第四十三話 因縁の渦中
ヴァルターと狼牙の撃破――
前線二枚を落とした勢いに、スペシャルオーダーズ全体が一気に沸き立つ。
【ランスロット】「全隊、押し上げっ! この流れで畳み込むぞ!!」
中央の圧力が増す一方で、
戦場の裏側では、静かで致命的な殺し合いが始まっていた。
Dr.D=eath VS マーリン+オルウェン
黒い霧が、足元からすべり込むように広がる。
【Dr.D=eath】「呼吸、忘れるなよ。最初の一口が、一番キく」
音もなく、マーリンとオルウェンの背後へ死の霧が伸びた。
【オルウェン】「デバフっ!マーリン、後退して!」
【マーリン】「わかってる!」
マーリンの杖から青光が走る。
解除の光が、自身へ付着した黒染みを弾き飛ばした。
【マーリン】「……っ、重い。これ、通常の弱体じゃない……!?」
【オルウェン】「耐性貫通系! 想定してたより危険だぞ!」
Dr.D=eathの黒霧は、抵抗を無視して侵食する特殊系。王国騎士団クラスの支援でも、完全解除は一瞬遅れる。
【Dr.D=eath】「そう、それでいい。逃げるほど、深く入る」
黒霧が地面をはね、まるで生き物のようにマーリンの足元へ絡む。
【マーリン】「くっ……ッ!?」
【Dr.D=eath】「一度味わった弱体は抜けない。後でしみるぞ」
支援のオルウェンが連鎖解除を放ち、
マーリンは命からがら距離を取る。
BROS VS アリス
裏路地の影が揺れた。
【BROS】「後衛一人……優先排除。行く」
風が裂ける音すら生じない。
BROSのダガーは、アリスの背に吸い込まれるように迫った。しかし――
【アリス】「……読んでたよ」
アリスが一歩すべる。
靴底が地面に触れた瞬間、その身が風に乗るように横へ滑った。
空を切る暗殺刃。
【BROS】「……消えた?」
【アリス】「これでもウィンドクローバーのギルマスなの、甘く見ないでよね」
背後を取ったつもりが、空振り。
逆に、アリスの風矢が視界の縁をかすめる。
【BROS】「対応、速すぎる」
暗闇の刃 vs 風を踏む技巧派。
静かで速い、“技術だけのぶつかり合い”が続く。
ザン・シャオ VS 牙+らいおん
【ザン・シャオ】「じゃ、いきますかね。全部斬るよ?」
双剣が弾ける。
一秒に十数発の斬撃が織り上がる手数の暴力。
【牙】「速ぇっ!らいおん、正面頼む!!」
【らいおん】「正面は任せろ!お前は回れ!!」
牙が円を描くように横へ動き、
ザン・シャオを揺さぶる。
しかし、彼の双剣は揺さぶりを読んでいる。
軌道が一瞬だけ牙へ向けられる。
【牙】「読んできやがる……ッ!」
その一瞬、
らいおんの大剣が割って入る。
【らいおん】「おらぁ!!意地見せたらぁ!!」
手数 × 二人の機動。
双剣の暴風と、牙とらいおんのギルマスコンビ。
局所戦としては、これ以上ないほど噛み合っていた。
各所の小規模戦が白熱していた、その瞬間だった。
空気が裂けた。
椿の手に握られた天十握剣が、夜空を薙ぎ払うように振り下ろされる。
【椿】「全部……全部消えてよォ!」
地面から吹き上がる暴風ではない。
周囲一帯の空気そのものが、彼女の剣を中心にねじ切られ、敵味方問わず飲み込む破壊の竜巻に変じた。
黒霧の中で戦っていたDr.D=eathも、風矢を構えていたアリスも、牙と斬り結ぶザン・シャオすら、全員が一気に吹き飛ばされる。
【牙】「うわッな、なんだこれッ!」
【BROS】「視界、奪われッ」
大地が沈み、空気が爆ぜる。
そしてその暴風に、もう一つの怪物が反応した。
椿の竜巻を獲物と判断したように、鬼朱雀の瞳が赤く燃え上がる。
【鬼朱雀】「面白ぇじゃねぇか。燃えろ」
大地が溶ける音。
空気が一瞬で灼熱へ跳ね上がる。
鬼朱雀が両腕を広げ、炎の魔紋を叩きつけた。
【鬼朱雀】「イラプト・インフェルノ!!」
椿の風竜巻へ、燃え上がる火柱が吸い込まれていく。風が火を巻き上げ、火が風を狂わせる。
地獄の火炎竜巻が形成された。
世界が赤く染まり、悲鳴が重なり、戦場の中心が炎の渦に変貌する。
【らいおん】「ちょ、待て待て待てッ!!」
【マーリン】「これ……本気で全滅するやつ!!」
逃げる暇などない。火と風が縦横無尽に暴れ、あらゆるプレイヤーを呑み込もうと迫る。
その刹那。火炎竜巻の中心へ、水の奔流が逆流するように噴き上がった。
【Rain】「止まれっ!!」
Rainが両手を掲げ、水の紋章を解放する。
轟音と共に、水竜巻が炎へ突き刺さる。
火炎竜巻と水竜巻が互いを削り合い、そして爆音の後に静寂が訪れた。
炎の渦は、Rainのアクア・テンペストによって完全に押し潰され、消滅した。
救われた者たちは地面に崩れ落ちる。
【ケリー】「立って!まだ戦場の真ん中だよ! ヒール・リジェネ!!」
【そる】「範囲回復いくぞッ!!」
ダークキング側はケリーが、スペシャルオーダーズ側はそるが、同時に回復を展開。
吹き飛ばされた面々が次々と立ち上がり、戦場に色が戻り始める。
しかし次の瞬間、ケリーは背後に殺気を感じた。
【ケリー】「嘘…いつの間に……?」
【システム】《ケリー 撃破》
彼女は虎視眈々と、ダークキングの回復役を狙っていた。
【ココア】「これが私の戦い方なんでね」
【そる】「さすがココア姐さん!!」
フローライトのギルマスにして、暗殺者の異名を持つココア。そのバックスタブは、数多のプレイヤーに恐怖を与えてきた。
【BROS】「暗殺はアンタの専売特許じゃないぜ」
同時、そるの背後にBROS。
だが。
【スカイ】「エルフレイム!」
【BROS】「なっ……!? クソガキ!」
威力は低いが、暗殺阻止には十分だった。
【そる】「助かったぜスカイ!」
【スカイ】「そるさん倒れたら困るっす!」
【BROS】「雑魚が……調子乗んな!!」
椿は、Rainだけを射抜くようにその瞳を細めた。
【椿】「……裏切った、裏切った裏切った裏切った」
呟きが、狂気の縄のようにRainへ絡みつく。
【Rain】「……っ、椿」
【椿】「許さなぃ!!」
椿の姿が霞のように跳び、Rainへ迫る。
凶刃がRainを切り裂こうとした刹那ーー
天十握剣は、大盾に防がれた。
【椿】「邪魔をするな!!」
椿は剣圧を高めるが、男は逆に椿を押し返した。
【Rain】「助かりました…Whiteさん!」
【White】「俺も椿には、勝ちたいからな」
椿の暴走に反応し、鬼朱雀が加勢しようと足を踏み出す。
【鬼朱雀】「チッ……なら俺が終わらせる」
だが、その前に紅の魔炎が降り注ぐ。
【琉韻love】「通さないよ。今日の私は……前とは違う」
琉韻loveのルビーフレイムが鬼朱雀の進路を遮り、火炎がぶつかり合う。
前回、完全に圧倒された少女の炎とは思えないほどの密度だった。
【鬼朱雀】「……へぇ。やっとマトモな火力になったじゃねぇか」
同時に、鬼朱雀と共にいたシンの前へ、静かに影が立つ。
【シン】「どけ。今はお前らに構ってる暇はない」
【たっちゃんパパ】「いや、今日は構ってもらう。俺とアイツの“雪辱戦”だ」
前回、完膚なきまでに叩き伏せられた二人。
その片割れ、たっちゃんパパが、今度は堂々と剣を構える。
【たっちゃんパパ】「ダークキング?最強?だからなんだ。今日こそ一発、食らわせてやる」
背後で、琉韻loveの炎がさらに高く燃え上がる。
【琉韻love】「今日は、絶対に負けない」
戦場の中心で燃え上がる因縁。
椿 vs Rain&White
鬼朱雀 vs 琉韻love
シン vs たっちゃんパパ
ただ“残すべき戦い”と“清算すべき感情”が、炎と風と水の中で交錯する。
戦場はついに本当の乱戦へ突入する。




