第三十七話 もう、戻れない
双剣イビル・イン・ライト。
片刃は闇を、片刃は光を宿す、相反する力の象徴。
その刃を構える男、ペイン。
彼の前に立つのは、かつての仲間。
ジェイとマーリン。
今は別のギルドに属していても、その絆はかつて《エターナル》で共に過ごした日々に結ばれていた。
【ジェイ】「どうしてだ、ペイン。あのとき何も言わずに、突然ギルドを解散して、よりによって敵だったダークキングに入るなんて」
その声には、怒りと悲しみが入り混じっていた。
マーリンが杖を握り締めながらも、どこか震えるような声で続ける。
【マーリン】「ももさんと何があったって、私達は気にしない、するわけないのに!」
ペインの瞳がかすかに揺れる。
だが次の瞬間、双剣が抜かれた。
闇と光が交差し、空気がざらつく。
【ペイン】「笑わせるな。ももが暴露した途端、誰も俺の言葉を信じなかった。お前たちも軽蔑してたろ」
【ジェイ】「違う!確かに驚いたけど、そんなこと関係ねぇよ!」
【ペイン】「黙れ!!」
轟音。イビル・イン・ライトが唸りを上げ、ジェイの槍と衝突する。閃光と衝撃が交差し、床が砕けた。
【マーリン】「ペイン! あなたは前にこう言った!ギルドは仲間の信頼で成り立つって!」
【ペイン】「信頼なんて壊れるのは一瞬だった!」
ペインが地を蹴る。
闇と光の残光を引きながら、左右の斬撃が連続して襲いかかる。ジェイは防御で受け流し、マーリンは距離を取りながら詠唱を開始。
【マーリン】「ディバイン・シェルター!」
光の盾が展開し、攻撃を受け止める。
しかし〈イビル〉がそれを裂き、〈ライト〉が閃く。
その斬撃は、まるで自分の理想を斬り捨てるかのようだった。
【ジェイ】「お前、まだ信じてるんだろ? 本当は!」
【ペイン】「信じるものなんてない!」
【ジェイ】「あるさ!だから戦ってるんだろ!」
その言葉に、ペインの手が一瞬止まる。
双剣の切っ先が、ジェイの喉元で止まっていた。
【マーリン】「あなたがギルドを壊したのは裏切りなんかじゃない。傷つく仲間を、守りたかっただけでしょ。ももさんの暴露でギルドが壊れるくらいなら、自分の手で終わらせた方がマシだって、そう思ったんじゃない?」
静寂。
炎のようだったペインの瞳が、少しずつ揺らぐ。
マーリンの言葉が、過去の映像を呼び起こす。
ギルドチャットで飛び交う罵声。
去っていく仲間たち。
そして、自分の手で解散の告知を打った夜。
【ペイン】「あの日、何を守ったんだろうな。
俺は、何を信じてたんだ」
【ジェイ】「もう一度、信じればいい。エターナルは無くなったけど、俺たちが残ってる!」
ジェイが槍を下げる。
戦意ではなく、再び仲間として語りかけるように。
マーリンも杖を下ろし、静かに頷いた。
【マーリン】「あなたのせいで終わったわけじゃない。あなたがいたから、私たちはここまで来れたの。
だから、戻ってきて……ペイン。」
しかしペインは、自らの感情を押し殺す。
もう、戻れない。
そう思い込んでいる人間に、言葉は届かない。
【ペイン】「うるせぇ!!もうほっといてくれ!!」
咆哮とともに双剣が舞う。
闇と光が交差し、〈天魔双乱〉が発動する。
猛烈な斬撃が、ジェイとマーリンを襲う。
二人は防ぐ間もなく地面に倒れる。
攻撃は容赦なく、しかし決して憎しみだけではなく、まるでペイン自身の迷いや怒りを切り裂くための刃のようだった。
【システム】《ジェイ 撃破》
【システム】《マーリン 撃破》
戦いが終わると、ペインは双剣を胸の前で構えたまま立ち尽くす。振り向くこともなく、追うこともせず、ただそこにいる。
汗と血で光る床を見つめながら、長い沈黙が訪れる。
【ペイン】「……もう誰も、俺に関わるな」
それだけ告げると、ペインはその場に佇み、動かない。ジェイとマーリンが倒れている間も、彼の心は自らの決断の重みを噛み締めていた。
裏切りでも救済でもなく、ただ自分自身の存在を貫くための選択。
その姿は、もはや過去のギルドマスターではなく、
誰にも縛られない独立した戦士・ペインそのものだった。
一方、主の間扉前。
ギルドチャットに《ジェイ 撃破》《マーリン 撃破》の通知が流れると、まろんは頬を吊り上げて高笑いした。
【まろん】「ははは!元エターナルの二人、もう終わりかよ!」
【琉韻love】「ちょっと、まろんさん、笑いすぎ……」
まろんは楽しげに剣を回転させ、ジェイとマーリンの撃破をバカにするように言葉を重ねた。
【まろん】「いやー、でもペインの奴も時間かけすぎだよな!俺が本気出したら、もっと早いけどw」
【たっちゃんパパ】「この調子で、侵入者もまとめて蹴散らすか」
敵も味方も笑いながらバカにするその態度に、扉前で対峙するガウェインの顔がみるみる紅くなる。
【ガウェイン】「ふざけるなあああ!!!俺たちはお前みたいなクズに、泣き寝入りするためにここに立ってるんじゃねぇ!!!」
怒りに震える剣士の声が、扉前の戦場に轟く。
【まろん】「あ?俺に偉そうな事言っていいのは、俺より強い黒王様とカノンさんだけだぞ?雑魚がイキってんじゃねぇ!!」
戦いはまだ始まったばかり。
まろん達とガウェイン達の戦いは、確実に火花を散らすことになる。




