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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第四章 黒王の物語

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第二十二話 勝者の孤独

 椿の刀先がわずかに揺れる。

 夜風が吹き抜け、血と焦げた土の匂いが漂う。

 視界のどこにも敵の姿はない。だが、消えたココアの気配が確かにある。


 影が動いた。


【椿】「見えた!」


 瞬間、椿の刀が横薙ぎに閃いた。

 刃と刃が交錯し、火花が散る。

 ココアの短剣が椿の肩口をかすめ、椿の刀がココアのマントを裂いた。

 互いの動きは紙一重。速度も技も互角。


【ココア】「やるじゃん、こっからが本番だよ」

【椿】「全力で来い」


 空気が震える。

 残りHPは両者ともわずか。

 互いに回避スキルのクールタイムを読み合い、次の一撃が勝負を決める。


 その時、地面が揺れた。

 轟音と共に巨大な戦槌が二人の間に叩きつけられる。


【オニッシュ】「負けてたまるかッ!!」


 新月の如き黒いオーラを纏ったオニッシュが、全身から怒気を放ちながら立っていた。

 Rainの魔法で仲間を失い、そして今、ゆずとWhiteまでも倒された。


 カノンが剣を構え、ゆっくりと歩み出る。

 その姿は堂々としていて、剣士としての威圧感が戦場の空気を一変させる。


【カノン】「ここからは、ギルド最強戦力の決着だな」

【オニッシュ】「上等だ!!」


 二人の間に、言葉はもういらなかった。


 オニッシュの戦槌が唸りを上げる。

 大地を抉り、衝撃波が走る。

 カノンはそれを最小限の動きで受け流し、鋭い反撃を叩き込む。


 火花が散り、風が裂ける。

 一撃一撃に命を懸けるようなぶつかり合い。

 ギルドの誇りと仲間の想いが、剣と戦槌に宿っていた。


【ココア】「オニッシュ!下がって!」


 ココアの声が飛ぶ。だが遅かった。

 カノンの剣が、青い軌跡を描いて突き抜けた。


【システム】《オニッシュ 撃破》


 静寂。

 巨大な体が崩れ落ちる音だけが、戦場に響いた。


【オニッシュ】「ごめん…」


【カノン】「悪くなかった」


 カノンは剣を納める。

 オニッシュの名前が灰色に変わるのを見届け、静かに目を閉じた。


 その背後で、ココアが歯を食いしばっていた。

 仲間を失い、戦況は完全に傾いている。

 それでも彼女は、短剣を構え直し、最後の一矢を放つ。


【ココア】「フローライトの誇りにかけて!!」


 影の中を走り抜ける一閃。

 だが、迎え撃つカノンの剣は速かった。

 剣と刃が交差し、静止。


【システム】《ココア 撃破》


 音もなく、ココアの姿が光粒となって散っていった。


 戦場に、完全な静寂が訪れる。


 モニターの前で、黒王はその瞬間を見届けた。

 ログには、《フローライト全滅》の表示。

 そして、サーバーシステムが告げる。


【システム】《北東銅大区画 勝者:DARK KING》


 黒王は立ち上がり、深く息を吐いた。

 戦場の熱気と興奮が、ようやく現実へと戻っていく。


【黒王】「終わったな」


 勝利の喜びよりも、胸に残るのは静かな疲労と、仲間たちへの誇り。

 サーバー32最大戦争、その決着が今ここに刻まれた。


 モニター越しに映るカノンが剣を掲げる。

 その光が、燃え尽きた大地を照らしていた。


 全区での戦闘が終わった。結果は、ダークキング全勝。

 誰もが認めざるを得ない、完全勝利だった。


 しかし全体チャットに流れた言葉の嵐は、彼らに向けられたものではなかった。


「フローライト、あの戦力差でここまで粘るとか本気でやばい」

「北東戦、神展開だった!」

「サンドウォールのギルマス、黒王と一騎打ちとか胸熱」


 称賛は、フローライトに。

 そして敗北したサンドウォールに。


 肝心の《勝者》ダークキングの名は、どこにもなかった。

 黒王は無言のまま、椅子の背にもたれかかる。

 拳を握る音だけが、イヤホン越しに聞こえた。


「……勝って、なお、空しいな」


 誰かが呟いた。

 それは通話越しか、彼自身の声だったのか、誰も確かめようとしなかった。


 沈黙の中、椿が口を開く。


「……黒王さん。私、ここを抜けます。いろんなギルドを見て、もっといろんな人と戦ってみたいんです」


 一瞬、誰も言葉を失う。

 マイク越しの空気が止まった。


「待って!」


 Rainが声を上げる。


「私も行く! 椿ちゃんと一緒に!」


 二人のアバターが、ギルドリストから静かに消える。

 誰も止められなかった。

 黒王も、何も言わなかった。

 ただモニターを見つめたまま、口を開かない。


 そんな沈黙を破るように、カノンが笑う。


「……はっ。あたしはいてやるよ、黒王。このギルド、嫌いじゃないしね」


 続けて、まろんが明るく叫んだ。


「ダークキングばんざーい!」


 他のメンバーも呼応するように叫ぶ。


「黒王様についていく!」

「最強ギルドはダークキングだろ!」


 チャット欄が再び色づく。

 誰も、黒王の表情には気づかない。


 画面の向こう。

 黒王は静かにヘッドセットを外し、目元を押さえた。


「――こんな俺にも、仲間がいるんだな」


 その呟きは、誰にも届かないまま、夜の部屋に溶けていった。


ーーー 第四章 黒王の物語 完 ーーー

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