第二話 新規ボーナス!UR装備ガチャ10連!?
新規ボーナスでもらったUR装備ガチャ10連を回すため、空也は部屋に向かった。
宿題も終わらせ、洗い物も片付け、風呂も済ませた。あとは寝るだけ。そんな状態だ。
リビングの廊下から、父親が顔を出す。
「ん? 寝るの早くね?」
空也は肩をすくめて答えた。
「部屋で、大地から教えてもらったゲームやるんだ」
父親は小さく笑い、含みを持たせて訊ねる。
「……エロ?」
「ちげーよ!」
空也は即座に否定した。
自室に戻ると、机の上のノートパソコンを起動する。
「スマホでもできるけど……どうせなら画面が大きいほうがいいよな」
《サンドボックスウォーズ》はPCとスマホの両方に対応しており、同じアカウントでデータを共有できる。大地は主にスマホ派らしいが、空也は家では断然PC派だった。
アカウント登録を済ませ、スマホで作ったキャラデータを同期。画面の中に、自分の分身「スカイ」が現れる。
「おお……思ったよりリアルだな」
軽く興奮しながら、空也はマウスを握りしめた。
そして、ゲームのメニューを開き、まずは新規プレイヤー特典のUR装備ガチャを回そうとした。だが…
《ガチャ機能はストーリー3クリア後に解放されます》
という無情なメッセージが画面に浮かび上がる。
「うわ、そういうやつか……」
仕方なく、スカイの初期装備を確認する。
初期装備
武器:木刀
盾:なし
頭:なし
胴:革の服
腕:なし
足:革のズボン
靴:スニーカー
装飾:なし
「弱っ……」
思わず口に出すが、今はチュートリアルだ。まずはストーリーで操作を覚えるしかない。
ストーリー1:建設素材集め
ストーリー2:小屋の建設
ストーリー3:モンスター討伐
木刀を握り、スカイは最初のフィールドへと駆け出した。
木々が生い茂る森。陽光が葉の隙間から差し込み、鳥の鳴き声が響く。
スマホでは味わえないほどの精細なグラフィックに、思わず見入ってしまう。
画面右下では、ワールドチャットが絶え間なく流れていた。
「ギルド募集! 社会人中心でまったり勢!」
「おい誰だよ、拠点壊したの!」
「今夜のギルドバトル実況やるぞ!」
「ダークキング戦は見ない」
「初見さんいらっしゃーい!」
ログは一秒ごとに更新され、まるで現実の街の喧騒のように賑やかだ。
「……盛り上がってんなぁ」
スカイはチャットウィンドウを一度開いたものの、すぐ閉じた。
まだ右も左もわからない。まずは一人で慣れるのが先だ。
指示どおり、木を伐採して素材を集める。
木を叩くたびに、軽快なエフェクト音が鳴る。
《木材を入手しました ×3》
《木材を入手しました ×7》
「お、けっこうサクサク集まるな」
素材を集め終えると、画面にクラフトメニューが表示される。
小屋の設計図を選び、木材を配置していく。
十秒後、完成。
「木の枝十個で小屋完成とか、さすがゲームだな。現実なら雨降ったら終わりやん」
スカイは自分の拠点に入って苦笑した。
屋根こそあるが、どう見てもただの板小屋だ。
次のストーリー目標が表示される。
ストーリー3:モンスター討伐
「よし、いっちょやってみるか」
木刀を握り、森の奥へ。
木陰の向こうから、緑色の小さな影が現れる。
ゴブリン。
「出た出た。どのゲームでも最初の雑魚敵だよな。楽勝っしょ!」
勢いよく突っ込み、木刀を振り下ろす。しかし…
ドンッ!
ゴブリンの棍棒が直撃し、画面の縁が赤く染まる。
HP 4/10
「はー!? 俺、二確!?」
焦って距離を取ろうとするが、次の一撃がもう迫っていた。その瞬間。
ズガァン!
視界の端から現れた巨大なハンマーが、ゴブリンを粉砕した。衝撃波で木の葉が舞い上がり、残光が消える。
「あの……大丈夫?」
振り向くと、漆黒の鎧をまとった男のキャラクターが立っていた。手には禍々しい紋様が刻まれた戦鎚。圧倒的な存在感だ。
「あ、ありがとうございます……! 俺はスカイです。今日、始めました」
「僕はオニッシュ。…新規ボーナスのガチャ、回した方がいい。ゴブリンに苦戦することは、なくなるよ。それじゃ」
そう言い残し、オニッシュは振り返ることなく森の奥へと消えた。
名前の横に表示されたランクは、金色の“S”。
さっき大地と見ていたランキングに載っていた、あのプレイヤーだった。
スカイは呆然と、その背中を見送る。
「マジかよ。いきなり上位プレイヤーに会うとは…」
画面には《ストーリー3クリア》の文字。
同時に、封印されていたガチャボタンが光を放った。
ログインボーナスの案内をスキップし、スカイは待ちに待った“UR確定ガチャ10連”のページを開いた。
金色の魔法陣が回転し、画面いっぱいに光が走る。
「おおっ……!?」
眩しい虹色のエフェクトとともに、次々とアイテムが表示されていく。
見慣れない名前と派手なデザインばかりで、良いのか悪いのか全く分からない。
「……わかんねぇ」
スカイはPCの画面をスマホで撮って、大地に送信した。
数分後、既読が付き、返事が届く。
『…サーバー替えれば1からやれるよ』
「え、ハズレってこと??」
苦笑しながら、スカイは椅子の背もたれに体を預けた。やり直す気にはなれない。
オニッシュ。
さっき助けてくれた、あの漆黒の戦士の名が、頭に浮かぶ。名前だけでなく、落ち着いた感じも、短い一言の重みも印象に残っていた。
「あんなかっこいい人と、もう一回会ってみたいな……」
きっと歳上だろう。
あの丁寧な口調からして、頭の切れるタイプに違いない。落ち着いたインテリ系…いや、現実でもスーツとか似合いそうだ。
妄想が広がるほどに、やめる理由がなくなっていった。
「……このサーバーで行くか」
気合を入れ直し、装備画面を開く。
【スカイの現在装備】
武器:黒曜石の杖(魔力アップ)
盾:なし
頭:青天の鉢巻(速さアップ)
胴:みかわしガウン(低防御・回避アップ)
腕:ドラゴングローブ(攻撃アップ・回避ダウン)
足:岩龍の足鎧+1(高防御・回避ダウン)
靴:スーパーハイヒール(おしゃれアップ・速さダウン)
装飾:我慢の宝玉(被ダメージに応じ攻撃力上昇)
「……なんだこのバランス。てかおしゃれってなんだよ」
軽装なのか重装なのか分からない、ちぐはぐなステータスに頭を抱える。
さらに引いたアイテムの中には、
“火炎の杖”と“天雷の魔導書”。どちらも魔法使い向けの装備が入っていた。
岩龍の足鎧は被ったが、どうやら被った武器は合一化され強くなるらしい。+の数は、合一化数というわけだ。
「俺、近接派なんだけどなぁ……」
ため息をつきつつ、再びフィールドへと向かう。
装備の性能はちぐはぐでも、心は不思議と前向きだった。
あの人に、もう一度会える気がする。




