第三十九話 敗者と勝者に残るもの
主の間に残るダークキングのメンバーは、黒王とカノンのみ。
対するは、王国騎士団の精鋭たち。
ランスロット、ガウェイン達、そしてシンや鬼朱雀を止めたベディヴィア達。
【ランスロット】「黒王は俺が一人で抑える!」
【黒王】「俺を舐めるなよ!」
ランスロットと黒王の死闘は続いていた。
その声に全員が呼応し、一斉に駆け出した。
黒王の一撃は嵐のように重く、ランスロットはたった一人でそれを受け止める。
床が砕け、衝撃で壁が裂ける。だが、彼の瞳は一瞬たりとも逸れない。
一方、カノンは血に染まった剣を振り抜き、迫る数人の騎士をたやすく薙ぎ払う。だが今度は、数の暴力が勝った。
【ガウェイン】「囲め! 一気に押し込め!!」
ガウェインが指揮を取り、光の魔法が無数に飛ぶ。
トリスタンが結界を張り、ベディヴィアが槍で足を止める。一瞬の隙を、レオネルが突いた。
【ガウェイン】「隙ありだ!!」
カノンの身体がよろめき、その胸にガウェインの剣が突き立つ――。
【カノン】「…ふふ、中々楽しめたぞ」
彼女が初めて膝をついた瞬間、背後で轟音が鳴り響く。黒王の拳がランスロットを吹き飛ばし、彼の身体が壁に叩きつけられた。
【トリスタン】「ランスロットさん!!」
トリスタンの叫びがこだまする。だが、同時にカノンが崩れ落ちた。
【システム】《カノン 撃破》
【システム】《南銀大区画 勝者:王国騎士団》
画面の隅に勝利の文字が浮かぶ。
その瞬間、王国騎士団の勝利が決まった。
勝利の文字が表示された瞬間、王国騎士団の陣営がどっと沸いた。
歓声が響き渡り、画面のチャット欄も祝福の言葉で埋め尽くされる。
【ガウェイン】「やったぞ! 南銀、制圧完了だ!!」
【トリスタン】「ランスロットさんが食い止めてくれたおかげです!」
【ベディヴィア】「……ふぅ、これで一区切りか」
騎士団たちは互いの健闘を称え合いながら、勝利の余韻に浸っていた。
【ジェイ】「すげぇ…マジでダークキング倒しちゃったのか!?」
【マーリン】「私達、とんでもないギルドに入ったみたいだね!」
【ガラハッド】「おうとも、王国騎士団はとんでもないのさ!!」
撃破されていたメンバー達も大喜びだ。
一方、敗れた《ダークキング》の主の間では、静かな時間が流れていた。
黒王は拳をゆっくりと下ろし、倒れたカノンの傍へ歩み寄る。
画面の光が揺らめき、カノンの姿が淡く消えかけていた。
【カノン】「……すまない、黒王」
【黒王】「楽しかったか?」
その問いに、カノンは少しだけ笑みを浮かべる。
【カノン】「あぁ。けど……次は負けない」
【黒王】「そうか。……楽しかったかなら、よかった。次は勝とう」
その言葉に、短い沈黙が落ちる。
二人の間には、これまでとは違う何か、確かな絆のようなものが芽生え始めていた。
しかし、その穏やかな空気を破るように、チャット欄が点滅する。
【まろん】「はぁ……だから言ったじゃん」
【まろん】「連携取れてなかったって」
【まろん】「次どうすんの?」
【まろん】「もう勝てないよ、こんなんじゃ」
その愚痴に、誰も返事をしなかった。
黒王は黙ったまま、ゆっくりと視線を逸らす。
その夜、《ダークキング》のギルド掲示板には脱退の通知が相次いだ。
たっちゃんパパ、琉韻love、そしてその他の常連メンバーたちの名前が、ひとつ、またひとつと消えていく。
残された人数は、ついに十五人を下回った。
最盛期の賑わいはもうない。それでも、黒王はログアウトのボタンに触れず、ただ静かに画面を見つめていた。
まだ、終わっていない。
そんな思いだけが、彼の胸に残っていた。
戦いは終わった。画面の中で、勝利のエフェクトがゆっくりと消えていく。
勝利は、パソコンの前で拳を握りしめていた。
「……よっしゃあ!」
深夜の静まり返った部屋に、ひとりだけ小さく声を上げる。
モニターに映る南銀大区画には、確かに王国騎士団の旗。
その瞬間、胸の奥からこみ上げてくる達成感。
長い間、仲間たちと挑み続けた戦いが、ついに実を結んだのだ。
けれど、ふと我に返る。
部屋の中には誰もいない。
冷めたコーヒーと、鳴り止まない心臓の鼓動だけが残っていた。
「……40過ぎのおっさんが、ゲームでガチ喜びってな」
思わず苦笑し、頭をかく。
それでも、どこか誇らしかった。
現実では得られない熱が、確かにここにあった。
モニターの隅で、ギルドチャットが点滅する。
【ガウェイン】「南銀、完全制圧確認!」
【ベディヴィア】「やりましたね!」
ランスロットは、静かにキーボードを叩いた。
【ランスロット】「来週、金大区画を奪う。」
一瞬、チャットが止まり、すぐに歓声が返ってくる。
【ガウェイン】「了解!」
【トリスタン】「王国騎士団の進撃は止まらない、ですね!」
【ジェイ】「うおおおお、王国騎士団最高!!」
銀大区画を制した今、彼らにはその資格がある。
戦いは終わらない。
だがその夜だけは、ランスロットの胸に静かな誇りが灯っていた。
ーーー 第七章 ランスロットの物語 完 ーーー




