第十二話 ホワイトキャットからの申し出
32サーバーが立ち上がって一週間。
合わない環境やリセマラを理由に、多くのユーザーが他サーバーへ移り、早くも全体の約三割が姿を消した。
その結果、思わぬ変化が起きた。
「……え、私、四十八位?」
ココアが目を丸くしてランキング画面を見つめた。
最近は課金を控え、ギルド拠点強化のための素材集めに注力していただけだったが、どうやら他プレイヤーが離脱したことで順位が繰り上がったらしい。
サーバー総合力ランキング・第48位。
それはプレイヤー全員の戦力値をもとにした順位で、トップ50はサーバー内の誰でも閲覧できる。
つまり、注目されるということだ。
勧誘にしろ、攻撃対象にしろ、“名前が知られる”というリスクを背負う。
【そる】「やったじゃんココア姐さん!上位入りだよ!」
そるが歓声を上げる。
【ココア】「いや、あんまり嬉しくないかも……」
ココアは苦笑し、肩をすくめた。
【ココア】「こういうゲームで上位ってことは、狙われるってことだから」
【スカイ】「まあ確かに。トップ勢って常にどっかのギルドにマークされてるし」
【オニッシュ】「僕は勧誘が鳴り止まなかった、いまは落ち着きましたけどね」
オニッシュが思い出したように言う。
画面の端に、小さな通知アイコンが点滅する。
【通知】メッセージが届きました。
「……うわ、もう来た」
ココアはため息をつきながら開いた。
そこに表示された送り主の名は、White。
ギルド〈ホワイトキャット〉のマスターだ。
「突然の連絡すみません。私たちのギルドをフローライトに加入させていただけないでしょうか?」
ホワイトキャットは、アクティブメンバー4名の少人数ギルド。
マスターのWhiteが個人ランキング45位、残る3人はランク外だが、毎日欠かさずログインしているという。
ココアはすぐに仲間へ相談した。
【ココア】「ホワイトキャットってギルドから加入希望がきたんだ」
【スカイ】「4人ってことは、実質合併みたいなもんだな」
【そる】「おー! 人数倍になるじゃん!」
【オニッシュ】「でも、いきなり加入より、実力を知っておいたほうがいいかもしれませんね」
その言葉に、スカイが頷いた。
【スカイ】「そうですね。せっかくだし模擬戦やってみません?次のギルドバトルで」
【そる】「お、いいね! フローライト対ホワイトキャット!」
【ココア】「え、ギルドバトル? 本気の?」
【スカイ】「もちろん模擬戦ですよ。うちが防衛側、向こうが侵略側で。何より、やってみたいですし!」
話はすぐにまとまった。
ココアはWhiteに提案メッセージを送る。
【ココア】「加入の件ありがとうございます。その前に、次のギルドバトルで、模擬戦をしてみませんか?私たちは防衛側、あなた方が侵略側という形で。」
しばらくして、Whiteから返信が届いた。
【White】「いいね。その条件でいこう。どうせやるならお互い本気で。」
その短い一文が、妙に胸を高鳴らせた。
【ココア】「どうせやるなら本気でだって!」
【スカイ】「よし、全力で迎え撃つか」
【そる】「いいねー、面白くなって来やがった!」
【ココア】「じゃあ、うちは防衛拠点の強化から始めよう!」
【オニッシュ】「罠の配置と迎撃ルートを整えましょう。火力は僕が担当します」
ギルド拠点に再び建設モードが灯る。
壁の補修、罠の再設置、資材の再配置――
防衛準備が始まった。
その夜、〈フローライト〉の拠点では、
焚き火の光がふたたび強く揺れていた。
ーーーー
週末を前にしたある夕方。
仕事と家事を終え、夕食の片付けをしていた梨花は、ふと笑みをこぼしていた。
食卓の向こうで、夫が不思議そうに顔を上げる。
「最近、なんか元気だな。顔が明るいぞ」
「そう? うん……ちょっとね、楽しいことができたの」
梨花は照れくさそうに言いながら、食器を拭き続けた。隣では小学生の息子が宿題を終え、ゲームをしている。
「お母さんもゲームしてるんでしょ? サンドボックスウォーズってやつ」
「そうそう。ギルドのみんなで街を作ったり、戦ったりするの」
「へぇー! いいなぁ!」
「学校でもやってる奴いるよ!でも難しすぎて飽きたって言ってた」
「ふふ、ユーザーも大人が多いからね」
無邪気な声に、梨花も笑ってしまう。
いつの間にか、彼女の生活の中に〈ココア〉としての時間が根づいていた。
それは家事や仕事の合間に、小さくも確かな楽しみを与えてくれる世界だった。
「でも、あんまりスマホ見すぎるなよ。目、悪くするぞ」
夫が苦笑まじりに言う。
「うん、気をつけてるよ」
「……そうだな。次の賞与が出たら、パソコン買おうか」
「えっ! 本当に!?」
「家族共有な。でも、スマホよりは目に優しいだろ」
梨花は思わず声を上げた。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「ありがとう……! 本当にありがとう!」
嬉しさを隠せず、息子とハイタッチを交わす。
家族の笑い声が、柔らかくリビングに響いた。
〈ココア〉としての居場所ができた。
でも〈梨花〉としての時間も、ちゃんとここにある。
両方の世界が少しずつ交わって、
彼女の毎日に、小さな光が灯っていった。
そして、次の土曜日。
フローライト vs ホワイトキャット
初のギルドバトルが幕を開ける。




