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オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第三章 シャインの物語

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19/91

第十八話 もう、好き勝手はさせない

土曜日の早朝。

 窓から差し込む秋の光が、都内のマンションのリビングをやわらかく照らしていた。


 三國灯は、いつものようにコーヒーを淹れながら、ぼんやりとスマホを見つめていた。

 画面には、ログインボタンの並ぶ《サンドボックスウォーズ》のタイトル画面。

 指先がそのボタンに触れそうになって――止まる。


「……はぁ」


 息を吐いてスマホを伏せる。

 この三日間、灯はずっと考えていた。


 あの夜、全チャであんな暴言を浴びせられ、静かに去っていった部長。


 翌日、会社ではいつも通りだった。

 笑顔で部下に声をかけ、雑談にも参加し、昼食も一緒に食べた。

 けれど、灯にはわかった。

 あの人はもう、《サンドボックスウォーズ》の世界にはいない。


 昼休み、給湯室でコーヒーを入れていた部長が何気なく言った言葉が、今も耳に残っている。


「なぁ、三國くん。最近“ワイバーンハンター”ってゲームやっててな。PVPがないんだよ。協力してワイバーンを狩るだけ。平和でいい。やらんか?」


 そう言って、いつものように穏やかに笑っていた。


「俺、もうPVPはやらないよ。争うより、誰かと一緒に狩る方が性に合ってるみたいだ」


 その言葉を聞いたとき、灯の胸が少し痛んだ。

 もう戻らないのだと、はっきり悟ったから。


 夜になっても、部長は変わらず明るく、仕事でも冗談を言っていた。

 でもその笑顔の奥に、ほんの少しだけ疲れた影があった気がしてならなかった。


 そして今日、土曜日。

 ギルドバトルの日。


 スマホの画面では、〈キリキリバッタ〉のメンバーたちがすでにログインを始めている。

 マルメンからのメッセージが通知欄に浮かんでいた。


【マルメン】「今日も出るか? 俺たちで、おじサムライのぶんまで戦おう」


 灯はスマホを見つめながら、小さく頷いた。


【シャイン】「……はい、戦いましょう。部長のぶんも」


 再び画面に指を伸ばす。

 光の中で、ログインボタンがゆっくりと点滅していた。


この日に向け、灯は着々と根回しを進めていた。

 外部チャットツール《ディスコ》を使い、上位ギルドのギルマスたちと連絡を取り合い、「ダークキングを潰す」という密約を交わしていたのだ。


 いま、かつての激戦地、銅大区画を守る勢力は大きく三つ。


斬々抜断(キリキリバッタ)》《王国騎士団》《エターナル》

 

 いずれも自陣防衛を徹底し、全体チャットでの発言も控えている。


 そんな中で、あの口論が転機となった。

 王国騎士団のギルマス・ランスロットが沈黙を貫いたことで、逆に信頼を得たのだ。

 一方、ダークキング側では、黒王とカノンの暴言に嫌気がさしたメンバーが次々と離脱していく。


 いまや、ダークキングが守る《銅の大区画》には新たな火種が迫っていた。


 おじサムライが順位を譲り、新たにベスト5入りしたすなっちのギルド《サンドウォール》。

 現在ランキング3位の猛者・オニッシュを擁する急成長ギルド《フローライト》。

 そして、実力派中堅として注目を集める《ブルーアーチ》。


 三つのギルドが、ダークキングの拠点を同時に叩く。灯の仕掛けた戦略が、ついに動き出そうとしていた。


侵略戦では、攻める区画に対して《戦線布告》を行う必要がある。

 布告できるのはギルド単位で、一度に二か所まで。

 そのため、毎週土曜日の朝七時半、布告開始の瞬間はまるで“早押し対決”のような熱気に包まれる。


 今回は、ダークキングの戦力を分散させるため、すでに大区画を保有している上位ギルドは動かない。

 侵略を受け持ったギルドのみが、狙いを定めて布告する。


 そして、七時半。

 サーバー全体が一斉に動いた。


 《サンドウォール》が北西・銅大区画に戦線布告。

 《フローライト》が北東・銅大区画に戦線布告。

 《ブルーアーチ》が東・銅大区画に戦線布告。


 三ギルドの布告はすべて成功。

 その報告が次々と絶対チャットに流れる中…


 ダークキングが動いた。

 《DARK KING》が南西・銅大区画に戦線布告。

 《DARK KING》が南東・銅大区画に戦線布告。


 南西の防衛ギルドは《斬々抜断》。

 南東の防衛ギルドは《エターナル》。


 こうして、五つの大区画で同時に火蓋が切られようとしていた。


 戦いの舞台は、整った。


サーバー全体が、ざわめいていた。

 ギルドチャットにも全体チャットにも、怒号と歓声が交錯している。

 その光景を見つめながら、灯はゆっくりと息を吸った。


 画面の向こうで、仲間たちが声を上げる。

 マルメンの冷静な指示。ココアの明るい返事。

 そのひとつひとつが、心の奥に火を灯すようだった。


 …ここまで来た。

 おじサムライが去り、ギルドの士気が揺らいだ日から、ほんの数日。けれど、灯にはもう迷いはなかった。


 ただのゲーム、そう思っていた。

 だけど今は違う。

 この世界で、仲間の想いが繋がっている。

 それが、自分を動かしている。


 指先が、魔法スロットを選び、雷光のエフェクトが走る。


 静かに、シャインは呟いた。


「……もう、好き勝手はさせない」


 その言葉と同時に、雷鳴が轟いた。


ーーー 第三章 シャインの物語 完 ーーー

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