第四十八話 椿旅団vsフローライト
《焼肉キングダム》。
その名を冠するメンバーは、すでに全滅していた。
立っているのは、期間限定で共闘していた《椿旅団》の三人だけ。
椿。
Rain。
そる。
たった三人。
だが、その三人が、戦場の空気を変えていた。
【White】「うおおおお!!」
【椿】「力だけでは、私には勝てない!」
盾が唸り、槍が唸る。
椿の剣が閃くたび、火花が散り、雪が舞った。
重装の男と、軽装の剣士。
攻撃の重みでは勝てない。それでも椿は止まらなかった。
【White】「速い……だが、効かん!」
【椿】「ならば、効かせる!」
地を蹴る。剣を回転させ、盾の死角へ滑り込む。
一瞬の間合い。そこに魂を込めた渾身の一撃。
【椿】「穿て、断空閃ッ!!」
鋼を裂く音。
Whiteの盾が砕け、鎧の隙間から閃光が走った。
【システム】《White 撃破》
【White】「また、俺の負けか…」
【椿】「あなたは強い。次やれば、わからない」
椿が息を吐く。肩で呼吸を繰り返しながらも、剣を下ろさない。
その間にも、別の戦場では氷と炎が激突していた。
【スカイ】「行くぞ、Gemini!」
【Gemini】「了解!合わせる!」
【Rain】「連携は悪くない。でも……」
Rainが静かに杖を構える。
水の紋章が空に浮かび、巨大な渦を巻く。
【Rain】「アクア・ドミネイト」
瞬間、水柱が螺旋を描き、二人を飲み込んだ。
スカイとGeminiの動きが止まる。
【Rain】「いいコンビになったね。前の君たちなら、ここまで来られなかった」
【スカイ】「くそ、やっぱり…」
【Gemini】「強すぎる……!」
【システム】《スカイ 撃破》《Gemini 撃破》
水柱が収まると、白い霧が立ち上がった。
それはまるで、彼らの努力を弔うように。
【Rain】「ごめん、でもこれが戦場だ」
風が頬を撫でる。Rainは一瞬だけ、空を見上げた。
その背後に、そるの声が飛ぶ。
【そる】「Rain!回復入れる、こっち寄って!」
【Rain】「助かる!」
そるが詠唱を開始する。
淡い光が掌からあふれ、仲間たちの身体を包み込む。その姿を見つめる椿が、安堵の息を漏らした。
【椿】「さすが、そる!」
【そる】「まだ終わってないからな。全員、生かす!」
だが、その光の背後に、忍び寄る影があった。
風も、足音も、何ひとつ響かない。
影のように動き、背後に回り込む黒いシルエット。
《フローライト》のギルドマスター、ココア。
【ココア】「ごめんね、そる」
【そる】「しまった!ココア姐さんの十八番…」
短剣が閃く。
光が掻き消え、詠唱が途切れた。
【システム】《そる 撃破》
【Rain】「そるッ!!」
【そる】「悪ぃ、いつかくるとはわかっていたけど、よけらんねぇ…」
そるのキャラクターが静かに倒れる。だが、椿は閃光の如く動いていた。
【椿】「逃すか!斬空波ッ!!」
飛ぶ斬撃は、ココアを完璧に切り裂いた。
【システム】《ココア 撃破》
【ココア】「あちゃ、上手いなぁ椿ちゃん」
椿とRainはの前に、このエリアの主が立ちはだかった。
オニッシュ。
フローライトの最高戦力であり、破壊の象徴。
新月の鉄鎚を肩に担ぎ、ゆっくりと前へ歩き出す。
【オニッシュ】「さて、フィナーレだね」
【椿】「私たちコンビを前に、いくらオニッシュでも一人じゃ勝てないわよ!」
瞬間、地が震える。
オニッシュの一撃が、大地を陥没させるほどの衝撃を生む。その重装備からは想像もつかないほどに速い。
椿は回避が間に合わず、刀で受け止めるが、腕ごと弾き飛ばされた。
【Rain】「椿、下がって! 私がフォローする!」
Rainの詠唱が始まる。氷の魔法陣が彼女の足元に展開され、冷気が渦を巻く。
だが、オニッシュはその上から叩き潰すように突進してきた。
【オニッシュ】「詠唱の隙なんて与えない!!」
【椿】「させるかあああ!!」
椿が目にも止まらぬ一閃、頑丈な鎧によりダメージは少ないが、オニッシュの軌道をずらす。
だが、オニッシュの反撃が椿を襲う。
【オニッシュ】「月まで、飛んでけ!!」
Rainの詠唱が完成するより早く、椿の身体があまりにも高く空を舞った。地面に叩きつけられ、HPバーが一気に無くなる。
【システム】《椿 撃破》
【Rain】「アブソリュート・ゼロ!」
現時点での、最強氷魔法が爆ぜた。
世界が凍りつくような青白い閃光。
オニッシュの巨体が、その場で完全に停止する。
絶対零度の凍結は、Rainの全魔力と引き換えに大ダメージと凍結、さらに継続ダメージを与えた。
オニッシュはあと1分も持たない。
【Rain】「……よし、やった。これで――!」
その瞬間だった。
背後で、空気がねじれるような音がした。
【Rain】「え……?」
【ハルト】「油断したな」
振り返る間もなく、眩い螺旋光がRainを貫いた。
スパイラル・ドライブ。
元ダークキング、ハルトの必殺技。ダークキングの捨て駒だった彼は、今やフローライトの気高き騎士となっていた。
【Rain】 「ハルト……っ! 私が、油断した……」
氷の花が咲いたように彼女の身体が崩れ落ちた。
凍りついたオニッシュの背後で、ハルトの槍だけが赤く光を放つ。
【システム】《Rain 撃破》
【ハルト】「フローライトは、オニッシュだけじゃねぇよ」
風が止み、戦場に静寂が訪れる。
【オニッシュ】「ハルトさん……マジ、神タイミングです!」
【ハルト】「オニッシュの活躍のおかげだよ」
勝者のギルド名が表示される。
【システム】《北西銅大区画 勝者:フローライト》
こうして一進一退の激闘は、幕を閉じた。




