第二十六話 誰かが支えてくれている
フローライト拠点。
転移ゲートが光を放ち、最初に姿を現したのは火山組だった。
【ハルト】「ただいま戻りました」
【みぃ子】「全員、無事です!」
装備は煤と灰で汚れているが、誰一人欠けていない。
少し遅れて、奈落組のゲートも開いた。
だが、こちらは様子が違った。
Rain、White、リデル、ココア、そる、烈火。そして途中脱落していた、らいおんとリュートの姿もある。
【らいおん】「……いやぁ、奈落はやばい」
【リュート】「二層でレイド級は反則だろ」
全員、無事ではある。
だが、その表情には疲労と悔しさが滲んでいた。
まず口を開いたのは、ハルトだった。
【ハルト】「岩魔人、レッドリザード、オークを討伐。耐熱鉱石、溶岩苔、火山樹脂、オーク肉を確保しました」
【White】「十分すぎる成果だな」
【ココア】「温かい冬に使える素材ばっかりじゃん」
みぃ子が嬉しそうに補足する。
【みぃ子】「暖炉用の演出素材、結構いいのが揃いました!」
【むー】「火山の熱を“優しい暖かさ”に変えられそうです」
【ペンギン】「……料理長がいれば、肉も活かせたんですけどね」
その一言に、少しだけ笑いが起きた。
次に、Rainが静かに話し始める。
【Rain】「第一層のボス、シャスエティは討伐しました。状態異常特化の厄介な相手でしたが……」
【烈火】「リデルがいなきゃ詰んでた」
【そる】「マジで命の恩人」
リデルは少し照れながら頷く。
【リデル】「皆さんの連携があったからです」
だが、表情はすぐに曇る。
【Rain】「第二層。砂漠エリアでタイラントワームと交戦。その後、層ボス、嫉妬の獣姫・ジェラシアに全滅しました」
場の空気が静まる。
【White】「……第二形態か」
【烈火】「せっかく最初は俺好みのモンスターだったのに、第二形態は筋肉ムキムキの魔獣な。完全に別モンスターだった」
それでも、ココアが少しだけ明るい声を出す。
【ココア】「でもさ、これ」
彼女が取り出したのは、淡く光る温熱結晶の枝。
【ココア】「温かい冬に使えそうな素材、ゲットできたよ」
【White】「……それだけでも、奈落に行った意味はあるな」
フローライトの結果は明確だった。
火山組:安定した成果
奈落組:ボス討伐失敗、だが貴重な経験と素材あり
それでも、誰一人として下を向いてはいなかった。
【Rain】「今回の目的は最高の庭を作ることです」
【White】「全滅はしたが、得たものは多い」
【ハルト】「素材は十分揃ってる」
【リデル】「皆で作れば、きっといい箱庭になります」
その言葉に、全員が頷いた。
【ココア】「よし、制作フェーズだね」
【そる】「次は戦闘じゃなく、創作の本気だ」
【ペンギン】「温かい冬、作りましょう」
奈落の地獄も、火山の灼熱も。
すべては、この一つの箱庭のために。
フローライトは、本戦用の庭作りという次の戦場へと向かっていく。
翌朝。
スマホのアラームが鳴るより少し早く、琴葉は目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む光はやわらかく、12月とは思えないほど穏やかだった。
「……今日も、あったかいな」
着替えを済ませ、簡単に髪を整える。
鏡の中の自分は、昨日より少しだけ表情が明るく見えた。
パンをかじりながら天気予報を確認し、バッグを肩にかける。
「行ってきます」
誰もいない部屋にそう呟いて、琴葉は家を出た。
通勤路の空気は冷たいはずなのに、どこか心地よく感じられた。
フローライトのみんな、今日も頑張ってるかな。
そんなことを考えながら、職場へ向かう。
仕事が始まる。レジの前に、次のお客さんが立つ。
「ありがとうございました。またお越しください」
自然に口から出る言葉。
手の動きも、視線も、もう迷いはない。
以前の琴葉なら、混雑する時間帯は苦手だった。
焦って、間違えて、落ち込んで。
でも今は違う。隣のレーンでは徳永が手際よく対応していて、バックヤードでは同僚が補充作業をしている。
誰かが支えてくれている。
だから、安心して自分の役目に集中できる。
ふと、そんなことに気づいた。
仕事も、ゲームも、どちらもひとりじゃ成り立たない。箱庭を作るのも、戦うのも、立て直すのも。
仲間がいるから、前に進める。
休憩室の窓から差し込む、やわらかな冬の光を見ながら、琴葉は小さく息をついた。
「……私、一人で頑張ってるつもりだったんだ」
でも違う。支えてくれる人がいて、頼ってくれる仲間がいて、その中で自分の居場所がある。
それが、嬉しかった。
ポケットの中のスマホが、微かに震える。
フローライトの通知。
また、誰かが頑張っている。
また、誰かが前に進んでいる。
「……私も、ちゃんと頑張ろう」
現実でも、ゲームでも。
仲間と一緒に。琴葉はエプロンの紐を結び直し、次の仕事へと向かっていった。
ーーー 第五章 リデルの物語 完 ーーー




