第五十一話 厄災カノン
戦場の中心部。
そこだけ、まるで異界のように静まり返っていた。
DARK KINGの生き残りはただ一人。
32サーバーの厄災・カノン。
対峙するのは、死線を超えて生き残った六名。
ランスロット。
ジェイ。
White。
そる。
シャイン。
スカイ。
総勢六名。数で言えば圧倒的優位。
だが、誰もが理解していた。
(こいつ相手に数は意味をなさない)
黒王の撃破ログが流れた瞬間、カノンが足を止めた。
(……怜王の奴、やられたのか)
一瞬だけ、瞳の奥に人間らしい影が差した。
だが次の呼吸には、すべてを切り捨てるように戦闘者の目へ戻る。
【カノン】「来るなら来い、全部まとめて沈めてやる」
雷鳴のように地面が弾けた。
ランスロットが先陣。
その背に、蒼い残光を伴うジェイの影が続く。
【ランスロット】「全力で行くぞッ!!」
【ジェイ】「遅れるなよ、White!!」
迫る二枚看板の猛攻。
ランスロットの大剣が火花を散らし、ジェイの双剣が連続斬を叩き込む。Whiteが横合いからタックルのような盾突撃でカノンを押し込み、そるのヒールが味方の体力を底上げする。
完璧な連携。
しかしカノンは、ひと呼吸すら乱さない。
【カノン】「……遅い」
大地が抉れた。ランスロットの剣を弾き返し、その反動を利用してジェイの懐に踏み込み、胸元へ掌底一撃。
【ジェイ】「がっ……!?」
【システム】《ジェイ 撃破》
鮮烈な一撃。戦場から一人が消え、空気が一気に冷えた。
続けざま、Whiteの盾が砕け散る。
【White】「っ……!?これは……!!」
カノンの刀が盾の中心を穿ち、背ごと吹き飛ばす。
【システム】《White 撃破》
盾を叩き割られたという事実に、そるの喉がふるえた。
(嘘だろ……あの壁を……!?)
ランスロットが噛みしめる。
【ランスロット】「くそっ……持ちこたえられん!!」
そるが必死に距離を取りながら回復を撒くが、カノンの圧力はそれすら許さない。
圧倒的。まさしく厄災。
追い詰められた二人の前に、風を裂く足音が響く。
【シャイン】「待たせたわね!!」
【スカイ】「もう誰も、失わせないッ!!」
シャインとスカイが戦場へ飛び込んだ。
サーバー全体を…否、SBW全てを揺らした最大の戦争は、ついに最終局面へ突入する。
カノンは刀を静かに構え直す。
【カノン】「これで最後だ」
大地が、空が、世界そのものが震えた気がした。
黒紫の斬撃が螺旋を描きながら収束し、一本の死の軌跡へと変わる。
――奥義・閻魔一閃。
光も音も置き去りにする、絶対の一撃。
ランスロットの視界が白く染まり、
そるの呪文詠唱が途切れ、
シャインの片手が光を掴むより早く──
【システム】《ランスロット 撃破》
【システム】《そる 撃破》
【システム】《シャイン 撃破》
轟く爆風が戦場を包み込み、三人分の光柱が空へ昇る。残ったのは、射程の外に偶然いたスカイただ一人。
(……嘘、だろ)
目の前で仲間が一瞬で薙ぎ払われる現実に、スカイは声を失った。だが、膝だけは折れない。折ってはいけないと、本能が叫んでいた。
そんな彼を見て、カノンは静かに目を細める。
【カノン】「まさか……私をもってしても、全滅に届かぬとはな。見事だったよ、スペシャルオーダーズ」
それは敗者ではなく、戦い抜いた者に対する尊敬の言葉だった。しかし次の瞬間、戦場すべてにシステム音が落ちる。
【システム】《タイムアップのため、防衛側の勝利》
【システム】《中央金大区画 勝者:DARK KING》
長く、重く、そしてサーバーの命運すら左右した頂上決戦は、DARK KINGの勝利で幕を下ろした。
城内の静寂が、やがて観戦画面のざわめきに飲み込まれた。サーバー中のプレイヤーたちが、勝敗の瞬間を目撃していた。
【ランスロット】「完敗だ、見事だった」
【ココア】「いやー、鬼朱雀さん凄いわ、初めて暗殺失敗した」
【BROS】「暗殺失敗っていやぁ、スカイ。お前マジで上手かったわ」
【マルメン】「マジで熱かった!いやー、やっぱ出たかったなー!」
画面の中で、黒王が笑みを浮かべ、仲間たちに深く頭を下げた。
【黒王】「スペシャルオーダーズ…今日は本当に、ありがとう。お前たちがいなければ、俺たちもここまで辿り着けなかった」
かつてない規模の戦いを制した達成感と、激闘の余韻に、サーバーは揺れた。
チャット欄が一瞬で大賑わいとなる。
【シャイン】「黒王が感謝?やべえ、まじで鳥肌」
【すなっち】「黒王、お前やっぱ悪い奴じゃねえな」
【牙】「ちっ、認めてやるよ。ダークキング、やっぱり最強だ!!」
その熱気は、単なる勝敗の報告ではなかった。
プレイヤーたちは、ゲームの中で交わされた努力と絆、裏切りと和解、挑戦と限界突破のすべてに、心を揺さぶられていた。
黒王も、カノンも、そして戦い抜いた全てのプレイヤーも。
【アリス】「32サーバーが一つになった気がするわ。Mileyのおかげね」
【シャイン】「よ!実行犯!w」
【Miley】「あはは…まさかこんなことになるなんて思ってませんでした」
【カノン】「いや、いい目論みだった。私からも礼をいう。感謝する」
勝利の栄光だけでなく、戦いのすべてが、彼らを少しだけ大きくしたのだ。
爆風と光が去り、戦場に静寂が戻った。
スカイは膝をつき、深く息を吐く。
全てが終わった。
そう実感した瞬間、目の奥に仲間の姿が浮かぶ。
(……オニッシュ、大丈夫だろうか)
胸に、不安が重くのしかかる。
黒王の言葉が脳裏をよぎる。無理矢理配信され、戦わせられていた可能性。
それを思うだけで、自然と拳が強く握られた。
(……オニッシュ、絶対に君を必ず助け出す)
膝をついたまま、スカイは静かに立ち上がった。
戦場の熱と光の余韻が夜の冷気に溶けていく中、彼の心には一つの決意が残っていた。
勝利ではなく、仲間を守るために。
ーーー 第八章 スペシャルオーダーズの物語 完 ーーー




