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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第八章 すなっちの物語

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第四十三話 牙城陥落

 夜、九時前。

 《サンドウォール》のギルドチャットは、緊張と高揚に包まれていた。


【すなっち】「よし、作戦最終確認。ダークキングは金区画を守りきれないと見て、南銀に全戦力を回すはずだ。北東事前防衛に黒王がいるという事は、今夜は不在ということ。コレは大きい」


 モニター越しの仲間たちが頷くスタンプを次々と送る。すなっちは続けた。


【すなっち】「金はおとり。王国騎士団はおそらく一人で十分だ。俺たちは北東の銀区画を落とす。黒王の自動防衛は想定内。各班、開始五分前に配置完了、合図で突入!」


 その予測は的中した。

 ダークキングは不利な防衛戦となる金区画を捨て、主力カノン、まろん、ペインの三名が南銀区画へと向かった。


 金区画には捨て駒の主が一人。

 さらに北東銀には、黒王の不在のために設定された自動防衛の黒王。

 《フローライト》が攻め込んだ北西銀にも、形だけの防衛役が一人。


 そして、開戦の刻。


 王国騎士団は展開を完全に読み切っていた。

 金区画に単身赴いたガラハッドが、瞬く間に捨て駒を斬り払い、制圧。

 残る主力は南銀区画で息の合った連携を見せ、ダークキング本隊を圧倒する。


 一方そのころ、北東銀。

 すなっち率いるサンドウォールが、黒王の自動防衛AIを撃破。

 見事、北東銀大区画の制圧に成功した。


【すなっち】「……次は、本人を倒す」


 画面の向こう、夜のモニターに映るログを見つめながら、すなっちは静かに呟いた。

 その言葉通り、彼はいつか“プレイヤー本人の黒王”を打ち破ることを誓う。


 こうして、戦いの夜が明けたとき…

 かつて栄華を誇った《ダークキング》は、まさかの拠点ゼロとなっていた。


 サンドウォールが北東銀大区画を制圧した翌日。


 拠点をすべて失った《ダークキング》に、大きな動きが走った。

 サーバー総合力ランキング5位、ギルドの主力だったまろんが、突然脱退したのだ。


 その知らせは瞬く間に広まり、全チャットがざわめいた。


【まろん】「弱くなったダークキングに用はねぇ!誰か俺が入ってやるぞ!早い者勝ちだ!」


 ……しかし、誰も反応しなかった。

 どのギルドからも勧誘の声は上がらず、チャット欄は静まり返る。


【まろん】「おいおい、どうしたよ?サンドウォールでもフローライトでも歓迎しろよ!」


 空気を読まない叫びが続く。

 そのとき、堪忍袋の緒が切れたプレイヤーが現れた。


【たっちゃんパパ】「おまえみたいな奴は、みんなお断りだってよ」

【琉韻love】「色んなところに喧嘩売っといて、どのツラ下げて歓迎しろよとか言ってんの?w」

【マルメン】「おい中坊、反省してから出直せや」


 怒涛のツッコミが全チャを埋め尽くす。

 かつてまろんと揉め、ギルドを抜けた面々の怒りが、ここぞとばかりに爆発した。


【まろん】「はぁ!?中坊って誰のことだよ!」

【たっちゃんパパ】「おまえのことだよw 自分で言ってたじゃん。“俺は大企業の社長の息子”って。中学生のくせに偉そうにしすぎなんだよ」


 その瞬間、全チャが一斉に笑いに包まれた。元ダークキングでまろんと揉めて独立した、《焼肉キングダム》のギルマス、らいおんも加わる。


【らいおん】「うわ、やっぱり坊ちゃんだったのかw」

【マルメン】「甘やかされてんだなw そりゃゲームでも王様気分になるわ」

【ぺんぎん】「友達いなそうw」

【まろん】「仕方ねぇな、ダークキング戻ってお前ら皆殺すわ」

【カノン】「悪いが、もうお前はいらない」


 まろんの発言が止まる。

 数秒後、最後に「死ね死ね死ねえええ!」という意味不明な叫びを残し、ログアウト。


 その後、彼がサーバーに姿を見せることは二度となかった。


 こうして、かつて上位に君臨した《ダークキング》は、主力を失った。


 しかし、彼がいなくなった事で、ダークキングは少し居心地のいいギルドになっていた…


  一方、サンドウォールのギルドルームでは。


【すなっち】「よし……来週はいよいよ金区画か」


 チャットには仲間たちの返信が次々と流れる。

 《王国騎士団》。サーバー最強の正統派ギルドとの決戦。その名を聞いただけで、緊張と高揚が画面越しに伝わる。


【ジャコウ】「マジか……正直、少しビビってます」

【ぽよぽよ】「うわぁ、ヒーラーとしては不安しかない……」

【カメール】「でも、作戦通りに動けば絶対勝てるっすよね、マスター」

【G2】「よーし、俺は突撃準備万端!ダメなら死んで覚悟見せます!」

【飛車】「DPS組はしっかりバースト合わせる。焦らず、冷静に」


 仲間たちの個性が画面越しに飛び交う中、すなっちはマウスを握り直した。


【すなっち】「まずは布告合戦だ。フローライトより早押しできるか勝負だな」

【みかん】「あー、いまから緊張しますぅ〜」

【ジャコウ】「お、おとり作戦とか考えなくていいんですよね?」

【ぽよぽよ】「わたし、回復ライン絶対守ります!前衛が壊滅する前に!」

【カメール】「布告で押されるわけにはいかないっす。皆、集中だ」

【G2】「俺、クリックで全力出す!でもMPは残しておく!」

【飛車】「作戦を守れば、必ず押し切れる。慌てるな、皆」


 冗談と真剣が入り混じるチャット欄に、笑いと闘志が同時に弾ける。

 すなっちは軽く口元を緩め、画面の仲間たちを見渡した。


【すなっち】「次も、勝つぞ」


 仲間たちがスタンプと共に応え、チャット欄は熱気で満たされる。

 午前の部屋に、カチリとクリック音が響いた。


ーーー 第八章 すなっちの物語 完 ーーー

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