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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第三章 アメリアの物語

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第十一話 急展開

 サーバー32、紅の庭園。

 休日の余韻はまだ残っていて、噴水の水音と柔らかな光が庭園を満たしていた。


【cat】「今日はほんと平和だねー」

【さつき】「何も起きない日って、逆に貴重ですよね」


 ギルドチャットは穏やかだった。

 その裏で、アメリアの画面に個別メッセージの通知が灯る。


【ミロク】「相談いいか」

【アメリア】「ええ、どうしたの?」

【ミロク】「ももから、直接会わないかって言われてる。個別で、二人で」


 アメリアの指が、一瞬止まった。


【アメリア】「それは、いつ?」

【ミロク】「昨日から。正直どう返すべきか迷ってる」

【アメリア】「その話、ももさんには控えてと伝えるわ」


 数分後。ギルドチャットに、アメリアからの発言が投下された。


【アメリア】「ゲームの世界で、直接会おうとすることは禁止にしましょう」


 空気が、わずかに張り詰める。


【もも】「それの、何が悪いの?」


 一気に、温度が下がった。


【アメリア】「例えば個別で、二人きりのオフは控えてほしいわ。トラブルの元になるから」


【もも】「は?大人同士で会話するだけじゃない」


 反論は、感情的だった。


【もも】「迷惑になるようなことは、何もしてないんだけど?」


 誰も、すぐには口を挟まない。

 沈黙の中で、メリッサが発言した。


【メリッサ】「……じゃあいっそ、みんなでオフ会、します?」


 一瞬、時が止まる。


【cat】「え?」

【さつき】「オ、オフ会……?」

【ゆり】「えっ、リアルで……?」


 誰もが驚いた、その中で。


【ミロク】「……まあ、二人きりじゃないなら、別にいい」


 さらりとした一言が、場をさらに揺らす。


【もも】「ほら。本人がいいって言ってるじゃない」

【アメリア】「……」


 アメリアは、即答しなかった。だが、メリッサは続ける。


【メリッサ】「場所も時間も、条件も、全部オープンに。それなら、変な誤解も起きません」


【cat】「え、ちょっと楽しそう……?」

【さつき】「でも、急すぎません?」

【ゆり】「私、保護者同伴なら……」


 冗談と本気が、入り混じる。


 紅の庭園は変わらず美しい。けれど、話題はすでに箱庭の外へと踏み出していた。


【アメリア】「……ちょ待って?え?あの流れからこうなる?」


 こうして誰も予想していなかった方向へ、スカーレットは動き出す。

 平和な日常の中で生まれた、最初の、現実への扉。


 それが、何を壊し、何を試すのか。

 まだ、誰にも分からなかった。


 その夜。

 阿里亜は、スマートフォンを伏せたまま、しばらく動けずにいた。


 仕事用の作業着はまだ脱いでいない。

 塗料の匂いが、指先にかすかに残っている。


 ――なんで、こうなる。


 天井を見上げたまま、息を吐く。ゲームの中では、判断は早い。迷いも少ない。

 アメリアは()を守る役割を、自然と引き受けてきた。


 でも、現実が絡むと話は別だ。

 オフ会。たった三文字なのに、胸の奥がざわつく。


 過去に、何度か似た誘いはあった。

 断った。理由を並べて、角が立たないように、丁寧に。


 会って、何になるんだろう。

 会った瞬間、壊れるものの方が多いんじゃないか。


 箱庭は、距離があるから成立している。年齢も、立場も、現実の顔も関係ない。ただ、そこに居たいという気持ちだけが許される場所。


 だからこそ、スカーレットは守れている。


 阿里亜は、スマホを手に取る。通知は、まだ増えていない。

 誰も、続きを言い出せずにいるのだろう。


 メリッサの言葉が、頭をよぎる。


 全部オープンに。


 理屈としては、正しい。隠すから歪む。

 閉じるから、誤解が生まれる。


 でも。


 ももは、悪気がないのかもしれない。それでも、境界線を踏み越えることに、躊躇がない。

 ミロクは、流されやすい。断るより、受け入れてしまうタイプだ。

 ゆりは、まだ子どもだ。catとさつきは、軽いノリで済ませられるけれど。


 ――私は?


 アメリアは、箱庭の女王。でも阿里亜は、ただの塗装屋だ。人前に出るのも得意じゃないし、誰かを仕切る自信もない。


 それでも、アメリアとしてなら。決めることはできる。


 阿里亜は、深く息を吸い、スマホを開いた。

 文章は短く。逃げずに、線を引くための言葉。


 送信ボタンを押す前に、一瞬だけ迷って、それでも指は止まらなかった。


 翌朝。

 紅の庭園に、アメリアの言葉が静かに表示される。


【アメリア】「オフ会の話、少し整理させてください。前提として、強制参加はなし。未成年がいる以上、条件は厳しめにします。全員が安心できないなら、この話は白紙です」


 少し、間を置いて。


【アメリア】「このギルドは、現実より先に居場所でありたい。それが壊れる可能性があるなら、私は止めます」


 その言葉を打ち終えた瞬間。

 阿里亜は、肩の力が抜けるのを感じた。


 正解かどうかは、分からない。

 誰かが不満を持つかもしれない。

 ももが、また反発するかもしれない。


 それでも。


 守りたい場所が、はっきりしているなら。

 迷いながらでも、前に出るしかない。


 紅の庭園に、朝の光が差し込む。

 箱庭は、まだ静かだ。


 この選択が境界線になるのか、

 それとも亀裂になるのか。


 答えが出るのは、もう少し先。

 現実とゲームが、同じ方向を向いたときだった。

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