第八話 箱庭の女王達
数時間の作業が終わり、ゆずの個人拠点は見違えるほど変わっていた。
床は磨かれた木目調のフローリングエフェクトに張り替えられ、中央には攻撃力強化の石像が威風堂々とした配置で鎮座している。
周囲を囲むように回避旗と命中看板が整然と並び、トーテムは壁際に沿って導線を妨げぬよう配置。
さらに小さな魔導ランプが柔らかな光を落とし、影の角度まで計算された空間は、まるで戦士の聖域のようだった。
【ゆず】「……すごい」
自分でも信じられない言葉が漏れた。 バフ効果は以前より明らかに向上し、ステータスウィンドウに表示される隠し補正「快適度+28%」が、すべてを物語っていた。
【みぃ子】「えへへ、まだまだこれからですよ! でもゆずさんの攻撃特化スタイルにぴったりでしょ?」
みぃ子が得意げに胸を張るその時、転移光が二つ、拠点に灯った。
【ココア】「おー、呼ばれたから来たけど……これは!?」
【リデル】「うわぁ……みぃ子ちゃん、すごい仕事したね」
現れたのはギルドマスターのココアと、リデルの二人。 ココアは珍しく目を丸くしている。 リデルはすぐに部屋をぐるりと見回し、感嘆の息を漏らした。
【ココア】「ゆずの拠点が……こんなに整ってるなんて。バフ効率も見た目も、完璧じゃないか」
【リデル】「快適度補正、しっかり乗ってる! これ、もう中位は固いレベルだよ」
ゆずは少し照れながら、みぃ子をちらりと見た。
【ゆず】「みぃ子が……おしえてくれた」
【みぃ子】「ゆずさんがセンスいいんですよ! 配置の決め方が早くて、ほんとびっくりしました!」
ココアが腕を組み、満足げに頷いた。
【ココア】「フローライトのメンバー全員が、拠点評価上位に食い込む可能性が出てきたな。みぃ子は八位、私が六位、リデルが七位……そしてゆずがここから急上昇すれば」
【リデル】「次回の拠点コンテスト、サーバー全体で上位を独占できるかも!」
みぃ子の目がきらりと光った。
【みぃ子】「そうなんです! だからみんなを呼んだんです!4人で協力すれば、絶対に狙えますよ!」
【ゆず】「コンテスト……みんなで?」
ゆずの声に、少しの驚きと、確かな期待が混じっていた。
【ココア】「ああ。素材集めからテーマ決めまで、ギルド総力でいこう!」
【ゆず】「へーいいですね、やります!」
4人の視線が交差し、静かな決意が空間を満たした。
【リデル】「じゃあ今日は、まずは素材集めから! 森の奥にレアな建造物素材が出るポイントがあるんだよね」
【みぃ子】「行きましょう! コンテストに向けて、いいもの集めましょ!」
転移魔法が発動し、4人はサーバー32の深い森へと移動した。
そこは戦闘区域ではなく、採取と建造素材専用の穏やかなエリア。 木漏れ日が差し込み、小川の音が響く、静かな場所だった。
しかし、採取ポイントに近づいた時、前方に二人のプレイヤーが立っていた。
一人は深紅のドレスを纏った優雅な女性。 もう一人は淡いピンクのローブに身を包み、穏やかな微笑みを浮かべた女性。
二人とも、武器を帯びていない。 代わりに、手には採取ツールと、見たこともない美しい素材の束。
【アメリア】「あら、こんなところで他のプレイヤーさんですね」
【メリッサ】「こんにちは。素材集めですか?」
声は柔らかく、立ち振る舞いは完璧だった。 まるで貴族のような気品が、自然と漂っている。
【ココア】「……アメリアさんと、メリッサさん、ですね?」
【リデル】「うそ……ほんとに……」
ゆずは、二人の名前を聞いて瞬きした。
サーバー全体の拠点評価ランキング、不動の一位と二位。
スカーレットギルドの創設者にして、戦闘ではなく、箱庭で頂点に君臨する伝説の二人。
【アメリア】「スカーレットギルドのアメリアです。よろしくお願いしますね」
【メリッサ】「同じくメリッサ。あなたたちは……フローライトの方々? 最近、評価が上がってきてますよね」
ココアが一歩前に出て、静かに頭を下げた。
【ココア】「ギルドマスターのココアです。お二人の拠点は、いつか見てみたいと思っていました」
【アメリア】「ふふ、ありがとうございます。でも、まだまだ満足できるものじゃないんですよ。常に更新し続けていないと、すぐに追い抜かれますから」
その言葉に、ゆずの胸がざわついた。
「追い抜かれる」
つまり、この二人は、頂点にいながらも、誰かに抜かれることを前提に、作り続けている。
戦う者ではない。 それでも、誰よりも強く、誰よりも深く、この世界を極めている。
【メリッサ】「次回のコンテスト、フローライトさんたちも本気で狙ってくるんでしょう? 楽しみです」 【みぃ子】「は、はい……! がんばります!」
アメリアが、優しく微笑んだ。
【アメリア】「私たちも、負けるつもりはありませんよ。箱庭は、戦場と同じです。妥協は許されませんから」
その一言に、4人の背筋が伸びた。
敵ではない。だが、明確なライバル。
拠点コンテストの頂点を狙うなら、必ずぶつかる壁。
ゆずは、自然と拳を握っていた。
(つよい……このひとたち)
剣ではない世界。でも、だからこそ戦いたい。
森の風が、静かに木々を揺らした。
新たなライバルとの出会い。 そして、フローライトの4人が目指す、次の戦場の幕が、静かに上がろうとしていた。
ーーー 第二章 ゆずの物語 完 ーーー




