第三十話 グダグダ出発準備
日曜日の朝。
スカーレットの面々は、ギルド拠点・紅の庭園に集まっていた。
赤い花が咲き誇る庭園の中央広場。噴水の水音が静かに響き、澄んだ空気が流れている。
アメリア。
メリッサ。
cat。
さつき。
ミロク。
ゆり。
メンバーは揃っていた。
……ももを除いて。
【ミロク】「あ、ももさん来てないね」
【cat】「まあ……今日はこのままでいいんじゃない?」
誰も慌てない。むしろ、どこか空気が落ち着いている。
ももは仕事はきっちりこなす。素材集めも、作業効率も申し分ない。だが同時に、余計な一言や不用意な発言で、場の空気を乱すことも多い。
今日は大事な遠征の日。緊張感のある山エリアに向かうなら、なおさらだ。
【アメリア】「今回はこのメンバーで行きましょう」
静かだが、はっきりした判断だった。
紅の庭園には、穏やかな空気が流れている。誰かがピリつくこともなく、雑談も自然に続いていた。
【ゆり】「なんだか、落ち着きますね……」
【さつき】「うん。準備に集中できる」
メリッサは、その様子を静かに見つめていた。
不安がないわけじゃない。自分たちにとって、山エリアは危険だ。それでも。
(この空気なら、大丈夫)
余計な衝突も、無駄な緊張もない。今のスカーレットは、目的にまっすぐ向かえる状態だった。
噴水の水音だけが、静かに響く。
今日は、素材集めのための遠征。
そして、スカーレットにとっての挑戦の始まり。
穏やかな空気のまま、彼女たちは山エリアへ向かう準備を整えていった。
メリッサは装備画面を確認する。
【メリッサの現在装備】
武器:白百合のロッド(おしゃれ度アップ・魔力微増)
盾:なし
頭:リボン付き花冠(おしゃれ度アップ・防御ダウン)
胴:シルクフレアドレス(おしゃれ度大アップ・防御低)
腕:クリスタルブレス(おしゃれ度アップ・魔防微増)
足:白鳥のレーススカート(おしゃれ度アップ・移動速度ダウン)
靴:エレガントヒール(おしゃれ度アップ・回避ダウン)
装飾: 煌めきのティアラチャーム(おしゃれ度特化・戦闘効果なし)
メリッサは装備画面を閉じ、ギルドチャットを開いた。
【メリッサ】「みんな、聞いて。山エリアは思った以上に危険よ!おしゃれ装備のままだと、さすがにリスクが高すぎるわ」
【アメリア】「確かに……みんな、今までのガチャや探索で手に入れた中で、一番マシな戦闘装備に変更して!」
すぐに反応が返ってきた。
【cat】「えー、せっかく可愛い装備にしたのに」
【さつき】「でも、確かに山は怖いですね」
【ミロク】「まぁ、生きて帰れないと素材集めどころじゃないしな」
【ゆり】「了解しました!」
こうして、スカーレットの面々は妥協の戦闘装備へと切り替えていく。
各メンバーの「微妙に戦える」装備
【メリッサの装備】
武器: 白銀のロッド(魔力アップ・おしゃれ少し)
頭: 風除けのカチューシャ(防御微増)
胴: 魔繊ローブ(中防御)
腕: 魔力補助ブレス
足: 軽量スカート
靴: ローヒールブーツ
装飾: 小さな護符
【アメリアの装備】
武器: 精霊のワンド
頭: 知恵のベレー帽
胴: バトルドレス
腕: 強化布グローブ
足: 軽装スカート
靴: フラットシューズ
【catの装備】
武器: 銀の短剣
頭: 獣革のキャップ
胴: 軽装ジャケット
腕: レザーグローブ
足: ショートパンツ
靴: ホワイトブーツ
【さつきの装備】
武器: 聖木の杖
頭: 白いヘッドドレス
胴: 僧侶のローブ
腕: 癒しの腕輪
足: ロングスカート
靴: 布製ブーツ
【ミロクの装備】
武器: 鋼の大剣
頭: アイアンヘルム
胴: 鉄の鎧
腕: 鉄の手甲
足: レザーガード
靴: ヘビーブーツ
【ゆりの装備】
武器: クロスボウ
頭: 防護フード
胴: 革鎧
腕: 皮手袋
足: 動きやすいスカート
靴: 軽量ブーツ
一番マシな戦闘力をもつ、ミロクでも中難度には心細い。全員が装備を切り替え終えた頃、ギルド拠点の空気が少しだけ引き締まった。華やかさは大幅に減った。だが、これで最低限戦える。
【アメリア】「……完璧とは程遠いわね」
【メリッサ】「ええ。でも、残念ながらこれが今の私たちの最善みたいね……」
戦闘ギルドのような装備ではない。
それでも、作品のためなら、彼女たちは危険な場所へ踏み出す。
おしゃれも、芸術も、そして生存も。
すべてを両立させるために。
【ミロク】「あ、そうだ」
ふと思い出したように、ミロクが言った。
【ミロク】「ゲームといえば、道具も大事だよな。みんな、回復アイテムとか食料、ちゃんと持った?」
一瞬の沈黙。
【cat】「……え?」
【さつき】「あ……」
【ゆり】「そ、そういえば……」
それぞれが慌ててアイテムポーチを開く。
空。
包帯も、回復薬も、保存食も、何も入っていない。
【cat】「あー…あははは……」
【さつき】「そいえば素材整理で全部売っちゃいました……」
【ゆり】「私、装備で頭いっぱいで……」
ミロクはゆっくりと天を仰いだ。
【ミロク】「……マジか」
唯一、アメリアとメリッサだけが、最低限の回復薬と食料を持っていた。
【アメリア】「これは、想像以上に大冒険ね」
【メリッサ】「ええ。装備より、こっちの方が問題かもしれないわ」
戦闘力は心許ない。
物資もほぼゼロ。
それでも、彼女たちは山エリアへ向かう。
無謀かもしれない。だが、それがスカーレットだった。
先が思いやられる遠征の幕が、静かに上がった。




