表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オンラインゲーム:サンドボックスウォーズ ―画面の向こうの絆―  作者: 黒瀬雷牙
第三章 シャインの物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/91

第十五話 ムカつく!

 都内のマンションの一室。

 画面の向こうで、三國灯(みくにあかり)は大声を張り上げた。


「ムーカーツークー!!」


 勢いよくチューハイをあおる。


「くそっ、ダークキングの奴ら、マジでムカつく!」


 叫びながら画面の前で拳を握りしめる灯。

 熱くなると、周囲の目も気にせずテンションが上がってしまうのは、いつものことだった。


 翌朝。

 いつもの会社に着くと、灯はすぐに部長のデスクへ向かった。


「部長! 昨日のダークキング、ほんと最悪!!」


 思わず愚痴る灯に、部長はにこやかに手を振る。


「まぁまぁ、落ち着け三國くん」


 部長はフレンドリーで誰からも好かれる存在だ。

 実はこの部長こそ、サーバーランキング一位のおじサムライ。

 社内の飲み会で若い社員に誘われ、灯とほぼ同時にゲームを始めたため、同じサーバーにいるという因縁付きである。


 ーーーー

 《その飲み会の日》


「社員だからシャインなのかい? じゃあ僕はブチョウだね」


「いや、私は社員だからシャインじゃなくて、本名が灯だから…」


 灯の説明に部長は納得顔で頷いた。


「なるほど。じゃあ…おじサムライでいいか」


 その場の思いつきで決まった名前が、今ではサーバーの頂点に立つ名になった。

 ーーーー


「とにかく、次のギルドバトルこそ、ダークキングに一泡吹かせましょう!」


 灯は拳を握りしめ、目を輝かせる。

 部長は軽く笑い、椅子にもたれかかりながら言った。


「焦るな、三國くん。前回、王国騎士団とエターナルと組んだとき、見事にハマったじゃないか。あの戦いを思い出せばいい」


 灯は少し考え込み、口を尖らせた。


「確かに…あの時は連携が上手くいきましたけど、今回は…私だけでやらなきゃって思っちゃって…」


 部長はにやりと笑い、灯の肩に手を置く。


「無理に一人で背負う必要はないさ。ギルマスのマルメンさんも采配をしてくれる。君一人じゃない、仲間と一緒に戦えば十分勝てる」


 灯は深呼吸を一つして、強く頷いた。


「分かってます…でも、私たちなら絶対超えてみせます!」


 部長は目を細めて微笑む。


「その意気だ。じゃ、仕事を始めようか」


 灯は拳を再び握りしめた。


「よし…次こそ、ダークキングに見せてやる!」


「あ、まず仕事集中してね…」


 いざ仕事が始まると、灯の手際は抜群だった。

 書類整理、メール対応、社内調整――どれも滞りなくこなしていく。


「さすが、ゲームの熱さはそのままに、仕事では冷静なんだな…」


 同僚が小声で感心するほどだ。その正確さと判断力は、まさにキリキリバッタの指揮役として光る資質を感じさせた。


 定時になると、灯はデスクを片付け、カバンを肩にかける。


「よし、今日も終わり!」


 廊下を歩きながら、思わず笑みがこぼれる。

 ゲームの世界に戻る時間だ。


「じゃ! 部長!今日も待ってますから!」


 しかし部長は、苦笑しながら首を横に振る。


「いや、今日僕は妻とディナーでね(汗)」


 灯は肩をすくめ、軽く笑った。


「そっか…じゃあ、今日は私一人でキリキリバッタをまとめるか」


「いやいや、マルメンさんもいるでしょ…」


 スマホを取り出し、ログイン画面を開く灯。


「さて、次の一手を考えなきゃ…!」


 画面越しの仲間たちが待つ、キリキリバッタの作戦ルームへ、灯は静かにログインした。

 その瞳は、昼間の冷静さと、夜の熱意が混ざり合い、ギラリと光っていた。


「あ…あの、三國くん? 帰ってからやれば(汗)」


「んー…それもそうですね」


 灯は会社を出て、ドラッグストアで缶チューハイとツマミを買うと急いでマンションへ。

 シャワーで身体を流し、夕飯代わりのチューハイとツマミをテーブルに並べると、パソコンを起動させた。


 画面の光が灯の頬を照らす。

 三ギルド共闘により、ダークキングから奪い返した大区画、キリキリバッタの拠点には、夜風のように落ち着いた雰囲気が漂っていた。激戦で壊れた拠点の建設はまだまだ進んでいない。


【マルメン】「お、来たなシャイン!」


 ギルドマスター・マルメンが手を振る。

 背後では数名のメンバーが装備を整えたり、素材を倉庫に運んだりと忙しなく動いている。


【シャイン】「お疲れ様です。今日も人集めですか?」

【マルメン】「ああ。次のギルドバトル、ダークキングに一泡吹かせてやりたいからな。勝つには今のままじゃ層が薄い」


 マルメンの言葉に、シャインは真剣な表情で頷いた。ギルドバトルは毎週土曜日。つまり、残された準備期間はまだ5日ある。


【シャイン】「前線に立てるタンクと、範囲魔法系の火力があと一人ずつ欲しいですね」

【マルメン】「それな。今、掲示板にも募集出してるけど、なかなか即戦力は来ねぇ」


 マルメンが肩をすくめる。

 シャインは顎に指を当て、考え込んだ。


【シャイン】「……なら、素材集め兼ねてダンジョン行きましょう。強い人たちは、そういう場所で出会うこともあります」

【マルメン】「なるほど、スカウトがてらの攻略か。いい考えだな」


 そう言うと、マルメンがギルドチャットに一言。


【マルメン】「21時、第二層沼地ダンジョン攻略。参加希望は反応よろしく!」


 数秒も経たないうちに、返事が次々と返ってきた。


【ルミナ】「りょーかい!」

【クルス】「支援準備しておきます」

金糸雀(カナリア)】「例の素材、現地で落ちるかもね」


【マルメン】「うん、これなら行けそうだ」


 マルメンが満足そうに笑い、シャインに向き直る。


【マルメン】「ところでシャイン、今日もチューハイ片手にやってんのか?」

【シャイン】「えぇ、もうルーティンですから。思考も冴えますし」

【マルメン】「……仕事終わりでそんな元気あるの、ほんと尊敬するわ」

【シャイン】「マルメンさんこそ、タバコの吸いすぎは体に毒ですよ」

【マルメン】「え、なんでわかるの?見えてるの!?」


 マルメンが苦笑しつつ、作戦ボードを開く。

 沼地エリア深部。毒沼と巨大昆虫がひしめく危険エリア。

 だが、レア素材が豊富で、高ランクプレイヤーの多くが訪れる人気の狩場でもある。


【マルメン】「ダークキングに勝つには、まず戦力の底上げ。それと、強化素材の確保だ」

【シャイン】「了解。あと数日で、できる限りの準備をします」


 シャインは拳を握る。

 ギルドの雰囲気は明るいが、目標はひとつ。

 ダークキング撃破。


【シャイン】「……マルメンさん」

【マルメン】「ん?」

【シャイン】「私、絶対に勝ちたいんです。ムカつくとか、悔しいとか、そういう次元じゃなくて、ここまでやって負けたままじゃ、前に進めない気がするんです」


 マルメンは数秒、黙ってから微笑んだ。


【マルメン】「……いいね。そういうやつがいるギルドは、絶対強くなるよ」


 その言葉に、シャインの胸の奥が少しだけ熱くなる。現実でも、ゲームでも、自分が信じた仲間と共に戦う。それが、彼女にとって一番のやりがいだった。


【シャイン】「よし、じゃあ沼地は大収穫に備えましょう!」

【マルメン】「おう。チューハイは1本までな」

【シャイン】「じゃマルメンさんもタバコ一本ね」


 二人の軽口に、チャットのメンバーたちも笑いマークで応える。

 そのやり取りの向こうで、サーバーの片隅ではダークキングも、次なる戦いに向けて静かに動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ