第三話 魔法使いスカイ、ギルドデビュー!?
杖とはいえ黒曜石。木刀よりはだいぶ攻撃力が高い。
とはいえ、スカイには魔法の使い方などわからない。
「まぁ、そのうち使えるようになるっしょ」
軽く呟きながら、ストーリーメニューを開く。
ストーリー4:ガチャを回す(済)
ストーリー5:装備の変更(済)
ストーリー6:洞窟ダンジョン地下2階到達
「……あれ? もう二つ終わってんの?」
無意識のうちに条件を満たしていたらしい。
画面には新しい目的地・洞窟ダンジョンの文字が光っている。
「よし、行ってみるか」
スカイは黒曜石の杖を握り直し、薄暗い洞窟の入り口へと足を踏み入れた。
地面には青白い鉱石が点々と光り、奥からは不気味な唸り声が響いてくる。
その危うさが妙にワクワクさせた。
洞窟ダンジョンに入ると、最初に現れたのはゴブリンと大蝙蝠だった。しかし、どちらも攻撃を受けても被ダメージは「1」。
スカイが黒曜石の杖で軽く殴るだけで、一撃で沈んでいく。
「……え、これ強くね?」
木刀で苦戦していたのが嘘のようだった。そのまま楽々と地下二階に到達し、もう少し行ける気になり奥へと進む。
そこで異様な気配を感じた。
黒い霧の中から、朽ちた鎧をまとった剣士がゆっくりと現れる。名前の表示は、死人剣士。
「うわ、なんか嫌な予感しかしねぇ…」
構える間もなく、死人剣士が剣を振り下ろす。
重い衝撃でHPが半分ほど削られる。
だが、スカイも必死に杖を叩きつけ、ギリギリの攻防の末にこれを撃破した。
息を整え、洞窟を出て安全地帯に戻る。
画面を開くと、新たなストーリー項目が表示されていた。
ストーリー7:レベルアップする
ストーリー8:ジョブチェンジする
ストーリー9:チャットに書き込み
「お、やっとレベル上げか」
ストーリー7をクリックして詳細を確認する。
そこにはこう書かれていた。
自分の安全地帯で眠ることで、それまでに得た経験値を吸収し、レベルが上がります。
※死亡した場合、所持していた経験値は失われます。
「寝たら強くなるって、なんか昔のゲームみたいだな……」
スカイはベッドに倒れ込む。瞬間、視界が白く染まり、レベルアップの通知が流れた。
レベルが3に上がりました!
ステータスポイントを9獲得しました!
「おぉっ……ちゃんと上がってる!」
テンションが上がる。
さらに画面には新たな項目“ジョブチェンジ”が解放された。
「ついに来たか、職業選択!」
一覧には、剣士・騎士・戦士・盗賊・魔法使い・僧侶、そして初期職の“ニート”が並ぶ。
説明欄を見ると、初期職の“ニート”にはこうあった。
【ニート】全装備可能だがスキルなし。やる気も特になし。
「いや、やる気くらい出せよ……」
本音を漏らしながら、スカイは画面をスクロールする。
本当は“剣士”になりたかった。
刀を振って敵を一閃、そんな爽快な戦闘スタイルに憧れていたのだ。
しかし、現実は…
「杖と魔導書しか持ってねぇ……」
所持品を見て、ため息をつく。
とはいえ、ジョブはあとで何度でも変えられるらしい。ならば、今はガチャの結果に従おう。
「……仕方ない、魔法使いで行くか」
決定ボタンを押した瞬間、淡い光がスカイの体を包んだ。ローブの裾がふわりと揺れ、杖がかすかに光を帯びる。
ジョブが【魔法使い】になりました。
「……なんか、ちょっと強そうじゃね?」
そう呟いた彼の顔には、ほんの少しだけ自信の色が浮かんでいた。
魔法使いへの転職を終えたスカイは、次の項目に目をやった。
ストーリー9:チャットに書き込み
「ついに……他のプレイヤーと交流か!」
少し胸が高鳴る。
これまではNPCとしか関わっていなかったが、ここからが本番…そう思うと、緊張と期待が入り混じる。
メニューから“全体チャット”を開くと、画面の右下に文字が流れていく。
雑談、取引、攻略情報……ログは高速で流れ、目で追うのも一苦労だ。
スカイは深呼吸して、キーボードを叩いた。
「はじめまして! 初心者です!」
送信。
数秒の沈黙。
……そして、画面に変化はなかった。
(……あれ?)
もう一度チャット欄を見る。
自分の発言はちゃんと表示されている。
けれど、誰も反応しない。
ログは、他プレイヤーたちの雑談で瞬く間に流れ去った。
「BOSSドロップ率下がってね?」
「マジ?パッチ入った?」
「ギルメン集合、塔走るぞ」
「…………」
スカイは小さくため息をついた。
初めてネットの世界に放り込まれた“新人”が味わう、あの疎外感。
声をかけたのに、誰も振り向かない。
画面の向こうの世界は広く、冷たかった。
「……ま、そうだよな。俺、無名の雑魚だし」
肩をすくめつつ、次のストーリーを確認する。
ストーリー10:ギルド加入
「ギルドか……。一人じゃ限界あるし、入っといたほうがいいよな」
画面にいくつかのギルド募集が並ぶ。
【王国騎士団】加入条件:レベル20以上・承認制
【DARK KING】加入条件:要ボイス面接
【エターナル】満員
【サンドフォール】承認制
「うわ……ガチ勢だらけじゃん」
初心者のスカイにとって、どのギルドも敷居が高く見えた。それでもスクロールを続けていくと、ひとつだけ目に留まった。
【フローライト】自由参加・初心者歓迎・まったり
「……ここにしよ」
特別な理由はなかった。ただ、名前の響きが柔らかくて、少しだけ惹かれたのだ。
参加ボタンを押すと、すぐにシステムメッセージが表示された。
ギルド「フローライト」に加入しました。
数秒後、チャット欄にメッセージが飛び込んでくる。
【ココア】「あ、新しい人! ようこそフローライトへ〜!」
【そる】「よろしく。気楽にいこう」
「え、もう反応きた!?」
スカイは思わず笑った。チャット欄が温かくて、画面越しなのに空気が柔らかい。
どうやらこのギルド、メンバーは五人。
大手ギルドとは比べものにならないほど小規模。
だけど、そこには確かな“居場所”の匂いがした。
【スカイ】「はじめまして、初心者です。よろしくお願いします!」
【ココア】「うんうん、こちらこそ! わからないことあったら何でも聞いてね!」
ギルドマスターのココアは、明るくて気さくな女性プレイヤーのようだった。まるでリアルの部活に入ったような、不思議な安心感。
その夜、スカイは初めて“オンラインの世界にいる自分”を少しだけ実感した。
強くもないし、知識もない。それでも、この世界で何かが始まりそうな気がしていた。




