第二十一話 予選突破
スクリーンに表示された文字が、ゆっくりと消えていく。
残り、予選突破枠は二つ。
その瞬間だった。
ついさっきまで騒がしかった全体チャットが、嘘のように静まり返った。
誰もが、次の名前を待っている。
おそらく、各ギルドの内部では――
「大丈夫だ」「よくやった」「誇っていい」
そんな励ましの言葉が、今も飛び交っているのだろう。
だが、全チャには誰も書き込まない。
この沈黙こそが、結果発表の重みだった。
そんな空気を、少しだけ和らげるように、超戦闘ギルド・rebellionの面々が、軽い調子で会話を始める。
【鬼朱雀】「しかし、ウチ誰もコンテスト出てねぇの笑うわ」
【シン】「戦場専門ですからね」
【鬼朱雀】「で、誰が上がると思うよ?」
【シン】「ベディビアか、オニッシュじゃないですか?」
【鬼朱雀】「あー、あの二人は確かに堅いな」
【nocturne】「でも、フローライトも強いですよ」
【アークライン】「癒し特化の庭、完成度高かったしな」
【鬼朱雀】「こりゃどうなるか、ホントにわからんな」
何気ない会話。
だが、その言葉は、残っているライバルの名前を、はっきりと浮かび上がらせた。
ベディビア。
オニッシュ。
琴葉は、無意識のうちに両手を胸の前で強く握りしめていた。
(……お願い)
喉の奥が、きゅっと締めつけられる。
(私じゃなくてもいい……)
視界が、少しだけ滲んだ。
(フローライトのメンバーを……誰か一人でも……!)
カウントダウンはない。
ただ、静寂の中でスクリーンが切り替わる。
4位・リデル 7,733ポイント
一瞬、時間が止まったような感覚。
そして次の瞬間、フローライトのギルドチャットが、爆発した。
【ココア】「リデル来たああああ!!」
【みぃ子】「やったぁぁぁぁ!!」
【ゆず】「予選突破です!!」
【そる】「うおおおおお!!」
【White】「これは本当に凄い」
【ハルト】「誇れ!!」
【むー】「泣く……!」
【REBORN】「最&高!!」
【Gemini】「完成度の高さが証明されたね」
【烈火】「フローライト、やっぱ強ぇわ」
【Rain】「おめでとうございます!!!」
【らいおん】「癒し庭園、世界に通じた」
【ペンギン】「鳥肌立った」
【リュート】「静かなのに、心に残る庭だったもん」
【料理長】「ご馳走作らなきゃ!!」
画面いっぱいに流れる祝福の言葉。琴葉は、しばらく呆然とモニターを見つめていた。
そしてゆっくりと息を吐く。
(……よかった)
胸の奥に溜まっていた緊張が、一気にほどけていく。
スクリーンの光は、次の名前を告げる準備をしていた。その沈黙を破るように、再びrebellionのメンバーが軽い調子で口を開く。
【鬼朱雀】「さてさて、最後の一枠は誰だ?」
【シン】「ここまで来たら、もう読み合いですね」
【nocturne】「ベディビアか、オニッシュか……」
【アークライン】「いや、フローライトも十分あり得る」
そこへ、別ギルドの声が割り込んできた。
【すなっち】「おいおい、俺を忘れるなよ?」
サンドウォールのギルマス・すなっち。
さらに、斬々抜断の面々も続く。
【マルメン】「ウチの琉韻loveだって!」
【シャイン】「金糸雀もいるぞ!」
チャットは一気に賑わいを取り戻す。
【アメリア】「ふふ、スカーレットにはミロクやゆりがいるわよ?」
1位の女王までもが、余裕の笑みを浮かべるように参戦してきた。
そんな中、フローライトのギルマスが堂々と宣言する。
【ココア】「いーや、5位は私だね!」
その強気な言葉に、チャットがざわつく。
だが、次の瞬間、低く重みのある一言が流れた。
【黒王】「悪いが、5位はウチのオニッシュだ」
DARK KINGのギルマス・黒王。
さらに、すぐ隣から冷静な声が重なる。
【カノン】「私もいるだろう」
しかし、黒王は迷いなく言い切った。
【黒王】「悪いが、カノンではない。勝ち上がりはオニッシュだ」
その言葉には、根拠のない強がりではない確信があった。まるで、すでに結果を知っているかのような。
【スカイ】「俺も……そう思う」
チャットの空気が、再び引き締まる。
リデルも、ココアも、みぃ子も、ゆずも。
ただ、祈ることしかできなかった。
【そる】「ココア姐さんこい!」
【Gemini】「みぃ子ちゃんでも、ゆずちゃんでも!」
願いが、文字になって流れていく。
だが、運命はすでに決まっていた。
静寂の中、スクリーンが切り替わる。
5位・オニッシュ 7,688ポイント
一瞬の沈黙。
そして――
【すなっち】「……カノンさんよ、今回は引き分けでいいか?」
【カノン】「ふっ、いいだろう」
【鬼朱雀】「しかし……さすが黒王だな」
【シン】「予想的中ですね」
【たっちゃんパパ】「にしても、強ぇなオニッシュ」
【マルメン】「DARK KING、庭でも無双かよ」
【シャイン】「戦闘ギルドの底力だな」
オニッシュの名が、最後の枠を掴み取った。
フローライトのチャットには、悔しさと、それでも残る温かさが混じる。
【みぃ子】「……惜しかったね」
【ゆず】「でも、リデルさんが通っただけでも……」
【ココア】「うん。胸張っていいよ!そして本戦は、リデルのために動くぞフローライト!!」
おお!という声や、スタンプが送られる。
琴葉は、そっと目を閉じた。
(……ありがとう)
勝ち上がれなかった悔しさよりも、仲間が掴んだ結果のほうが、ずっと大きかった。
フローライトは、確かに爪痕を残した。
そして、この物語はまだ終わらない。
むしろ、ここからが本番なのだ。




