撃を受け止めて欲しいんです」


 その声は穏やかで、押しつけがましくはなかった。

 ただ、まっすぐな信頼が込められていた。


【オニッシュ】「それに、すなっちさんはサーバー2位の総合力を持つ僧侶、僕1人では削りきれない。指揮も冴えるという評判ですし、波状攻撃から安心して背中を任せられる人が必要なんです」


 圭吾は、少しだけ背筋を伸ばす。

 誰かが期待してくれている。

 それだけで、胸の奥が少し熱くなる。


【White】「……じゃあ、やってみるか」

【むー】「その意気です、Whiteさん!」

【タイガー】「コレはまた、燃えそうだな」

【オニッシュ】「うん。じゃあ、明日ココアに報告しとく。おやすみ、みんな」

【White】「おう。おやすみ」


 通話が切れ、静寂が戻る。

 モニターに映るログがゆっくりと流れていく。

 圭吾は深呼吸をして、天井を見上げた。


「前線、か……」


 外は、もう夜明け前。圭吾は少しだけ眠る。


 朝六時。

 アラームが鳴るより先に、圭吾は目を覚ました。


 隣の寝室から、妻の支度する音。

 階下ではトースターの音がして、息子と娘の声が重なる。


「父さん、今日も早番?」


「ああ。会議あるから先に出る」


 家族の朝はいつも淡々としている。

 圭吾はパンをかじりながら、息子の制服のネクタイの曲がりを直し、娘の髪のほつれをそっと直す。

 それはもう、十年以上続けてきた父親としての“型”のような動作だった。


 大手自動車部品メーカー勤務。

 四十歳にして課長職。

 現場を知るたたき上げとして、上司からも部下からも信頼されている。

 飲み会でも率先してノンアルコールを頼み、喫煙所には近づかない。

 趣味は特にないと公言しているが、ただ一つだけ、誰にも話していない趣味がある。


 夜、連日の残業から帰宅し、1人で夕食を食べ、洗い物を済ませた後。

 彼はPCを立ち上げ、《サンドボックスウォーズ》にログインする。

 そこでの名はWhite。ギルド〈フローライト〉の重騎士。


 オニッシュに次ぐ戦力を持ちながら、戦場ではほとんど目立つことがない。

 それでも、誰かが彼の築いた防壁の内側で笑っているなら、それでいいと自分に言い聞かせてきた。


 だが最近、圭吾が密かにライバル視している椿に二度目の敗北を喫したことが、少しだけ胸に刺さるようになっていた。


 机の上のカレンダーに書き込まれた「土曜21時」。

 時計の針が夜を指すたび、現実の圭吾はただの課長から、フローライトの盾・Whiteへと変わる。

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