第三話 スカイとオニッシュ
日曜日でも、空也のスケジュールはぎっしりだ。
午前中は部活。
午後からはまたスターダストホテルでバイト。
夜にはレイドボス。
星6・崩壊のグランデ。
バイト終わり、制服のまま駅へ向かい、電車に飛び乗る。揺れる車内でスマホを取り出すと、ギルチャがすでに騒がしい。
【カノン】「まもなく突入する」
【ザン・シャオ】「星6相手にこの人数はキツいね……」
スカイは軽く息を整えてアプリを起動した。
【スカイ】「今入りました!」
敵の体力ゲージは、まるで壁。
通常なら十数人以上必要なクラス。
【カノン】「短期決戦で畳み掛けるぞ」
【オニッシュ】「後衛、僕の後ろに。押し切る」
【ケリー】「うん、援護は任せて」
カノンの魔黒斬波が遠距離から削り、オニッシュのダーク・インパクトが体力ゲージを大きく削る。
(やっぱこの二人、おかしい強さしてんな……!)
スカイは火力よりもデバフや回復の支援に徹し、
ギルド全体の被ダメージを抑える。
そしてーー
【システム】《崩壊のグランデ 討伐成功》
6人とは思えない速度で撃破。
レイド報酬が続々とチャットに流れる。
【カノン】「お疲れ、みんな」
【BROS】「カノンとオニッシュ、やっぱやばいな」
【オニッシュ】「い、いや……みんなの補助がなかったら崩れてたよ」
その後、解散の流れになり、
スカイはふっと手元の通知に気づく。
【オニッシュから個人チャットが届きました】
タップすると、
オニッシュから短いメッセージが送られていた。
【オニッシュ】「今日もありがとね。電車の中で大変だったでしょ」
【スカイ】「いえいえ! オニッシュさんこそお疲れ様です!」
少し間が空く。
やがて、スカイは前から気になっていたことを切り出した。
【スカイ】「……そういえば、オニッシュさん。そろそろ解放されそうなんですか?」
返ってきたメッセージは、意外なほど重かった。
やがて、小さな文字が表示された。
【オニッシュ】「返したよ。全部。だけど…終わったと思ってるの?って言われた」
【スカイ】「え?」
【オニッシュ】「今日までの生活費、全部返してから出ていけだって。金額もよく分かんない。もう、数字のない借金みたいなものだよ」
言葉の端々に、ギルドでの冷静さとは違う 年相応の疲れと弱さ が滲んでいた。
スカイとの個チャでは、オニッシュは「私」を使う。ギルドでの中性的な「僕」ではなく、素の彼女のままの言葉が出てくる。
【オニッシュ】「スカイくんにだけ言うけど……私、たぶん当分あの家から逃げられない。お金じゃどうにもならないやつだから」
スカイは胸が締めつけられた。
しかし、彼女を重くさせたくなくて話題を変える。
【スカイ】「そういえば拠点コンテストって……オニッシュさん、めちゃ強いって聞きました」
【オニッシュ】「ああ、あれ?」
返ってきた声は、少しだけ柔らかい。
【オニッシュ】「興味ないよ。ただ好きに置きたいもの置いてただけ。そしたら勝手にランクインしてただけ」
やっぱり、とスカイは思う。この人は無自覚で強い。
【スカイ】「でも、好きにやって上位って普通じゃないです」
【オニッシュ】「……スカイくんが言うなら、悪くないかな」
その一言が、少し照れてるようにも見えた。
電車のアナウンスが流れる。
【スカイ】「そろそろ降りるので、一旦落ちます!」
【オニッシュ】「うん。気をつけて帰ってね。……また後で」
スマホ画面を閉じながら、スカイは思った。
オニッシュはギルドで見せる顔と違う、本当の女の子の部分を自分にだけ見せてくれている。
翌日。
空也が昼食を取り終えた頃、大地がやってきて勢いよく椅子に座った。
「空也! 昨日の運営のお知らせ見たか!?」
「え? まだ見てない。なにかあったの?」
大地はスマホを開きながらニヤニヤしている。
「ついに “サーバー統合の第一弾” が来たぞ!」
「え、もう?」
「まあ今回統合されるのは、《1〜4》《5〜8》《9〜12》《13〜16》の四つのグループだけだけどな。人口減ってるサーバーの救済だと」
空也はそれを聞いて、胸の奥がざわついた。
「でもさ、運営の書き方だと、いずれ全グループ化進めるっぽくね?たぶん《29〜32》も、いつか同じグループになるぞ!」
大地は続ける。
「いや〜俺ワクワクしてんだわ。空也のいる32サバって あの篝火紫苑がいるだろ? あの有名配信者!」
空也の胸がギュッと縮む。
大地は興奮気味だ。
「統合されたらさ、空也が案内してくれよ?紫苑と話してみてぇ! 絶対いい子だろ、てかプレイヤー名隠してるけど、お前知ってたりする!?」
空也は笑うしかなかった。
「ははっ…いやー、わかんねぇな」
本当のところを言えるはずがない。
篝火紫苑──それは、ギルドの仲間 オニッシュ のプレイヤー。
誰にも言えない姉の束縛。軽い気持ちで近づいていい存在じゃない。
だがそれを説明できるわけもなく、大地は無邪気なまま続ける。
「いや〜マジで楽しみだよな!29〜32の統合したら、とりあえずお前んとこに突撃してやるわ!」
「……あはは。優しくしてくれよ?」
笑って答えながらも、
胸の奥のざらつきは消えなかった。
(……大地。篝火紫苑は…いや、オニッシュさんは、そんな軽く追いかけていい相手じゃないんだ)
空也はただ、誤魔化すように笑うしかなかった。
ーーー 第一章 スカイの成長 完 ーーー




