第十七話 箱庭コンテストの告知
32サーバー・中央金区画。
二つのギルドが、正面からぶつかろうとしていた。
【牙】「よっしゃ、今日こそ金区画奪い取るぞ!!」
【らん】「敵、五人。陣形、横一列です」
【牙】「数でいやぁ圧勝待ったなしなんだがなぁ」
【Miley】「いつも通り、前線強化いくよ!」
ケルベロスは、慣れた布陣だった。
牙と黒鉄が前、アリスが後方制圧、Mileyが支援、らんが索敵。その他のメンバー含め、総勢30人が各々の役割を理解している。
だが、向かいに立つのはrebellion。
空気が、明らかに違った。
【ペイン】「……来たな」
双剣イビル・イン・ライトが、淡く輝く。
【鬼朱雀】「燃やしていいんだよなぁ?」
【シン】「削りは任せろ」
【アークライン】「射線、通った」
【nocturne】「闇を撒く」
五人が、同時に動いた。
【鬼朱雀】「いくぜぇぇぇ!」
地面が爆ぜた。
【鬼朱雀】「奥義!イラプト・インフェルノ!!」
炎が爆発ではなく噴火のように広がり、戦場を覆い尽くす。
【黒鉄】「うおっ……!」
【Miley】「防御バフ、最大!」
だが、炎は止まらない。
継続ダメージが、装甲の上から削ってくる。
【nocturne】「暗黒侵食」
視界が、黒に染まる。
デバフ、暗闇、持続ダメージ。
戦場は一気に混沌へと落とされた。
【らん】「視認不能、敵ロック外れます!」
【牙】「ちっ、前出るぞ!」
牙が踏み込んだ瞬間、雷光。
【シン】「……遅い」
ナイフが防がれる。だが、雷撃が通る。
【牙】「ぐっ……!」
HPが、確実に削られていく。さらに。
【アークライン】「今だ」
音もなく放たれた一矢。風を裂き、バフの隙間を貫く。
【Miley】「……っ!」
MileyのHPが、一気に半分以上消し飛ぶ。
【Miley】「回復――」
その声を遮るように。
【ペイン】「終わりだ」
双剣が、舞った。百花繚乱のような連撃。
回避不能、角度不明、速度異常。
HPがゼロになる。
【システム】《Miley 撃破》
光に包まれ、消失。
【牙】「Miley!」
【アリス】「風刃、展開!」
アリスの風魔法が、炎と闇を切り裂く。
【鬼朱雀】「甘ぇ!」
炎の壁が、再び立ち上がる。
【nocturne】「闇、重ねる」
視界は戻らない。
【らん】「位置、把握不能です!」
その瞬間。
【ペイン】「牙」
距離、ゼロ。
【牙】「ちぃっ!」
双剣が、交差した。
防御ごと、HPを削り切る。
【システム】《牙 撃破》
司令塔を失ったケルベロスは、脆く崩れゆく。
【アークライン】「次」
矢が、アリスを狙う。回避は、間に合わなかった。
HP、残りわずか。
【シン】「削る」
雷撃が、確実に刺さる。
【アリス】「……っ、撤退を――」
言葉の途中で、HPがゼロになる。
黒鉄も、炎と矢に沈み。
伯爵、ピノキオ、ファントム、リキ、白兎……
そして最後に残った、らんも。
【nocturne】「闇に還れ」
静かに、消えた。
戦場には、rebellionの五人だけが立っていた。
【鬼朱雀】「あー、燃えた燃えた」
【シン】「予定通り」
【アークライン】「中央金、維持成功」
【nocturne】「混沌、支配完了」
ペインは、双剣を収める。
【ペイン】「……悪くなかった」
だが、感情はない。
勝利は、当然の結果だった。
一方。
【牙】「だー!ちくしょう!完敗じゃねーか!!」
復活エリアの喧騒が、少しずつ落ち着いていく。
敗北の余韻はまだ残っていたが、誰もログアウトしようとはしなかった。
【伯爵】「それにしても……」
伯爵が、ゆっくりと口を開く。
【伯爵】「この短時間で、あれだけ再集合して戦線を立て直したのは見事でしたね」
【ピノキオ】「確かに」
【ファントム】「普通、あそこで崩れる」
【黒鉄】「指示、早かったしな」
【らん】「混乱状態でも、最低限の連携は保てていました」
【伯爵】「イン率も、行動速度も、32サーバーの中ではかなり上位でしょう」
敗北を認めつつも、評価すべき点はきちんと評価する。
それが、伯爵だった。
その中心で。
【牙】「……」
腕を組んでいた牙が、少しだけ視線を逸らす。
【牙】「み、みんな……」
一瞬、言葉に詰まる。
【牙】「その……いつも、ありがとな」
普段の軽口とは違う、照れの混じった声だった。
一拍の沈黙。
そして。
【ピノキオ】「急にどうした」
【リキ】「珍し」
【白兎】「牙が真面目……」
【黒鉄】「……悪くない」
【Miley】「ふふ」
言葉よりも先に、スタンプが飛び交う。
ガッツポーズの犬。
親指を立てた騎士。
拍手するウサギ。
無言勢も、しっかりと反応していた。
牙は、さらに照れたように頭を掻く。
【牙】「やめろって!」
でも、声はどこか嬉しそうだった。
その光景を、アリスは少し離れた位置から見ていた。
戦闘では、rebellionに完敗した。
けれど、ケルベロスの結束は揺れていない。
(……いいギルドだな)
そう、素直に思えた。そしてアリス自身も、もう一つの顔を持っていた。
戦場では前線を張る風魔法使い。
だが、別のランキングでは、彼女の名前は常に上位にあった。
箱庭評価ランキング。現在4位。
アメリアやメリッサほどではないが、アリスは戦闘ギルド所属の箱庭勢として、確かな存在感を放っていた。
ギルド内でも、密かに言われている。
「戦いは牙、庭はアリス」
そんな役割分担が、自然と出来上がっていた。
その数日後。ログインしたアリスの視界に、システム通知が浮かび上がる。
【システム】
《年末イベント告知》
28〜32サーバー合同
箱庭コンテスト開催決定
予選:各サーバー毎、参加自由
本戦:各サーバーの上位5名選出
アリスは、思わず足を止めた。
しかし、ここは32サーバー。
アメリア。
メリッサ。
オニッシュ。
自分より高い位置にいる三人。
そしてすぐ下には、王国騎士団のベディビア。
フローライトのリデル、ココア、みぃ子。
ここは僅差で並び、常に順位が入れ替わる。
名前を聞くだけで、強者だとわかる面々。
アリスの胸の奥で、静かに火が灯る。
戦場じゃない。でも、勝負の舞台だ。
アリスは、そっと拳を握った。




