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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第六章 ペインの物語

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第三十三話 崩壊、闇堕ち

 翌日。

 ギルドチャットは、珍しく朝からざわついていた。

 ペインがログインすると、すでにログが数件流れていた。


【もも】「水曜日、ペインとリアで会ってたんだ〜♡ゲームでもリアルでも息ぴったり♡」


 その一文で、空気が変わった。


【ノイス】「は?」

【リオン】「リアって……どういう意味?」

【Mira】「ももさん、それ本当なの?」

【ジェイ】「……マジで言ってんのか?」


 悠平の視界が一瞬で暗くなる。

 頭の中で、鼓動の音だけが響いた。


(やめろ……頼む、黙ってくれ……)


 だが、ももは止まらなかった。

 嬉々とした様子で、さらに余計なことまで話し始める。


【もも】「だって〜、私たちもうただのギルド仲間じゃないでしょ?」

【リオン】「うわ……」

【ノイス】「ないわ」


 次々と、脱退ログが流れる。


【システム】《ノイスがギルドを脱退しました》

【システム】《リオンがギルドを脱退しました》


 言葉が出なかった。

 昨日の勝利も、あの興奮も、すべて遠い過去の幻のように思えた。


(違う……そうじゃない……)


 チャット欄に何かを打とうとして、指が止まる。

 何を言っても、もう信じてもらえない気がした。

 残ったジェイとMiraも、明らかに気を使っている。


【ジェイ】「まあ……色々あるけど、落ち着いたら話そうや」

【Mira】「うん……ペインさん、無理しないでね」


 やさしい言葉が、逆に胸を締めつけた。

 彼らの気遣いは、もはや信頼ではなく同情だった。


(……終わったな)


 画面の中でペインは、ギルドマスターの称号を背負ったまま立ち尽くしていた。

 だが、その背中は、もう誰もついてこない。


【ペイン】「……解散しよう」


 その一言で、エターナルは消滅した。

 画面の中央に表示される「ギルドが解散されました」という無機質な文字。

 たった数秒の操作で、築き上げてきたものがすべて失われた。


 個人チャットの通知が鳴る。

 ももからだった。


【もも】「え?なんで?どうしたの?」

【もも】「私、なんか悪いことした?」


 空気の読めないメッセージに、ペインは何も返さなかった。

 画面を閉じ、無言でフィールドに出る。

 行き先も決めず、ただ砂地のマップを彷徨う。

 現実からも、ゲームからも、逃げるように。


 また通知。

 今度はジェイ。


【ジェイ】「突然解散はないっすよ。俺はべつに気にしてなかったのに。ふざけんな」


 続けて、Miraからも。


【Mira】「最低。勝手に終わらせないで」


 罪悪感が胸を焼いた。

 けれど、もう何を言っても遅い。

 自分が壊した。自分で終わらせた。

 何も、残らなかった。


(……消えたい)


 けれど、課金総額が頭をよぎる。

 このゲームに注ぎ込んだ金、時間、感情。

 それを無にするには、まだ踏ん切りがつかない。


 そこへ、また通知が灯る。


(こんどは誰だ、もうほっといてくれ)


 そう思いながら個人チャットの画面を開く。


【黒王】「いま、話せるか?」


 その名前を見た瞬間、ペインの指が止まった。

 《DARK KING》のギルドマスター、黒王。

 かつて敵対し、そして、どこかで認めていた男。

 闇の中、ペインはゆっくりと返信画面を開いた。


 ペインは、震える指でスマホを握りしめたまま、起こった事をありのまま黒王に打ち明けた。

 ギルド解散、ももの暴走、メンバーの脱退…すべて。


 きっと、誰かに聞いて欲しかったのだろう。

 現実でも、ゲームでも、もう誰も信じられない。

 そんな孤独の中で、彼は宿敵であり、最大のライバルである黒王にだけ、自分の弱さを曝け出した。


【黒王】「気にするな。そんなことより、ギルド無所属となったなら、貴様はもう敵ではない」


 ペインは、その言葉の意味を理解する。


【黒王】「うちに来い。共に伝説を築くぞ」


 黒王の言葉は、重く、しかしどこか温かかった。

 ためらいながらも、ペインは返信する。

 そして、ダークキングの一員として画面上に再び自分の名前が浮かぶ。


 こうしてダークキングは、さらなる強固な勢力となった。

 サーバー総合力ランキング・一位のカノン、三位の黒王、五位のまろん、そして六位のペイン。

 各々の実力者が集まり、戦場での影響力は以前より圧倒的になった。


 そして彼らは、ダークキングの《四天王》と呼ばれるようになる。


 画面の中で戦況を確認しながら、ペインはふっと息をつく。

 もう、現実もゲームも関係ない。

 すべてがどうにでもなればいい、という感覚が胸を支配していた。


「……もう、どうにでもなりやがれ」


 その言葉を呟き、彼は静かに次の戦場へと指を伸ばした。

 暗い部屋の片隅、カップ麺の匂いがまだ残る現実と、スクリーン上の戦場が、今、静かに交錯していた。


 ーーー 第六章 ペインの物語 完 ーーー

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