第四十五話 黒の破壊神
アリスが倒れた戦場に、沈むように闇色の魔力が揺らめいていた。
その中心に立つのは、静かに息を吐くnocturne。
彼の周囲は光を拒むように黒く落ち込み、足元の影が蠢いている。
そこへ、重騎士ガレスが盾を構えて踏み込む。
背後には、リデルが杖を抱えて控えている。
ヒーラーとは思えないほど強い意志を宿した瞳だ。
【ガレス】「アリスをやったのはお前か」
【nocturne】「倒すべき相手を倒しただけ。それだけだよ」
言葉が終わるより早く、闇の槍が地面から噴き上がる。ガレスが盾で受け止めるが、影の魔力は盾を食い破るように染み込んでくる。
【ガレス】「ぐッ…!重い…!」
【リデル】「ガレスさん、後ろ下がって!《クレンズ・オーロラ》!」
柔らかな光が降り注ぎ、影の侵蝕が霧のように剥がれていく。
nocturneの攻撃が初めて押し返された瞬間だった。
【nocturne】「へぇ……ヒーラーで、この闇を解除するのか」
闇の魔力がざわつき、nocturneの瞳が鋭く細められる。
一方その頃、烈火とパーシバルは、リュートの幻惑に苦しんでいた。
攻撃は空を切り、リュートの足取りは影のように掴めない。
【リュート】「ほらほら、当たらないって言ったでしょ?」
【烈火】「……クソ野郎がッ!」
【パーシヴァル】「落ち着け烈火、まず動きを読む!」
しかし、リュートは読みの一手先を滑るように回避する。
幻像が三つに分かれ、笑い声が反響する。
【リュート】「本物はど〜こだ♪」
烈火はついに堪忍袋の緒を切った。
刀に炎を纏わせ、幻影ごと薙ぎ払うように突撃する。
【烈火】「まとめて燃えろォッ!!」
広範囲の火柱がリュートを包む。幻影は焼け落ち、本体だけが後方に大きく跳んで避難したが、そこへパーシバルが、まるで待ち構えていたかのように回り込む。
【パーシヴァル】「さっきから散々やってくれたな、終わりだ」
紫電を纏った刺突がリュートの胸を貫く。
【リュート】「っ……は、はは……読んでたんじゃなくて……待ってた……のか……」
光が弾けるように、リュートの体が崩れ落ちた。
【システム】《リュート 撃破》
リュートの光が消えた瞬間、nocturneの顔がわずかに揺れた。仲間の撃破に反応して、影が不安定に波打つ。
【nocturne】「そう、来るか」
nocturneは腕を広げ、影を凝縮させて放つ。
闇が波のように戦場を飲み込むが……
【リデル】「ガレスさん、今です!サンライト・ブレス!」
純白の光が闇の奔流を切り裂く。
その隙にガレスが地面を蹴る。
【ガレス】「アリスの分だッ!!」
渾身のタックルがnocturneの身体を押し潰すように叩きつけた。影が砕け、黒い靄が散る。
【nocturne】「……まぶしい、光だ」
そのまま、影法師のように崩れ落ちる。
【システム】《nocturne 撃破》
影の支配が消え、戦場に澄んだ空気が戻る。
リデルは深く息を吐き、ガレスの肩を支える。
【リデル】「終わりましたね、ガレスさん」
【ガレス】「ああ。ここから……巻き返すぞ」
nocturneの影が消えた戦場に、しばしの静寂が訪れた。だがその静けさは、次の地獄の幕開けに過ぎなかった。
【システム】《エクター 撃破》
【システム】《オルウェン 撃破》
短い電子音が、まるで死を告げる鐘のように響く。
【リデル】「……え?エクターさんまで?」
【ガレス】「Dr.D=eathのデバフ、やっぱり相当だったんだ…!」
【烈火】「くそ、あいつらまで落ちたのかよ」
【パーシヴァル】「このタイミングで…嫌な予感しかしないな」
四人がログの方向へ視線を向けた、そのときだった。
風が揺らぐ。
いや、違う。“存在そのものが空気を歪ませている” のだ。暗い裂け目の向こうから、ひとりの重騎士のシルエットが現れる。
纏う圧だけで背筋が凍る。紅の瞳は静かで、感情を感じさせない。新月のような漆黒の鎧が、戦場の光を飲み込んでいた。
【烈火】「オニッシュ……ッ!」
“漆黒の破壊神”。
一対多を最も得意とする超級の火力と瞬発力を持つ、孤高のアタッカー。
nocturneを倒した直後なのに、ガレスの喉が音を失った。リデルは明らかに口元が震えている。
【オニッシュ】「邪魔だ」
その一言と同時に、地面が割れるような衝撃が弾けた。
【烈火】「全員で行くぞッ!!」
烈火が先陣を切り、炎をまとった刃を横薙ぎに放つ。
【リデル】「パワーブースト!みんな、今だよ!」
【パーシヴァル】「バフナイス!右取る、挟むぞ烈火!」
パーシヴァルが刹那の隙を突いて側面から穿つ。
【ガレス】「止まれェッ!」
ガレスがヘイトを引きつけ、盾で進路を塞ぐ。
四人の総攻撃が、確かにオニッシュに命中した。
シールドが弾け、HPバーがわずかに削れる。
【ガレス】「……効いた!?」
【リデル】「四人がかりで押し切る!」
オニッシュの姿が、ふっと掻き消えた。
【烈火】「どこだ!?」
次の瞬間、烈火の背後で黒い閃光が走る。
【烈火】「ックソ、やっぱ強ぇな」
【システム】《烈火 撃破》
体勢を立て直す暇もなく、パーシヴァルの眼前にオニッシュが落ちてくる。
【パーシヴァル】「速い!」
【オニッシュ】「遅い」
巨槌がパーシヴァルを鎧ごと叩き潰した。
【システム】《パーシヴァル 撃破》
ガレスは盾を構え直すが、その盾が意味を成す前にオニッシュの巨鎚が直撃。
【ガレス】「……っぐ!!」
鎧が砕け、巨体が地面を転がる。
【システム】《ガレス 撃破》
残るはリデルのみ。震えながらも杖を構えるその姿は、逆に勇敢だった。
残るはリデルのみ。
震えながらも杖を構える姿は、逆に勇敢だった。
【オニッシュ】「もう……終わり」
【リデル】「私が倒れても……ココアさんと、そるさんと……スカイ君があなたを止めるッ!!」
一瞬、オニッシュの動きが止まる。
「無課金のスカイ君が? なにを――」
【リデル】「うぉぉおおお!!」
全魔力を解き放ち、戦場全体へ光の治癒が広がる。
【オニッシュ】「しまった。――消えろ」
黒い閃光が走る。
【システム】《リデル 撃破》
四人が倒れ、再び静寂が落ちた。
戦場の中心に立つのは、漆黒の破壊神オニッシュ。
周囲の空気は、ただ一人の存在だけで震えていた。




