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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第八章 すなっちの物語

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第四十一話 星5レイド・アトラス

 日曜日の夜。

 いつものように、サンドウォールのギルドチャットがにぎわいを見せていた。


 レイドボス出現まで、残り十五分。


【すなっち】「さて、今夜はどうする? 星4で安定狙うか、星5に挑戦してみるか」


 その問いかけに、メンバーたちの反応が一斉に飛んだ。


【ジャコウ】「星5はキツくないですか?」

【カメール】「でも星4ばかりじゃ、素材が集まらないっす。装備差も埋まらないし」

【G2】「挑戦あるのみっしょ! 倒せなくても、立ち回りの練習にはなるし!」

【ぽよぽよ】「……星5って、前衛が2発で沈むやつですよね?(震え)」

【みかん】「わたし、後衛支援任せて!バフ切らさないようにする!」

【飛車】「DPSトップ、今日も(それがし)がもらう」


 軽い笑いが起こる中、すなっちはコーヒーを置いて、マイクをオンにした。


【すなっち】「まあ、たしかに星5は痛い。でもな、“痛い”を知ってる奴が、一番強くなる」


 一瞬、静まり返るボイスチャット。

 すなっちは続ける。


【すなっち】「失敗してもいい。倒せなくてもいい。戦いながら、どうすれば勝てるかを考える。それがサンドウォールだ」

【カメール】「……いいこと言う」

【ジャコウ】「やっぱ中二マスターじゃなくて、熱血マスターっすね」

【G2】「よーし、死ぬ気で突っ込みます!」

【ぽよぽよ】「いや、死なないで!? ヒーラーの気持ちも考えて!」


 笑い声が広がり、緊張が少しずつほぐれていく。


【すなっち】「前衛、ジャコウとG2は交代でヘイト管理。ヒールはぽよぽよが優先して受け持ち。みかん、全体バフを90秒サイクルで回して。飛車、DPSのピークは第二フェーズ。焦らず温存な」

【飛車】「了解。すなっち氏の号令で撃つ」

【ぽよぽよ】「わたしの詠唱タイミング、前より1秒遅いから合わせてね!」

【G2】「OK、俺、アトラスに顔覚えられるくらい突っ込むわ!」

【ジャコウ】「無茶すんなよ!」


レイド開始。

 巨体のアトラスが現れ、地面が揺れた。

 最初の一撃で前衛のHPバーが半分吹き飛ぶ。


【ぽよぽよ】「早い早い早いっ!!回復待って!!」

【G2】「まだ立ってる!行くぞっ!!」

【すなっち】「G2、耐えろ! カメール、後衛の射線確保!みかん、バフ延長!!」

【みかん】「了解っ!“聖域の歌”展開します!」


 淡い光がパーティ全体を包む。

 防御バフが重なり、前衛が持ちこたえた。


【ジャコウ】「今だ、左脚コア狙え! 崩れたら一気に畳みかけろ!」

【飛車】「バースト合わせ!3、2、1……食らうが良い!」


 無数の光線が走り、アトラスの脚が砕け散る。

 巨体が揺らぎ、地響きが轟く。


【すなっち】「ナイス!フェーズ移行だ、全員MPリセット確認! ぽよぽよ、次の全体攻撃は25秒後、バリア先貼り!」

【ぽよぽよ】「任せて!」

【カメール】「右腕チャージしてます!範囲くる!」

【すなっち】「散開!G2は南、ジャコウ北! 後衛は中央キープ!」


 すなっちの指示に全員が即応する。さらに僧侶のすなっちは全力で全体防御バフを発動する。


【すなっち】「サンクチュアリ!!」


 カウントゼロ、アトラスの拳が炸裂!だが、バフのおかげもあり、誰一人倒れなかった。


【みかん】「耐えた……!全員生存!」

【G2】「マジか!すなっちの指示も動きも完璧だったな!」

【すなっち】「オールヒール!さぁ、行くぞ!!」

【ジャコウ】「よっしゃ、反撃だ!」


 全員のスキルが一斉に閃き、コンボが繋がる。

 ボスのHPバーが一気に削られていく。


【飛車】「あと10%!!」

【ぽよぽよ】「回復入れてる!全力でいって!」

【すなっち】「全員、最後のバースト合わせ!行け、サンドウォール!!」


 光の奔流がアトラスを包み込み、

 爆音と共にその巨体が崩れ落ちた。


【システム】《アトラス 討伐成功》


【みかん】「やったあああああ!!!」

【G2】「初星5クリアっすよ!マジで!」

【カメール】「このギルド、やっぱ本物だな」

【ぽよぽよ】「回復足りた……泣きそう……」

【ジャコウ】「すなっち、今日の指揮マジで神だった」

【すなっち】「いや、全員が完璧に動いたからだ。――これが、サンドウォールだ」


 その声に、誰もが静かにうなずく。

 課金でも、装備でも、運でもない。

 “仲間と戦略で勝ち取った勝利”が、今ここにある。


 コーヒーの香りが、冷めかけた夜の空気に溶けていく。

 画面の向こうで砂畑は小さく笑った。


「強いチームってのはな……強い奴が集まるんじゃない。信じ合える奴が集まることを言うんだよ」


 翌朝。

 まだ陽の昇りきらない街を、砂畑はコーヒー片手に歩いていた。

 目の下には少しだけクマ。昨夜、ログアウトしたのは午前一時過ぎだった。


 だが、不思議と足取りは軽い。

 満員電車の人波の中でも、胸の奥に小さな熱が残っていた。


 あの瞬間。

 全員の動きが噛み合い、巨大なアトラスが崩れ落ちた時。声を揃えて喜んだあの一体感。


 仕事では決して味わえない“達成感”が、確かにそこにあった。


 会社の自動ドアをくぐり、ネームプレートを胸につける。

 モニターの電源を入れる音が、昨夜の戦闘の残響と重なった気がした。


 同僚に「おはようございます」と挨拶しながら、

 砂畑は心の中で小さく笑った。


「今日も行くか、現実のレイドへ」


 その顔には、社会人としての穏やかさと、

 サンドウォールのギルドマスターとしての静かな誇りが、確かに共存していた。


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