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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第五章 そるの物語

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29/90

第二十八話 こっちに来てよかった

 日曜日は午後九時からレイドが予定されている。

 旅人である椿とRainは、このレイドが終わったら、また別のギルドへ移るつもりだ。


 陽太は朝から昼過ぎまでパチンコ店で遊び、午後からはずっと《サンドボックスウォーズ》にログインしていた。


 日曜日とはいえ、昼間からログインしているメンバーは少なく、ゆず、むー、ハルトしかいなかった。


【そる】「レイドに向けて、ちょっとでも強くなっとくか」

【ゆず】「いいね」

【むー】「援護は任せてください」


 そるの提案で、4人パーティは洞窟ダンジョンへと向かうことになった。


 ハルトは槍を手にし、盾は持たず機動力重視で立ち回る。ゆずとむーもそれぞれ武器を構え、そるを先頭にパーティは慎重に洞窟の奥へと進んでいった。


【ハルト】「なんか、ドキドキするな…ダークキングのときは探索パーティに参加させてもらえなかったんで…」

【そる】「エグ、そんなギルド強くても行きたくないわ!」

【ハルト】「ハハハ、間違いないです。やめて正解でした」


 洞窟の中は薄暗く、足元の岩肌がひんやりと光る。湿った空気に混じって、遠くからモンスターの低いうなり声が聞こえてくる。


【そる】「よし、まずは周囲の様子を探る。慎重にな」

【ゆず】「了解。罠もありそうだし」


 最初の部屋に入ると、岩陰からゴブリンの小集団が飛び出してきた。

 素早く間合いを詰めるハルト。槍を振りかぶり、盾がない分のリーチを活かして敵を薙ぎ払う。


【ハルト】「こっち、任せてください!」

【むー】「援護します!」


 矢が飛び交い、ゴブリンたちは次々と倒されていく。


 そるは回復の詠唱を唱えつつ、味方の体力を整えながら、ゴブリンを押し返す。

 ハルトは機動力を生かし、敵の間を縫うように突進。盾がない分の隙も、攻撃の素早さで補っていた。


【ゆず】「ハルト、思ったより動きがいいな!」

【ハルト】「えへへ、やっと役に立てる感じです」


 さらに奥に進むと、中型モンスターのスケルトンが現れた。

 そるのメイスが光を帯び、前衛のハルトが槍を突き出す。スケルトンは二度の突きで倒され、パーティは無事に部屋を制圧。


【そる】「ふぅ、悪くない動きだな」

【ハルト】「ありがとうございます。やっぱり動くのは楽しいです」

【ゆず】「このまま行けば、レイド前にかなり経験値稼げそうだね」


 ランキングには程遠くても、ハルトは十分にゆず並みの戦力を発揮できることが、この洞窟探索で証明されたのだった。


 洞窟の地下3階、最奥の広間に差し掛かると、空気が一変した。

 暗黒の魔力が渦巻き、石壁には黒い霧が漂う。中央には、ボス・ネクロマンサーがゆらりと立っていた。


【そる】「来たな……皆、気を引き締めろ!」

【ゆず】「よし、私も全力でいく」

【ハルト】「後ろから支援します!」

【むー】「弓で援護します!」


 ネクロマンサーが黒いオーラを放ち、骸骨の群れを召喚。

 そるは大天使のメイスを振り上げ、前方の骸骨を薙ぎ払う。


【そる】「回復も援護も一気に行くぞ!」

 光の一撃が連鎖し、ハルトやゆずを援護。ハルトは機動力を活かしてボスの注意を引きつけ、前衛として立ち回る。


【ハルト】「来い!全部任せてくれ!」


 ネクロマンサーの魔法攻撃をかわしつつ、槍で突き、敵を押し返す。そして、ゆずが刀で斬りかかる。


【ゆず】「受けてみろ!」


 そるの支援魔法とゆずの一撃が連動し、ボスのHPは急速に減っていく。


【そる】「ゆず、今だ!」

【ゆず】「了解、一文字!!」


 ゆずの刀が真横に一閃。最後の一撃が決まり、ネクロマンサーは崩れ落ち、闇の力が消え去った。


 ボス撃破の報酬として、ドロップアイテムが光を放つ。

 その中には、霊属性特効の刀・魂穿(たまうがち)があった。

 ゆずがそれを手にし、戦力が大幅に底上げされたことを、パーティ全員が確認する。


【ゆず】「これで、レイドでも一歩リードできるな」

【そる】「いい調子だ、次はレイドだ!」


 探索を終え、パーティは笑顔で洞窟を後にする。

 ハルトの成長も確かめられ、ゆずの戦力向上もあって、午後の練習は大成功に終わったのだった。


 夜九時。

 週末恒例のレイドが、静寂を破って幕を開けた。


 今回フローライトが挑む標的は星3レイドボス、ヴァンパイアロード。高魔防・高再生・吸血の三拍子が揃った、まさに悪夢の支配者。


 古城前に、フローライトの十二人が並ぶ。

 オニッシュ、椿、Rain、White、ココア、そる、ゆず、ハルト、むー、Gemini、タイガー、スカイ。

 全員、最終装備での出陣だ。


【スカイ】「よっしゃ、全員集合だ!行くぞ、フローライト!」


 掛け声と同時に、転送陣が輝き、闇に沈む古城の大広間へ。血のような月光が差し込む中、玉座から漆黒の影がゆっくりと立ち上がる。


 ヴァンパイアロード。

 長く伸びた爪と紅眼が、まるで獲物を歓迎するかのように光った。


【オニッシュ】「正面は任せろッ!」


 巨大ハンマーを構えた男が、一直線に突っ込む。

 一撃で床を割り、衝撃波が闇の結界を吹き飛ばした。


【White】「後衛、距離取れ!盾で押さえる!」


 槍と大盾を構え、オニッシュの隣で受けの姿勢を取る。防御の要は彼だ。


【椿】「隙あり――」


 刀が風を裂く。

 椿は一閃ごとに位置を変え、影のようにヴァンパイアの死角を斬り刻む。


【Rain】「水流、拘束!」


 上級水魔法アクア・ドミネイトが発動。

 水柱が螺旋を描き、吸血鬼の動きを封じた。


【ココア】「私の十八番(おはこ)!」


 背後からの一撃。ココア必殺のバックスタブが大ダメージを与える。


【そる】「前衛回復、同時に強化を上げる!」


 殴りながら癒すその戦闘スタイルは、まさに“物理型僧侶”の異端。


【ゆず】「突破口、開ける!」


 霊光の刃が闇を裂き、ヴァンパイアの右腕を切り落とす。


【ハルト】「合わせます!」


 長槍を構えたハルトが、ゆずの一撃に連動して突きを放つ。槍先が、敵の心臓をかすめた。


【むー】「上から援護射撃いくよ!」


 弓使いむーの矢が、連続で降り注ぐ。的確に翼を貫き、空中行動を封じる。


【Gemini】「風よ、裂け!」


 詠唱と同時に疾風が走り、広範囲を巻き込む。


【椿】「繋げる!」


 風魔法で敵を浮かせ、椿の斬撃へと繋げる。まさに理想的な連携。


【タイガー】「俺の出番だッ!」


 巨斧を振りかざし、渾身の縦斬り。

 その一撃でヴァンパイアの防壁が砕け、血霧が舞う。


【スカイ】「今だ、エルフレイム!」


 火魔法使い・スカイの詠唱が完成。

 地を這う炎が広がり、全ての攻撃が一点に集中する。


【オニッシュ】「決める!アースブレイク・イクリプス!!」


 大地を砕く轟音。炎と重撃が交差し、闇の王は断末魔を上げて崩れ落ちた。誰もが息をのみ、やがてチャットが一斉に光る。


【むー】「全員生存!やった!」

【ココア】「ふふ、完璧な流れだったね」

【そる】「支援も連携も文句なし」

【スカイ】「これで星3制覇、達成だ」


 報酬ウィンドウには、

 《真紅の指輪》《月影の翼布》《古城の勲章》

 三つの金枠アイテムが並んでいた。


【ハルト】「こっちに来てよかった」


 ハルトのその言葉に、一行は笑顔になった。

 フローライトは結成以来初の星3レイド完全勝利を記録。チャット欄は祝福と笑いで埋まり、それぞれの画面の向こうでは、静かな達成感が灯っていた。

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