第二十五話 サーバー初期はそんなもん
火曜日の夜。
ログインしていたのは、そる、ココア、White、Gemini、ゆず、椿、そしてRainの七人だった。
ギルド拠点の焚き火が、揺らめいている。
【ココア】「最近、新規ぜんぜん来ないねぇ」
【White】「まぁ、今はどこもそうだろ。みんな新サーバーに振り分けられる」
【Gemini】「無課金の人は無言ギルドとかソロ専に流れるからね」
【ゆず】「でも、せっかくだし少し募集してみる?」
そるは考えながら、焚き火の炎を見つめた。
確かに最近、チャットも静かで、拠点に集まるメンバーも減っている。
けれど、少し前の出来事を思い出すと、簡単に首を縦には振れなかった。
【ココア】「あー……前に入ってきた人のこと?」
【Gemini】「あの人、すぐ女の人いる?とか聞いてきたよね……」
【ゆず】「一日で抜けたけど、正直ちょっと怖かった」
焚き火の光がパチリと弾ける。
短い沈黙のあと、そるがゆっくり口を開いた。
【そる】「ああいうの、もうやめよう。誰でもいい、って書くと本当に誰でも来る」
【ゆず】「だね。今のメンバー、大事にしたいし」
しばしの静寂。
やがて、ココアが明るい声を上げた。
【ココア】「じゃあ募集文、ちょっと変えよっか!」
【そる】「そうだな……居場所がほしい人、話しながらのんびり遊べる人歓迎」
【White】「“最低限のマナーが守れる方のみ”も入れとけ」
【Gemini】「おお、それいい。優しいけど、ちゃんと線引いてる」
画面の中で文字が更新され、ギルド紹介文が新しく光を放つ。
短い言葉だったが、そこには彼らの思いが詰まっていた。
【椿】「なるほどな…強さより、数より、絆を選ぶか」
【Rain】「これがフローライトの強さだね」
そるは無言で頷き、モニター越しに仲間たちのアバターを見渡した。
数は少なくてもいい。
心地よい空気と、信頼できる仲間がいれば、それだけで十分だった。
焚き火の火がぱちぱちと弾け、夜の風が木々を揺らす。
【そる】「……結局、ダークキングの一強でサーバー過疎が進んでるんだろ?」
その言葉に、少しの沈黙が落ちる。
やがて、Whiteが穏やかな口調で応えた。
【White】「確かにそうだ。だが、彼らのような存在が不要とも言い切れない」
【そる】「……どういう意味だ?」
【White】「似たタイプのMMOでも、最初はだいたい一強サーバーになる。だが、不思議なことに、ある時期を境に自然と収束していくんだ」
【Gemini】「あー……確かに。前にやってたゲームもそうだったかも」
【White】「そう。それに、圧倒的な存在がいることで、他のプレイヤーのモチベーションが上がることもある。あいつらを倒したいってな」
焚き火の明かりに照らされたWhiteのアバターが、静かに腕を組む。
その姿に、ギルドメンバーたちは耳を傾けていた。
【White】「ただし、あそこまでの悪口や煽りは論外だ。誇りある強さってのは、もっと静かなもんだ」
【椿】「敵がいるから燃えるってやつか」
【Rain】「フローライトは燃えるっていうより、灯るって感じだよね」
【ココア】「おー、うまいこと言うねぇRainちゃん」
小さな笑いが、画面の向こうに広がる。
誰もが違う場所で、それぞれの夜を過ごしているはずなのに、
この一瞬だけは同じ焚き火の前にいるような、不思議な温もりがあった。
【そる】「……ま、確かに。敵がいるってのも悪くねぇ。燃えすぎなければ、な」
【ゆず】「うん。でも、私はこうやって話してる時間の方が好きかも」
【Gemini】「同感。勝ち負けより、空気が大事」
ゲームの世界の夜は、ゆっくりと更けていく。
戦火と平穏、その狭間にある彼らの場所。
フローライト。
それはまるで、拠り所のようだった。
全チャットやランキングを開くと、見慣れないギルド名がいくつも並んでいた。
ギルマスの多くは、ダークキングを抜けた上位プレイヤーたち。
中でも〈焼肉キングダム〉というギルドは成長率が高い。
まだ、32サーバーの火は消えていなかった。むしろ、静かに再燃しつつある。
そのとき、ギルドマスターのココアの画面に通知が届く。
【ココア】「お、さっそく加入申請きたよ」
チャット欄に、静かな歓声が流れた。
焚き火がまた、ひときわ明るく揺れる。
【システム】《むー がフローライトに加入しました》
【むー】「こんばんは、よろしくお願いします」
【ココア】「ようこそフローライトへ、よろしくね!」
メンバー達は、むーを温かく迎え入れた。
無課金勢で、レベルはスカイやGemini、タイガーと並ぶほど。
だが、最初の挨拶の一言で、礼儀正しい人だとすぐにわかった。
フローライトにも、新しい風が吹き込んだ。




