第四十九話 また次の旅へ
【らいおん】「みんな、おつかれさま!」
【ペンギン】「おつ! いやー、今回はマジで頑張ったな、うち」
【みぃ子】「うんうん、正直あそこまで食い下がれると思わなかった!」
【REBORN】「あれだけフローライトと渡り合ったんだ。普通に胸張っていいと思うぜ」
戦闘が終わり、ギルドチャットにはどこか柔らかい空気が流れていた。
全滅こそしたものの、メンバーたちの言葉は明るかった。
【らいおん】「正直、途中で全滅コース覚悟してたけどな。椿旅団が来てくれて助かった」
【椿】「否、我々の力だけではない。焼肉キングダムの力あってこその接戦です」
【ペンギン】「いやいや、マジで頼もしかったよ。特にRainちゃん、あの氷ヤバすぎ」
玲は画面の向こうではにかんだ。
【みぃ子】「でもさ、あのフローライトの連携……あれ何? まるで一人で動いてるみたいだった」
【REBORN】「わかる。あれ絶対、裏で誰かが指揮してるだろ」
一瞬の静寂。
そして、そるがぽつりとメッセージを送る。
【そる】「……いや、あそこは指揮っていうより、信頼で動いてるんだ」
【ペンギン】「え、信頼?」
【みぃ子】「でもあの統率感だよ? それで動けるわけ?」
【そる】「うん。ココア姐さんが方針は出すけど、細かい指示はほとんどない」
【椿】「みんなが自分の役割を理解してて、誰かが動けば自然に連携が生まれる」
【Rain】「全員が、全員を信じてる。あれが、フローライトの強さだよ」
チャットが一瞬だけ静まった。
それぞれが、その言葉を噛みしめるように。
【料理長】「なるほどな。信頼で成り立つチーム、か」
【REBORN】「かっけーな、それ」
【みぃ子】「ウチも真似したいね、そういうの」
【ペンギン】「うちの場合はノリと勢いで動いてるからな!」
【らいおん】「ははっ、それも信頼のうちかもな」
スタンプの嵐。
笑いが続く中、らいおんのひとことが静かに流れた。
【らいおん】「……ウチも、そのスタンス、真似してみるか。指示で動くより、信頼で動けるギルドに。きっと、それが次に繋がる」
【そる】「いいと思う。信頼って、思ってるより強いよ」
【ペンギン】「じゃ、まずはノリ信頼度上げる練習からだな!」
【みぃ子】「ノリ信頼度って何w」
【REBORN】「おいペンギン、お前が一番信用できねぇわw」
【料理長】「そうだそうだ!料理信頼度が大事だ!」
笑いが絶えないギルチャ。
敗北の夜に、悔しさよりも温かさが残っていた。
この敗北が、焼肉キングダムを一段強くする。
【らいおん】「さて……今日が椿旅団のラストか」
【ペンギン】「うぅ、寂しくなるなぁ……。せっかくだし、派手に締めようぜ!」
【みぃ子】「賛成! どうせなら、星4レイドとか行っちゃう?」
【REBORN】「おいおい正気か? あれ、ギルド壊滅コースだぞ」
チャットがざわつく中、らいおんが静かに笑った。
【らいおん】「最後だ、せっかくだから背伸びして星4いくぞ」
【ペンギン】「きたーっ!! 言ったな!? やるぞおおお!!」
【椿】「ふふ……挑戦は、旅団の流儀ですから」
【Rain】「いいね。勝って、気持ちよく見送りにしよう」
【そる】「了解。じゃあ、全力で行こう!」
その日のレイドボスは「星4:デビルコング」。
山岳地帯の奥に棲む巨猿で、怒りゲージが上がるほど攻撃が苛烈になる“狂暴化型”の魔物だ。
【ペンギン】「おいおい、でけぇなこれ」
【REBORN】「まずは様子見だ。前衛、引きつけ頼む」
【椿】「了解。Rain、氷結を頼みます」
【Rain】「フロスト・プリズム!」
巨大な氷結魔法が炸裂し、デビルコングの脚を一瞬だけ凍らせた。
その隙に、椿が駆け込む。
【椿】「朱天斬ッ!」
鮮やかな紅のエフェクト。斬撃がコングの胸を裂く。だが、怒りゲージが急上昇。
【みぃ子】「やばっ、怒った!」
【REBORN】「全員散開っ!」
地面を叩き割る咆哮。
衝撃波に吹き飛ばされながらも、ペンギンが盾を構え立ち上がる。
【ペンギン】「おらぁ! まだ終わってねぇぞ!」
【らいおん】「ナイスだペンギン! Rain、援護してやれ!」
【Rain】「氷壁、展開!」
氷の障壁が形成され、巨腕の一撃を受け止めた。
その裏で、そるが全員のHPを回復していく。
【そる】「オールヒール!これで全員、まだ戦える!」
【REBORN】「支援完璧だ、押し切るぞ!」
再び椿が飛び込み、連撃を浴びせる。
Rainが氷柱で拘束し、ペンギンが渾身の突進を叩き込む。
【ペンギン】「焼肉流、特製タックルぅぅぅ!!!」
【みぃ子】「今の名前つけたの誰w」
【らいおん】「決まったな……今だ、全員総攻撃!」
爆発的な光と音。
デビルコングが咆哮を上げ、崩れ落ちた。
【システム】《デビルコング 討伐完了!》
沈黙のあと、チャットに歓喜が弾ける。
【ペンギン】「うおおおおお! 勝ったぁぁぁ!!!」
【みぃ子】「うそでしょ!? 星4倒したの!? やば!!」
【REBORN】「ギリギリだったけど、やったな……!」
【そる】「これ以上ない、最高の締めだね」
【椿】「皆さん、見事な戦いでした。誇るべき勝利です」
【Rain】「ほんとにね。焼肉キングダム、いいチームだったよ」
【らいおん】「ああ。お前らがいてくれて、本当によかった」
静かな余韻。
誰もが、その勝利の瞬間を噛みしめていた。
【ペンギン】「……次、旅に出るんだろ?」
【椿】「はい。また別の地で、新たな戦を」
【そる】「でも、きっとまた会えるよ。ゲームの中なら、いつでも」
【Rain】「うん。またどこかで」
【らいおん】「そのときは、うちがもっと強くなって迎える。信頼の焼肉キングダムとしてな」
チャットに、拍手スタンプが流れる。
そして、三人の名前がゆっくりとログから消えていった。
「……焼肉キングダム、いいギルドだったな」
玲は椅子の背にもたれ、夜の空を見上げる。
土曜の戦いが終わり、日曜のレイドも終わり、ほんの少しだけ胸が空っぽになる。
「次は、どんな冒険が待ってるのかな」
モニターの光が、玲の頬を照らした。
その目には、少しの寂しさと、確かな期待が映っていた。
──彼女の旅は、まだ終わらない。
ーーー 第九章 Rainの物語 完 ーーー




