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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第五章 リデルの物語

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第二十話 32鯖は庭でも魔境

 リデルの画面の向こう。

 朝倉琴葉は、手に汗を握りながらコンテストの結果発表を待っていた。


 古いアパートの一室。

 ワンルームの小さな部屋に、PCモニターの光だけが淡く灯っている。


 仕事帰りに寄ったドラッグストアで買った半額弁当は、すでに冷めていた。

 それでも箸をつける気になれず、琴葉は両手を膝の上で組んだまま、画面を見つめ続けていた。


(……落ち着いて。結果は結果)


 そう自分に言い聞かせる。


 けれど、心臓は素直じゃない。

 耳の奥で、どくどくと脈打つ音がやけに大きく聞こえた。


 画面には、箱庭コンテスト予選の結果待ちを示すカウントダウン。


 ――残り、30秒。


 無意識に、ギルドチャットを開いていた。


 表示されているのは、フローライトの仲間たちの名前。


【ココア】「いよいよだね……!」

【みぃ子】「ドキドキするぅ……」

【ゆず】「深呼吸、深呼吸ですよ〜」


 さらに、応援組のメンバーたちの声も流れていく。


【そる】「みんな、よくやったぜホント!」

【White】「大丈夫だ、胸を張って見届けよう」

【ハルト】「結果なんて関係ねぇ、最高だった」

【むー】「でも、やっぱり勝ちたいよね!」

【Gemini】「冷静に考えて、完成度はかなり高い」

【烈火】「アリスやらケルベロスが目立ってるけど、フローライトも負けてねぇ」

【Rain】「はい、私の中ではフローライトメンバーが1番です!」

【らいおん】「癒し庭園でいやぁ優勝だ」

【ペンギン】「居心地部門でも満点」

【リュート】「そんな部門ないでしょ……でも確かに心が休まる庭だった」


 その言葉ひとつひとつが、胸に染みた。


(……みんな、見てくれてたんだ)


 残り、10秒。


 喉が乾く。自分は、前に出るタイプじゃない。戦場ではいつも、後ろから支える側だった。


 それでも、誰かの居場所を作ることなら、できる。


(今回の箱庭も……そんな場所になってたらいいな)


 マグカップの中のコーヒーは、とっくに冷えていた。でも、指先はまだ熱を帯びている。


【システム】「箱庭コンテスト予選、最終ランキングを発表します」


 画面が切り替わった瞬間、

 フローライトのチャットが静まり返った。


 琴葉は思わず、息を止めた。


 1位・アメリア 10,012ポイント


 一瞬の静寂。

 次の瞬間、全チャが爆発した。


【黒王】「やはり、一位はアメリアか」

【シャイン】「知ってた」

【マルメン】「いや、10,000超え!?」

【BROS】「エッグ!!?」

【ジャコウ】「四桁じゃなくて五桁なの頭おかしい」

【アメリア】「褒め言葉として受け取りますわ」

【ジャコウ】「あ、いや、その、本当に褒めてます汗」

【すなっち】「すいません、ウチのジャコウは語彙力なくてw」

【アメリア】「w」


 32サーバーの誰もが予想していた。だが、()の壁を越えてくるとは思っていなかった。


 琴葉は、思わず息を呑む。


(……別次元だ)


 ギルドチャットにも、静かな驚きが広がる。


【そる】「これはもう殿堂入りだろ」

【ハルト】「勝てる気しねぇ」

【むー】「アメリアさん、強すぎ……」

【Gemini】「完成度、芸術性、テーマ性。全部がトップクラスだ」

【烈火】「そりゃそうなる」


 そして、間を置かずに次の名前が表示された。


 2位・メリッサ 9,200ポイント


【ココア】「ここまでは予想通り」

【マルメン】「いや、9,000超えも普通にバケモンだぞ」

【シャイン】「二人とも規格外すぎる」


 1位と2位。どちらも、頭ひとつ……いや、ふたつ以上抜けていた。


 フローライトのチャットにも、納得と諦観が混じる。


【ゆず】「あの二人は……仕方ないですね」

【みぃ子】「うん……別格だよぉ」


 そのとき、応援組のひとりが勢いよく書き込んだ。


【料理長】「31サーバー見てきましたが、一位でも8,000台でした!アメリアさんとメリッサさんは化け物です!」

【REBORN】「うわ……それはもう、次元が違う」


 琴葉は、モニターの数字を見つめながら、小さく息を吐いた。


(9,200でも()()なんだ……)


 その空気を和らげるように、ココアが静かに続ける。


【ココア】「さて……仮に、残り全部フローライトだったとしても……誰かは、落ちちゃうね」


 その言葉に、ギルドチャットが一瞬だけ静まった。


 優しい言い方だった。

 でも、それは紛れもない現実だった。


 予選は、通過できる人数が決まっている。

 どれだけ良い庭でも、全員が勝てるわけじゃない。


 琴葉は、そっと胸の前で手を握りしめた。


(……それでも)


 結果を待つ時間は、まだ終わらない。


 緊張に包まれた空気の中、

 スクリーンの表示が、ゆっくりと切り替わる。


 3位・アリス 8,255ポイント


 一瞬の静寂。そして全チャが、文字の嵐で埋め尽くされた。


【牙】「っしゃああああ!!」

【黒鉄】「やったぞ!!」

【Miley】「アリス!!すごい!!」

【伯爵】「誇らしい……!」

【ピノキオ】「三位!?マジで!?」

【らん】「当然の結果ですね」

【ファントム】「庭職人ギルド万歳」


 ケルベロスのメンバーが、まるでレイドボスを倒したかのような勢いで歓喜していた。


【そる】「ケルベロスは庭でも奇策を出すのか!?」

【鬼朱雀】「おいおい、まさかケルベロスの言ってたデカいことって、コレか!?」

【牙】「おうとも!俺たちチームの力よ!!」

【鬼朱雀】「確かにすげーわ!」


 戦場で名を轟かせていたギルドが、癒しの庭でも結果を出した。


 その事実に、32サーバーは再びざわめく。

 そんな中、ひとつの冷静な書き込みが流れた。


【スカイ】「俺の友達が29サーバーにいるんですが……一位でも8,165だったみたいです」


 一瞬、全チャが止まる。


【琉韻love】「……え?」

【マーリン】「28鯖の一位で?」

【シン】「それ……アリスより低くね?」


 ざわざわと、数字が比較されていく。


 アリス:8,255

 28サーバー1位:8,165


【マルメン】「32鯖、魔境すぎだろ」

【そる】「上位三人だけで他鯖制圧できる」

【カノン】「アメリアとメリッサはもはや別次元だな、同じサーバーとして誇りに思うぞ」


 誰もが、ようやく理解した。32サーバーは、化け物が集まる場所だということを。


 フローライトのチャットにも、その空気は伝わってくる。


【ゆず】「……レベル、高すぎません?」

【みぃ子】「世界が違う……」

【ココア】「でも、ここに混ざれてるだけで誇っていいと思うよ」


 琴葉は、モニターを見つめながら、静かに息を整えた。


(……三位で8,255)


 その数字は、上位という言葉の重みを、はっきりと示していた。


 そして、まだフローライトのメンバーの名前は出ていない。


 心臓の鼓動が、また少しだけ速くなる。


(……次、来る)


 結果を待つ時間は、いよいよ核心へと差し掛かっていた。

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