第二十話 黒王vsすなっち、ギルドマスター対決
夜九時。サーバー32の銅大区画は、戦火に染まっていた。
【北西銅大区画】
黒王、シン、鬼朱雀の三人が陣を敷く。
周囲の雑魚を片付ける役割はシンと鬼朱雀に任せ、黒王は大剣を構え、中央で一人待機する。
「黒王様、前衛は任せてください!」
シンが軽やかに跳び、敵の小隊を翻弄する。
鬼朱雀も斬撃で複数を巻き込み、前衛を圧倒する。
こうして黒王の前に、ランキング五位の《サンドウォール》ギルドマスター、すなっちが姿を現した。
大きなメイスを構え、回復魔法の光を帯びながら、一歩ずつ近づいてくる。
僧侶でありながら攻守兼備、戦場を支配する能力を持つ敵だ。
「……来やがったな」
黒王は低くつぶやき、大剣を肩にかつぐ。
重厚な刃が月明かりのように光を反射する。
【すなっち】「敵将が直々に相手とは、光栄だ」
【黒王】「光栄?不幸の間違いだろ」
すなっちは軽やかにステップを踏み、回復魔法の光を味方に送る。
しかし、その動きの合間を縫うように、黒王が大剣を振り抜く。
大剣の衝撃波が空気を切り裂き、すなっちは必死にメイスで防御。
その瞬間、黒王は一気に距離を詰め、連続斬撃を叩き込む。
すなっちはメイスで受けつつも、回復魔法を同時に詠唱する。
攻撃と回復、二つを完璧にこなす僧侶としての技量が光る。
【すなっち】「まだまだ!」
すなっちは叫び、味方への回復を行いながら、黒王に強烈な逆襲を仕掛ける。
大剣とメイスがぶつかり、火花が散る。
互いのスキルやバフが重なり合い、画面上に光の軌跡が飛び交った。
【黒王】「甘い!」
黒王は冷たく笑い、大剣を一閃。すなっちのメイスを弾き飛ばし、僅かに後退させる。
だが、すなっちはすぐに体力を回復し、再び攻撃の構えを取る。
僧侶の回復魔法が、黒王の一撃の痛みを帳消しにするように光る。
黒王は僅かに眉を寄せ、剣を握り直す。
「……こういう奴は、倒すのに時間がかかる」
その目には冷徹さだけでなく、どこか楽しむような光も宿っていた。
周囲ではシンと鬼朱雀が敵の雑魚部隊を制圧し、戦場の流れは完全にダークキング優勢。この2人もランキング上位に君臨する猛者である。
しかし、黒王とすなっちの一騎討ちは、まるで天秤のように互いを削り合い、緊張感は頂点に達していた。
剣とメイス、攻撃と回復。
二人の戦いは、単なる勝敗以上に、互いの信念とプライドをぶつけ合う激闘だった。
【黒王】「見事だ。だが、俺の手で終わらせる」
黒王の大剣が暗闇に光を帯び、すなっちに迫る。
しかし、すなっちはそれを受け切る。剣とメイスの激突音が響き渡った。
【黒王】「しぶてぇな、回復職のくせに」
黒王が低く呟き、口元に笑みを浮かべる。
【すなっち】「俺は仲間を守るために戦ってるんでね!」
すなっちはメイスを地面に叩きつけ、衝撃波を放つ。光の柱が黒王の足元を貫くように立ち上がった。
黒王は即座にステップで後退し、ダメージを最小限に抑える。HPバーがわずかに削れるが、動揺は一切ない。
「守る、ねぇ……」
黒王はぼそりと呟く。
その声には、わずかな羨望のような響きが混じっていた。
【黒王】「守ってくれる仲間がいるなら、それで十分だろ」
そう言うと同時に、黒王の大剣が闇色の光を帯びる。
スキル《ダーク・リベリオン》。
攻撃力が三倍に跳ね上がる代わりに、防御が大幅に低下するリスクスキル。
すなっちが目を見開く。
【すなっち】「まさか……それをこのタイミングで使うか!?」
黒王が踏み込み、大地を裂くような一撃を叩き込む。すなっちは防御魔法を発動するが、剣圧がそれを粉砕し、メイスごと弾き飛ばされる。
体勢を崩した瞬間、黒王が追撃。
大剣の二撃目が、すなっちの胸を斬り裂いた。
HPバーが一気に赤く染まる。
すなっちは、震える手で最後の回復詠唱を唱える。
光が彼の身体を包み込む。
…だが、黒王はその一瞬を読んでいた。
【黒王】「回復タイミング、読めてんだよ!」
大剣が、詠唱の直前を狙って振り下ろされる。
スキル《カオスブレイク》。
詠唱中断効果を持つ、黒王の切り札だった。
詠唱が途切れ、回復が間に合わない。
次の瞬間、黒王の剣がすなっちの胸部を貫いた。
閃光。
すなっちの体が光の粒となって砕け、戦場に静寂が訪れる。
【システム】《すなっち 撃破》
黒王は剣を下ろし、息を整えた。勝利のエフェクトが舞う中、彼は無言のまま空を見上げる。
「守る仲間、か……」
ぽつりと、誰にともなく呟く。その顔には勝者の誇りではなく、どこか空虚な影が差していた。
後方から、シンの声が響く。
【シン】「黒王様! 敵、壊滅しました!」
【黒王】「そうか。戻るぞ」
黒王は静かに踵を返し、剣を背負う。
画面の中で、黒王の背中が闇の中に消えていく。
彼にとって、勝利は癒しではなかった。
ただ、心の底に沈む痛みを一瞬だけ忘れるための、燃料にすぎない。
現実でも、仮想でも。
黒羽怜王という男は、いまだ「救われる」ことを知らなかった。




