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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第七章 ランスロットの物語

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第三十九話 敗者と勝者に残るもの

 主の間に残るダークキングのメンバーは、黒王とカノンのみ。


 対するは、王国騎士団の精鋭たち。

 ランスロット、ガウェイン達、そしてシンや鬼朱雀を止めたベディヴィア達。


【ランスロット】「黒王は俺が一人で抑える!」

【黒王】「俺を舐めるなよ!」


 ランスロットと黒王の死闘は続いていた。

 その声に全員が呼応し、一斉に駆け出した。


 黒王の一撃は嵐のように重く、ランスロットはたった一人でそれを受け止める。

 床が砕け、衝撃で壁が裂ける。だが、彼の瞳は一瞬たりとも逸れない。


 一方、カノンは血に染まった剣を振り抜き、迫る数人の騎士をたやすく薙ぎ払う。だが今度は、数の暴力が勝った。


【ガウェイン】「囲め! 一気に押し込め!!」


 ガウェインが指揮を取り、光の魔法が無数に飛ぶ。

 トリスタンが結界を張り、ベディヴィアが槍で足を止める。一瞬の隙を、レオネルが突いた。


【ガウェイン】「隙ありだ!!」


 カノンの身体がよろめき、その胸にガウェインの剣が突き立つ――。


【カノン】「…ふふ、中々楽しめたぞ」


 彼女が初めて膝をついた瞬間、背後で轟音が鳴り響く。黒王の拳がランスロットを吹き飛ばし、彼の身体が壁に叩きつけられた。


【トリスタン】「ランスロットさん!!」


 トリスタンの叫びがこだまする。だが、同時にカノンが崩れ落ちた。


【システム】《カノン 撃破》

【システム】《南銀大区画 勝者:王国騎士団》


 画面の隅に勝利の文字が浮かぶ。

 その瞬間、王国騎士団の勝利が決まった。


 勝利の文字が表示された瞬間、王国騎士団の陣営がどっと沸いた。

 歓声が響き渡り、画面のチャット欄も祝福の言葉で埋め尽くされる。


【ガウェイン】「やったぞ! 南銀、制圧完了だ!!」

【トリスタン】「ランスロットさんが食い止めてくれたおかげです!」

【ベディヴィア】「……ふぅ、これで一区切りか」


 騎士団たちは互いの健闘を称え合いながら、勝利の余韻に浸っていた。


【ジェイ】「すげぇ…マジでダークキング倒しちゃったのか!?」

【マーリン】「私達、とんでもないギルドに入ったみたいだね!」

【ガラハッド】「おうとも、王国騎士団はとんでもないのさ!!」


 撃破されていたメンバー達も大喜びだ。


 一方、敗れた《ダークキング》の主の間では、静かな時間が流れていた。


 黒王は拳をゆっくりと下ろし、倒れたカノンの傍へ歩み寄る。

 画面の光が揺らめき、カノンの姿が淡く消えかけていた。


【カノン】「……すまない、黒王」

【黒王】「楽しかったか?」

 その問いに、カノンは少しだけ笑みを浮かべる。

【カノン】「あぁ。けど……次は負けない」

【黒王】「そうか。……楽しかったかなら、よかった。次は勝とう」


 その言葉に、短い沈黙が落ちる。

 二人の間には、これまでとは違う何か、確かな絆のようなものが芽生え始めていた。


 しかし、その穏やかな空気を破るように、チャット欄が点滅する。


【まろん】「はぁ……だから言ったじゃん」

【まろん】「連携取れてなかったって」

【まろん】「次どうすんの?」

【まろん】「もう勝てないよ、こんなんじゃ」


 その愚痴に、誰も返事をしなかった。

 黒王は黙ったまま、ゆっくりと視線を逸らす。


 その夜、《ダークキング》のギルド掲示板には脱退の通知が相次いだ。

 たっちゃんパパ、琉韻love、そしてその他の常連メンバーたちの名前が、ひとつ、またひとつと消えていく。


 残された人数は、ついに十五人を下回った。

 最盛期の賑わいはもうない。それでも、黒王はログアウトのボタンに触れず、ただ静かに画面を見つめていた。


 まだ、終わっていない。

 そんな思いだけが、彼の胸に残っていた。


 戦いは終わった。画面の中で、勝利のエフェクトがゆっくりと消えていく。


 勝利は、パソコンの前で拳を握りしめていた。


「……よっしゃあ!」


 深夜の静まり返った部屋に、ひとりだけ小さく声を上げる。

 モニターに映る南銀大区画には、確かに王国騎士団の旗。


 その瞬間、胸の奥からこみ上げてくる達成感。

 長い間、仲間たちと挑み続けた戦いが、ついに実を結んだのだ。


 けれど、ふと我に返る。

 部屋の中には誰もいない。

 冷めたコーヒーと、鳴り止まない心臓の鼓動だけが残っていた。


「……40過ぎのおっさんが、ゲームでガチ喜びってな」


 思わず苦笑し、頭をかく。

 それでも、どこか誇らしかった。

 現実では得られない熱が、確かにここにあった。


 モニターの隅で、ギルドチャットが点滅する。


【ガウェイン】「南銀、完全制圧確認!」

【ベディヴィア】「やりましたね!」


 ランスロットは、静かにキーボードを叩いた。


【ランスロット】「来週、金大区画を奪う。」


 一瞬、チャットが止まり、すぐに歓声が返ってくる。


【ガウェイン】「了解!」

【トリスタン】「王国騎士団の進撃は止まらない、ですね!」

【ジェイ】「うおおおお、王国騎士団最高!!」


 銀大区画を制した今、彼らにはその資格がある。

 戦いは終わらない。

 だがその夜だけは、ランスロットの胸に静かな誇りが灯っていた。


ーーー 第七章 ランスロットの物語 完 ーーー

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