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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第二章 ゆずの物語

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第七話 知らなかった世界

 海竜レヴィアトル討伐から一夜明けた月曜日。

 ゆずのメッセージウィンドウに、ひとつの招待が届いた。


【みぃ子】「ゆずさん、もしよかったらうちの個人拠点、見に来ますか?」

【ゆず】「行く。みたい。あなたの拠点」


 直後、みぃ子から顔文字だらけの喜びメッセージが返ってきて、ゆずは小さく笑った。


 転移光が消えた瞬間、ゆずは息を失った。


「……ここが、みぃ子の……?」


 白と金を基調とした柔らかな光。

 壁一面を流れる薄いエフェクトは、小さな星屑が舞うように輝いている。

 色とりどりの鉢植え、小さな魔導装飾品、配置の一つ一つが迷いなく選ばれた場所にある。


 その空間は、ひとつの芸術作品だった。


【みぃ子】「えへ……家具も壁も導線も全部、こだわりました!」

【ゆず】「美術館の展示室みたい」


 何気なく触れた棚の縁で、ゆずは息を呑む。

 影の出方まで計算されている。こんな拠点、見たことがなかった。


 みぃ子は少しだけ視線を落としながら、ぽつりと告げた。


【みぃ子】「あ、あの……拠点評価ランキングで、わたしいま八位なんです」


 ゆずは瞬きした。


【ゆず】「サーバー全体で?」


【みぃ子】「はい、月の課金は数千円なんですけど……配置と動線だけは、絶対に妥協しないようにしてて」


 ゆずは部屋の中央でくるりと見渡した。

 妥協がゼロの空間。それを数千円とセンスで作り上げたという事実に、言葉が出なかった。


【みぃ子】「あ、ちなみにフローライトだとココアさんが六位で、リデルさんは七位です!」

【ゆず】「……うそ」


 ゆずの脳裏に、昨日のレイドの二人が浮かんだ。


 ギルマスにして、高い戦闘力を誇るココア。

 ヒーラーで光属性攻撃も操る勇敢なリデル。

 その二人もゆずの上にいる。それも拠点評価で。


(フローライト……戦闘も強いけど、箱庭勢でもトップクラスだったの?)


 続けて、みぃ子が小さく声を落とした。


【みぃ子】「一位と二位は、ずっとスカーレットってギルドの人なんです。アメリアさんとメリッサさん。バトル勢では名前を聞かないんですけど、拠点勢の間では伝説級で……」

【ゆず】「スカーレット……?」


 初めて聞く名前だった。

 だが、その知らない強さが妙に胸をざわつかせる。


(戦わなくても……評価の頂点に立てる人がいる世界……サンドボックスウォーズ……奥深い)


【ゆず】「……みぃ子。拠点評価って……そんなに奥が深いの?」

【みぃ子】「深いです!!! めちゃくちゃ深いです!!属性一致、家具同士の親和性、採光、影の角度、導線効率、エフェクトの干渉、さらにはプレイヤーの装備まで!もう無限です!!」


 語り始めた瞬間、みぃ子の目が戦闘中のアタッカーより強い光を放った。


 昨日、臆病そうに見えたヒーラーとは別人のようだった。


(すごい、これも……戦いなんだ)


 ただ武器を振るうだけが、この世界じゃない。


 剣士のゆずが持っていない、もう一つの戦場。

 自分だけの箱庭というまったく別の力。


 ゆずは自然と口にしていた。


【ゆず】「……みぃ子。もし良ければ……教えて。拠点づくり」


 みぃ子は、ゆずが想像しなかったほどの速さで顔を上げた。


【みぃ子】「はいっ!! ゆずさんなら絶対、すっごい拠点作れます! 一緒にやりましょう!」


 ゆずは笑った。


 剣殺だけでは見えない景色。

 箱庭には箱庭の奥深い世界があり、このサンドボックスウォーズは、戦う者にも、作る者にも、等しく舞台を用意している。


 みぃ子の拠点を一通り見終えたあと、二人はゆずの個人拠点へ転移した。


 次の瞬間、みぃ子の笑顔がぴたりと止まった。


「…………」


 沈黙。


 白と金の芸術空間を見た直後に訪れたのは……

 攻撃力+3%の石像

 回避+2%の旗

 命中+2%の看板

 属性強化のトーテム

 謎の祭壇

 そして家具とも言えない「謎の箱」の山。


 すべてが効果だけを目的に、荒野のように散乱している。


 言うまでもなく、美観ゼロ。


【みぃ子】「……ゆずさん……これ……」

【ゆず】「バフ優先。効果あるやつ全部おく」

【みぃ子】「全部……置きました?」

【ゆず】「全部つよい。だけどみにくい。しってる」


 みぃ子は、そっとしゃがみこみ、乱雑に置かれたオブジェクトの距離や影の角度を確認し始めた。


【みぃ子】「これ……整頓すれば、もっと強くなります」

【ゆず】「……つよく?」

【みぃ子】「はい。導線が整うと、隠し評価値が上がるんです。『快適度』って言って……それが一定ラインを超えると、拠点バフに補正が入って、さらに強化されるんですよ」


 ゆずの瞳が大きく揺れた。


(そんな……知らなかった……)


 サンドボックスウォーズにおいて、バフは重要。

 だからこそ、ゆずは効果の記載だけを信じて積むだけだった。


 だが導線や快適度という、見えない評価。

 そこまで含めて「拠点の強さ」だったとは。


【ゆず】「……みぃ子。わたしの拠点……よわい?」

【みぃ子】「弱くないです! 素材は全部強い! でも、その……宝の持ち腐れ状態です!」

【ゆず】「……もったいない?」


 みぃ子は、力強くうなずいた。


【みぃ子】「整理整頓するだけで、ゆずさんの戦闘スタイルに合わせた最適解を作れます。攻撃寄り? 回避寄り? バランス? 目的に合わせて、配置で伸ばせるんです」

【ゆず】「配置で、のびる……?」


 ゆずの胸に、また新しい戦場の気配が灯った。


 剣術でも魔法でもない。

 これは、空間を操る戦い。


【みぃ子】「まずは、全部どかしましょう!」

【ゆず】「わ、わかった」


 二人は拠点中央に向かい、床の上に散乱したオブジェクトを一つずつ移動させていく。


 石像が持ち上がるたびに埃が舞い、旗が倒れるたびに音が響き、トーテムが転がるたびにゆずは目をそらした。


【ゆず】「みぃ子。これ……はずかしい」

【みぃ子】「大丈夫です!! 誰だって最初は倉庫みたいになります!! ここからゆずさんの世界を作っていくんです!」


 励ます声は、どこか眩しく温かい。


 やがて、中央の空間が空き、床が見え始めた。


 拠点整理という作業が、まるで新しい冒険の始まりのように感じられた。


(これは……剣では届かない領域)


 ゆずは、はじめて剣を握った日のように胸が熱くなる。


【みぃ子】「じゃあ、ゆずさん。コンセプト決めましょう!」

【ゆず】「こんせぷと?」

【みぃ子】「はいっ! まずはどう戦いたいかです! 拠点は心の鏡なのでっ!」


 ゆずは少し考えて短く答えた。


【ゆず】「勝ちたい。ぜんぶに」

【みぃ子】「最高です!! じゃあ攻撃特化 × 機動導線でいきましょう!」


 ゆずは頷いていた。


 並んで立つ二人の視線の先には、まだ何もない空間。だがそこには、ゆずの新しい力が芽吹こうとしていた。


 剣士ゆずの、もう一つの戦い。

 その第一歩は()()()()だった。

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