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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第八章 すなっちの物語

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第四十話 当たりサーバーだよ

 この日、32サーバーの大区画に、かつてない激動が走った。


 サーバー新設当初から環境を知り尽くした転生者たちが集う強豪ギルド《ダークキング》は、長らく金・銀の大区画を独占し続けてきた。しかし、その牙城がついに崩れる。


 王国騎士団が真っ向勝負で《ダークキング》を撃破。初めて銀区画のひとつが奪取されたのだ。この一戦は、サーバーの勢力図を大きく塗り替える転換点となった。


 勢いに乗る《フローライト》は、布告合戦を制して北西銅を確保。さらに北東へと攻め込んだ《焼肉キングダム》を返り討ちにし、念願の「銀区画挑戦権」を手にする。


 一方、《サンドウォール》も動く。

 ガラ空きだった南西銅を大人数で制圧する傍ら、わずか数名、すなっちと数人のサポーターだけで《ウィンドクローバー》を撃破するという離れ業を見せた。


 南東では、《キリキリバッタ》が再び存在感を取り戻しつつある。トップユーザーは依然不在ながら、《元エターナル》のリオンとノイス、さらに《元ダークキング》のたっちゃんパパや流韻loveらが加入し、侮れぬ布陣を整えつつある。


 そして東。《焼肉キングダム》は《フローライト》戦での消耗が響き、《ブルーアーチ》に敗北を喫した。


 サンドウォールのギルドマスター、すなっちこと砂畑は、深夜のモニターを前に腕を組んでいた。

 画面には次週の《サンドボックスウォーズ》大区画マップ。光るエリアを指でなぞりながら、彼は小さく呟く。


【すなっち】「狙うは……北東銀だな」


 おそらく《フローライト》は北西銀に進軍。

 《王国騎士団》は中央金を狙うはずだ。


 視線を画面中央に移し、彼は口角をわずかに上げた。


【すなっち】「ダークキング、ついに陥落かもな」


 その一言がギルドチャットに火をつけた。


【ジャコウ】「マジか、一強時代の終わりってこと?」

【カメール】「ずっとハズレサーバーだと思ってたのに、まさかこんな展開になるとは…」

【G2】「どこも拮抗してきたね。やっと面白くなってきた!」


 チャット欄が賑わう中、すなっちは軽く笑った。


【すなっち】「……いや、これは()()()サーバーだよ」


 一瞬、空気が止まる。


【カメール】「え?どういうこと?」

【すなっち】「この手のゲームで、2ヶ月足らずで勢力の均衡が取れるなんて、奇跡みたいなもんさ。ひどいところは年単位で同じギルドが独占し続ける。課金者が強くなるのは当然だし、努力も金もかけてるんだから、その分有利に進める()()がある」

【ジャコウ】「……なるほど。でも、すなっちさんはそんなに課金してんのに、何故最強ギルドに入ろうと思わないんですか?」


 少しの沈黙。モニターの光が、砂畑の表情を淡く照らす。


【すなっち】「長い物に巻かれないって、カッコいいじゃん?」


 その一言に、ギルメン達が一斉に吹き出す。


【G2】「出たよ、中二マスターの名言(笑)」

【カメール】「でも、確かにそれが《サンドウォール》って感じするわ!」


 笑い声が飛び交い、チャットは再び活気づいた。


【G2】「でも、ハズレじゃなくても過疎サーバーっすよね?戦いに参加してないハコニワ勢含めても、初期の3割も残ってるかどうか…」


 軽い冗談のつもりだったが、チャットの流れが少し止まる。

 すなっちはモニター越しにコーヒーを啜りながら、ゆるく返した。


【すなっち】「どんなゲームでも、2ヶ月後に残ってるのは1割ちょいだよ」

【ジャコウ】「え、そんなもんなんすか?」

【すなっち】「そんなもんさ。先月のおじサムライさんの件や、《ダークキング》の失礼な発言、全チャでの喧嘩で抜けた人が多かっただけ。過疎に感じるのは当然だよ」


 彼は少し間を置き、マウスを動かしてマップを拡大する。

 銅、銀、金の大区画が並ぶその画面を見ながら、静かに続けた。


【すなっち】「実際はどこも似たようなもん。最初は賑やかでも、2週間で半分消え、1ヶ月でさらに半分。残るのは日課を楽しむやつと仲間のいるやつだけ」

【カメール】「……なんかリアルですね」

【すなっち】「勝ち負けだけ追ってると燃え尽きる。でも、ギルチャでくだらない話して、たまに勝って、笑って終われる。それが長く続くサーバーの条件さ。」

【G2】「中二マスターってより、社会人マスターっすね」

【カメール】「いや、悟りマスターだなw」


 また笑いがこぼれ、チャットが再び流れ始める。

 その画面を眺めながら、すなっちはふっと息をついた。


【すなっち】「ま、どっちにしろ来週は面白くなるぞ」


 しばし画面を見つめる沈黙のあと、彼は声を少し張り気味に続けた。


【すなっち】「ところで無課金勢諸君!君たちも戦えるレベルになった。RPGと違って、連携と戦略次第では課金者だって倒せる。日々精進するように!」


 チャットが一瞬静まり返る。

 そして、次の瞬間、メンバー達が次々と反応する。


【ジャコウ】「うおお、無課金でもやれるんすか!?」

【カメール】「やった!俺でも貢献できるかも!」

【G2】「よーし、日課サボってた分取り返すぜ!」

【ぽよぽよ】「作戦考えるの楽しみになってきた!」

【すなっち】「そうだ、その意気だ。個人の力より、仲間との連携が勝敗を決めるんだからな」


 チャット欄は一気に活気づき、各自が自分のキャラクターや戦術を思い浮かべて準備を始める。

 その画面を眺めながら、砂畑はふっと微笑んだ。


「よし、これで次週はもっと面白くなる……間違いないな」


 北東銀区画の光を指で軽くなぞり、彼の夜は静かに更けていった。

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