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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第九章 カノンの物語

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第五十四話 私はまだまだ強くなる

 金曜日、夜九時。


 ログイン通知が重なる音が、まるで開戦の号砲のように響いた。

 中央大闘技場。観戦ルームには、すでに数千を超えるプレイヤーが押し寄せ、チャット欄は爆発している。


 《Sランク1位 vs Sランク2位》

 《サーバー8グループの頂上決戦!》

 《この試合を逃すな!》


【カノン】「ここまで来た。やっと、最強と斬り合える」


 闘技場の中央に、ひとりの剣士が立つ。

 長いコートを翻し、絶対的な自信を纏う、28サーバー最強の男・アブソル。


 彼の名は、SBW全体でもトップクラスの実力と、百万を超える課金で尖り切った“構築の暴力”により知られている。


 ランキング総合4位。

 対するカノンは5位。

 数値は近い。だが、その差は誰もが“越えられない壁”だと信じていた。


【アブソル】「来たな、カノン。お前とやれる日を待ってた」

【カノン】「私もだ、アブソル。……全力で行く。手加減はしない」


 二人の視線が交差した瞬間、大闘技場の空気がひりついた。


 開幕、アブソルが構えるより早く、カノンの剣が光の軌跡を描いて迫る。


【アブソル】「ッはええッ!」


 火花が散る。

 金属の叫びが闘技場に響く。


 プレイヤーたちが息を呑んだ。


 《速すぎる……!》

 《視認できねぇ》

 《マジでこれSランクの戦い?》

 《チートみたいな反応速度してるんだが》


 斬撃は百を超え、衝突音は千を重ねたかのようだった。


 互いのHPはほぼ並行して削れ、誰もが見間違えそうなデッドヒートを繰り広げる。


【カノン】「強いなッ!過去最高に!!」

【アブソル】「お前こそ、聞きしに勝る化け物だな!」


 カノンの操作精度は、アマテラス討伐後さらに研ぎ澄まされていた。

 アブソルは、それを真正面で受け止め、笑っていた。


【アブソル】「やっぱ本物だ、お前は!」


 残りタイム、四秒。

 互いの剣が最後の衝突で止まった。


 システムが淡々と告げる。


 《TIME UP》

 《勝者:アブソル(判定 52.1% vs 47.9%)》


 観戦チャットが爆ぜた。


 《紙一重!?》

 《えぐすぎる》

 《ほぼ互角じゃん》

 《こんなん実質互角だろ……》


 アブソルは肩で息をしながら、静かに笑う。


【アブソル】「……勝った、けど……あぶねぇ……マジでギリギリだった」

【カノン】「負けたのに……楽しかった。ありがとう、アブソル」


 まるで勝者のような笑顔だった。


【アブソル】「次は分からねぇぞ。お前、伸び方が異常だ」

【カノン】「楽しみがまた増えた。……私はまだまだ強くなる」


 自分の個人戦そっちのけで、観戦していたメンバー達。彼らだけではない。カノンとアブソルが当たったと聞いて、観戦に回った者は少なくなかった。


【BROS】「勝ったのはアブソルだが、内容は互角以上だな」

【ケリー】「はい。あれはもう……今のSBWで最高峰ですよ!黒王さんにも見てほしかった」


 この日、黒王は不在だった。現実では今、仕事をしている。32サーバー2位の黒王だが、個人ランク戦は参加率が高くなく、ギリギリSランクを維持している程度である。


【ザン・シャオ】「こっから先、どうなるんだよ……ワクワクしかねぇ!」


 メンバーの中に、敗北の空気は一切なかった。

 むしろ、皆が確信していた。


 カノンは、さらに高みに行く。

 この敗北すら、カノンを研ぎ澄ませる。


 闘技場を後にしながら、流星は小さく笑った。


(まだ届かないか。でもいい。……ここからだ。俺はもっと強くなる)


 その瞳は、勝者よりも強く、まっすぐに未来を見つめていた。


 翌日。

 中央フィールドの空気は、昨日の決闘の余熱をわずかに残していた。


 ダークキング vs サンドウォール。


 指揮官・黒王は不在。

 その穴は本来、大きすぎるはずだった。


 サンドウォールには、先週まで共に戦った名タンク・ドラテ。

 そしてずば抜けたバフと指揮能力を持つ僧侶・すなっちがいる。


 彼らの攻めは苛烈。

 すなっちのバフ・デバフ管理は隙がなく、ドラテは驚異的な壁として前線を押し上げる。


 しかし、ダークキングも負けていなかった。


 カノンとオニッシュ。

 この2人の火力と判断力が、完全にバランスを狂わせる。

 BROS、ザン・シャオ、ケリーも噛み合い、連携はむしろ黒王がいる時より鋭かった。


 やがてドラテが落ち、続けてすなっちも倒れる。

 ジャコウ、G2らも次々と崩れ——


 結果、ダークキングが最強の座を堅守。


 勝利の瞬間、チャットは爆発した。

 黒王不在のはずなのに、誰もそれを感じさせない連携だった。


 一方その頃、Rebellionは銅区画を取得。

 彼らの旗が空に翻った瞬間、流星は小さく笑った。


「……次の遊び相手が、また増えたな」


 近い将来訪れる、決戦の足音が確実に近づいていた。


ーーー 第九章 カノンの物語 完 ーーー

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