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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第八章 スペシャルオーダーズの物語

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第四十六話 邂逅

 オニッシュの奮闘は、視聴者数をとんでもない勢いで押し上げていた。

 ライブ配信のコメント欄は爆発したように流れ、戦場の熱狂がそのまま画面越しに伝わってくる。


 だがその裏で、別の最前線もまた、極限の戦いの真っ只中にあった。


 ランスロットは、カノンへ至る最後の障壁、タンクのドラテと対峙していた。

 その一撃一撃は重く、しぶとく、まさに壁。ランスロットほどの実力者であっても、突破には長い時間を要した。


【システム】《ドラテ 撃破》


 ドラテが崩れ落ちると同時に、砂煙の向こうから三つの影が現れる。


 アークラインを仕留めたばかりガラハッド、ガウェイン、レオネル。


 スペシャルオーダーズの中核を担う三人が、ランスロットに肩を並べた。


【ガラハッド】「待たせたな。ここからは一気に行くぞ」

【ランスロット】「ああ。カノンはもうすぐだ」


 四人は最奥へと続く黒い大扉を押し開ける。


 そこは静寂の玉座。


 だが玉座に黒王の姿はない。その手前、昏い焔の揺らめく中に、一人の少女が立っていた。


 白髪。黒装束。

 その小柄な身体に秘められた力は、ギルド一つ分どころではない。


 カノン


 ダークキングの核にして、32サーバーの厄災。


【カノン】「……待っていたよ、スペシャルオーダーズ」


 ランスロットが鋭く目を細める。


【ランスロット】「玉座には座らないのか。お前の王国だろう」

【カノン】「玉座は黒王のもの。私はただ、代わりを任されているだけ」


 声は静謐で、しかし絶対の自信と殺気を含んでいた。


 四人でも足りるのか?誰もが脳裏でそう問う。


 だが退く選択肢はない。


 スペシャルオーダーズの精鋭四人が陣形を整え、カノンが無言で一歩前へ出る。


 たった一人の絶望と、四人の最強。


 均衡が崩れた瞬間──

 玉座の間を揺るがす、かつてない激突が始まった。


 一方そのころ。

 双剣を構えたザン・シャオ。その刃には、まだ温い血飛沫が滴っていた。


【ザン・シャオ】「次は……お前だ、ベディヴィア」


 対するは、重騎士ベディヴィア。

 騎士団随一の戦技巧を誇り、攻防の切り替えが恐ろしく鋭い。


 双剣と大盾。

 スピードと堅牢の究極のぶつかり合い。


 ザン・シャオの剣線は竜の舞のように高速で、体ごと回しながら刃が雨のように襲う。

 しかしベディヴィアは一歩も退かず、盾と刃を最適解で動かし続ける。


【ベディヴィア】「……浅い」


 ザン・シャオの連撃のわずかな緩みを、見逃すはずがなかった。


 ベディヴィアの剛突が胸元へ直撃する。


【ザン・シャオ】「っ……ぐあッ!」


【システム】《ザン・シャオ 撃破》


 牙を葬った双剣使いが、今度は騎士に討たれた瞬間だった。


 ――同時刻。別の戦場では、暗殺者BROSがそるとスカイを追い詰めていた。


 奇襲と急所狙い、錯乱のステップ。

 まさに暗殺者の理想形だが、今日の二人は一筋縄ではいかない。


【そる】「はぁッ……バフ重ねるぜッ!」


 そるが自身へ強化魔法を連打し、光輪が背に現れる。天使の加護を受けた大天使メイスが、鈍重とは思えぬ速度で振り下ろされた。


【BROS】「近接もいけんのかよテメェ……!」


 スカイは後方で冷静だった。


【スカイ】「デバフ更新。炎陣展開!はい、これで動き鈍った」


 BROSの軌道は乱れ、焦りが目に見えて積み重なる。


【BROS】「チッ……クソガキ、燃やすぞッ!」


 苛立ちが限界を超えたBROSは、ついにスカイへ一直線に突撃した。


 その瞬間、スカイの背後。

 まるで“影そのもの”のように、気配を完全に殺していたココアが動く。


 静かに、一歩。


 そして。


【ココア】「“隠密者”が感情に流されちゃ、ダメだよね」


 一閃。


 だがそれは、いつものバックスタブではない。


 この地獄の戦場で仲間を救い続け、無数の死線を越えてきた彼女だけが辿り着ける領域。


 盗賊職が持つ最終奥義──

 アサシネイト・インペイル


 光すら追いつけない貫通の一撃が、BROSを串刺しにする。


【BROS】「……は? お……ま、え……ッ」


 悔しさを噛み締めたまま、光の粒子となって霧散していった。


【システム】《BROS 撃破》


【そる】「さすが……さすがココア姐さん!」

【スカイ】「一生ついて行きやす!!」


 ココアの一閃が戦場を静かに断ち切った。


 霧散したBROSの光が消えると、周囲には剣戟も怒号もなく、ただ三人だけの呼吸音が残る。


【そる】「……はぁ、終わった……!」

【スカイ】「マジで死ぬかと思った……」


 ココアは二人の無事を確認すると、背後の戦火へ目を細めた。


【ココア】「まだ終わらないよ。ダークキングの上位は、まだ誰も倒れてない」


 その言葉に、そるもスカイも一気に緊張を取り戻す。遠方では、黒い衝撃と白い閃光が玉座の方向から立ち昇り、地鳴りが連続している。

 カノンとスペシャルオーダーズ四人の激突が、すでに戦場の空気を震わせていた。


 そしてダークキングの城の付近では、ダークキングの上位陣達と、スペシャルオーダーズの仲間達が火花を散らしている。


【そる】「……っしゃ!じゃあ援護は任せろ!」

【スカイ】「俺も行く。あんな地獄みたいな戦場、放っとけねぇよ!」


「本当にいた。何故きたんだ…スカイ君」


 遠目にココア達を見つけたのはオニッシュ。


【ベディヴィア】「見つけたぞ、オニッシュ!アンタを止める!」

【トリスタン】「対上位のために温存していた。お前だけでも止めてやる!」

【オニッシュ】「…無駄なことを」


 オニッシュがベディヴィアとトリスタンに向かう。

 巨鎚を持っているとは思えない速度、反応するのは不可能。しかしーー


【シャイン】「バッタの指揮官舐めんなッ! ディレイ!!」

【オニッシュ】「!?」


 オニッシュの動きが鈍る。


【トリスタン】「今だァッ!」

【ベディヴィア】「受けてみろ!!」


 二人の渾身の双撃が、オニッシュを激しく貫いた。


【オニッシュ】「……ッ、不味い!」


 オニッシュであっても、不意を突かれた一撃は致命的だった。

 血まみれのまま、ゆらりと立ち上がる。


【シャイン】「ここで終わらせる!!」

【オニッシュ】「君たちこそ……僕を舐めないでよ」


 オニッシュ vs シャイン率いるベディヴィア & トリスタン。


 三人が前線へ駆け出したその時、スカイの足が不意に止まった。


【スカイ】「……今の、何?」


 胸をえぐるような圧。

 他の誰とも違う、ただ一つの気配。


 オニッシュ。


 さっきの地鳴りとは明らかに質が違う。

 まるで、戦場そのものが一点だけ歪んでいるような、そんな気配だった。


【そる】「スカイ!? 早く来ないと置いてくよ!」

【ココア】「時間ないよ、前線が崩れる!」


 二人は気付かない。

 この異常な気配を探知できるのは、スカイだけだ。


 スカイは小さく息を呑んだ。


【スカイ】「……ごめん。俺、こっち行かないといけない気がする」


【そる】「え? ちょ、スカイ!?」

【ココア】「どこ行くの、危ないよ!」


 声は届く。だが足は止まらない。


 スカイの視線の先、激しい火花が散り、黒と光の衝撃が何層も重なっている。

 その中心に血まみれで立つオニッシュの姿が微かに揺れていた。


【スカイ】「……オニッシュさん!」


 その直感だけは、疑う余地がなかった。


 スカイは振り返らず、仲間の声を後ろに置いたまま、ただひとり戦火の中心へ足を踏み込む。


 その先で、オニッシュを囲む三つの影が、ゆっくりとこちらへ顔を向ける。


【シャイン】「スカイ! なにして──」

【ベディヴィア】「えっ、こっちに来るの!?」

【トリスタン】「お前、裏切るのか!?」


 三人の視線には驚きと動揺が浮かぶ。

 スカイは振り返らず、ただひとりオニッシュに向かって駆け出す。

 敵として立つオニッシュ。しかし、スカイとの友情が胸を焦がす。


【オニッシュ】「……スカイ君、来ちゃったか」


 血まみれの巨鎚を握る手がわずかに震える。瞳には敵意の奥に、ほんの一瞬、ためらいの色が見えた。


【スカイ】「オニッシュさん……こんな戦い、終わらせよう。君が望んでないなら、もう無理に戦わなくていいんだ」


 スカイの言葉は戦場の轟音にも消されない。

 その真摯な眼差しが、オニッシュの胸に直接届く。


【オニッシュ】「………」


 握りしめた巨鎚が、ほんのわずかに下がる。

 心の奥底で、姉に縛られていた恐怖と絶望が少しだけ解けるのを感じた。


【スカイ】「信じていいんだ。君の意思で、ここから抜け出せる」


 戦場の喧騒の中で、オニッシュは初めて、自分の意思で立ち上がることができる気がした。

 友情が、敵である自分を救う。そんな希望の光が、彼女の瞳を揺らした。

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