第二十三話 プチュンーー
プチュンーー
「うぉ!! やったか俺……!?」
山梨県のとあるパチンコ店。
陽太は歓喜の瞬間を迎えた。
液晶は真っ白にフラッシュし、店内の騒音が遠のく。
――フリーズ。
それはスロットにおいて、数万分の一の確率で起こる奇跡。
神に選ばれし者だけが体験できる、最大のチャンスだ。
《数時間後》
「いやー、何年ぶりだ!? 万枚出したの!!」
手元のドル箱を積み上げながら、陽太はニヤリと笑った。
財布はパンパン、脳内はドーパミンで溢れていた。
そして、ふと思いつく。
「そうだ! せっかくだし……三万くらいドカンと課金すっか!」
スマホを取り出し、いつものソシャゲ《サンドボックスウォーズ》を開く。
【そる】「うおおお、今日は絶好調だ! 今夜のレイド、俺に任せろ!」
ギルドチャットに勢いよく書き込むそる。
テンションは天井知らずだ。
【Gemini】「騒がしいわね。どうしたんですか?」
【そる】「はっはー!! スロでめたくそ勝った!!」
【タイガー】「マジ? いくら勝ったの?」
【そる】「十八万!! 万枚出したった d(^_^o)」
【タイガー】「エグッ」
【スカイ】「スロットってそんな勝てるんすか!?」
【ゆず】「スカイくん、やっちゃダメだよ」
【そる】「がははは、だから今日は課金する!!」
【Gemini】「課金しすぎて爆死すんなよ〜」
【タイガー】「ははっ、もう運使い果たしたから当たり出ねえぞ、そる!」
【そる】「うるせぇ! 見とけって!」
レイド一時間前、メンバーは勢揃いだった。
そるがガチャをタップする。
――プチュン。
「はっ……ま、まさか……!?」
画面に神々しい光が広がり、天使の羽が舞い降りる。
そして文字が浮かび上がった。
《LR:大天使のメイス》
その排出率、わずか0.025%。
神引きの中の神引きだった。
【そる】「っしゃああああ!! やった!! 俺、神になった!!」
【Gemini】「えぇ!? ……マジで出してる!?」
【タイガー】「おいおいおい! 確率どうなってんだよ!」
【White】「やるな、そる。これで後衛の火力も上がる」
【オニッシュ】「ウチの僧侶が殴る日が来るとはな……」
【スカイ】「ずるいー! 俺も課金したいぃぃ!」
【ココア】「ふふ、いい装備ね。頼りにしてるわ、そる!」
【そる】「任せろ姐さん! 回復も殴りも全部俺に任せな!」
大天使のメイスだけではない。三万という大きな課金が、全身装備の強化していた。
武器:大天使のメイス
盾:シルバーバックラー
頭:大神官の帽子
胴:星の軽鎧
腕:大地の籠手
足:雷の脛当て
靴:大神官の靴
装飾:光のアミュレット
画面越しに盛り上がるフローライトの面々。
この日のギルドチャットは、久々に笑いが絶えなかった。
夜九時。
フローライトの面々は、星2レイド《タイラントワーム》の討伐に挑んでいた。
【Gemini】「そる、前に出すぎ!ヘイト取ってる!」
【そる】「大丈夫だ!《大天使のメイス》があれば回復も攻撃もいける!」
そるは光のオーラを纏い、仲間のHPを回復しつつ、メイスを振り下ろす。
その一撃が、まるで雷鳴のようにワームの外殻を砕いた。
【スカイ】「回復力えぐい!てかダメージも入ってる!!」
【ココア】「この火力…聖職者の域を超えてるわ!」
【White】「前衛が下がれ!そる、あとは任せた!」
圧倒的な立ち回り。
回復と攻撃を両立し、味方全員を支えるその姿は、まさしく“神引き僧侶”だった。
【そる】「いくぞおおお! メイス・オブ・ジャッジメント!!」
眩い光が戦場を包み込み、巨大なワームが悲鳴を上げる。
【オニッシュ】「ダーク・インパクト」
最後にオニッシュの巨槌がタイラントワームの頭部を叩き潰した。
《タイラントワームを討伐しました》
【タイガー】「うおおおおお! やったあああ!」
【ゆず】「討伐成功です!!」
【White】「さすがオニッシュ、最後の決め方がイカす」
【オニッシュ】「トドメは偶然です。実質、そるさんの戦果です」
【ココア】「同感ね。やるじゃない、そる」
【そる】「へっへっへ、言ったろ? 今日は“持ってる”ってな!」
ちなみに今回の討伐成功ギルドは以下の通り。
星1:ウィンドクローバー・焼肉キングダム
星2:キリキリバッタ・エターナル・サンドフォール・フローライト
星3:王国騎士団・ダークキング
ブルーアーチは星2に挑戦し、敗北。
その夜、フローライトの成長っぷりは、他ギルドの間でも一躍有名になった。
そんな熱気冷めやらぬ中、ココアがふとつぶやいた。
【ココア】「あ、そうそう。明日から来週のレイドまで期間限定でウチにビッグゲストくるから」
【スカイ】「ビッグゲスト? 誰っすか!?」
【タイガー】「まさか、有名プレイヤーとか?」
【Gemini】「気になる言い方ですね……」
【ココア】「ふふ、楽しみにしてなさい」
意味深なその一言を残して、ココアのアイコンが静かにオフライン表示へと変わった。
フローライトに訪れる、新たな波乱の予感。




