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サンドボックスウォーズ  作者: 黒瀬雷牙
第二章 ココアの物語

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第九話 ゲームと現実の共通点

 討伐の余韻がまだ残るギルドチャットは、深夜になっても盛り上がっていた。


【そる】「マジで最高だった!動画撮っとけばよかったな!」

【スカイ】「録画してた!あとで切り抜き送ります!」

【ココア】「ほんと? うわ、それ見たい!」

【オニッシュ】「また一緒にやりましょう」


 その一言で、チャットの空気が一段と弾けた。

 スカイもそるも「ぜひ!」と返し、ココアの心臓も高鳴る。


(あのオニッシュが、“また”って……)


 夢のようなレイドだった。

 トッププレイヤーをギルドに迎え、肩を並べて戦い、そして勝った。


【ココア】「今日はほんとにお疲れさま! 私もう寝ます~!」

【そる】「了解! いい夢見ろよ~!」

【スカイ】「おつっす!」

【オニッシュ】「お疲れ様でした」


 チャットの灯りがひとつ、またひとつと消えていく。スマホの画面に「オフライン」の表示が並び、静寂が戻った。


 時計を見ると、時刻は23時57分。

 リビングには夫と息子の寝息が微かに響く。

 梨花はスマホをそっと伏せ、息をついた。


「……はぁ。現実に戻るか」


 キッチンに残る洗い物をひとつ片づけ、明日の弁当の下ごしらえを済ませる。

 ベッドに潜り込んだのは、日付が変わるほんの数分前だった。


 そして翌朝。


 まだ夜が明けきらぬ午前五時五十七分。

 アラームが鳴るより早く、梨花は目を覚ました。


「……眠い」


 そう呟きながらも、体はもう慣れている。

 まず炊飯器のスイッチを入れ、卵焼きを焼き、味噌汁を温める。夫の弁当箱を詰めながら、同時に朝食の準備。


 六時半、夫と息子が起きてくる。

 息子の寝ぼけた顔を見て、梨花は自然と笑みを浮かべた。


「ほら、早く食べて。冷めちゃうよ」


 夫を見送り、ランドセルを背負った息子を玄関まで送り出す。扉が閉まると、ようやく訪れる自分の時間…ではない。


「さて…洗濯に掃除、買い物にゴミ出し……」


 家の中にはやることが溢れている。

 シーツを洗い、台所を磨き、風呂掃除を済ませる頃には、もう昼を過ぎていた。


「ふぅ……」


 麦茶を飲みながら、梨花はリビングの時計を見上げる。息子が帰ってくるまで、あと二時間。


 その短い間だけが、彼女にとっての自由時間だった。テーブルの上にスマホを置き、指先で画面をタップする。


 アプリ・SBWのログイン画面が開く。


(……やっぱり、ここに帰ってきちゃう)


 現実では、妻であり母であり、主婦でもある。


 でも、この世界では〈ココア〉、

 ギルド〈フローライト〉のリーダー。


 再び、彼女の冒険が始まろうとしていた。


 ログインした瞬間、いつものホーム画面。

 〈ココアの拠点〉が広がる。

 夕暮れの丘の上、小さな木造の家と、隣に置かれたクラフト台。

 風に揺れる草の音だけが響く、静かな場所だ。


「ふぅ……やっぱり落ち着くなぁ」


 梨花は画面の中で、キャラクターを操って拠点を見回した。


 SBWでは、プレイヤー個人の拠点とギルドの拠点、二つの拠点を持つことができる。


 前者は言わばマイホーム。

 建設物を配置することで、能力にバフが掛かる。

 鍛冶場を建てれば攻撃力上昇、祈りの像を建てれば回復量アップ、そんな具合だ。


 一方、ギルド拠点はまったく性質が異なる。

 そこは戦いの要、いわば()()だった。


 ギルド同士の戦闘、通称「拠点戦」では、

 侵略側は全滅すれば敗北、

 防衛側は拠点の()が倒された時点で陥落。


 つまり、守る側にとっては“たった一人”の敗北がギルド全体の負けを意味する。

 絶対的不利な条件を覆すためには、拠点そのものを複雑に構築し、侵入者を翻弄する必要があった。


 通路の配置、罠の設置、視界を遮る障害物…

 それら全てが、防衛戦の勝敗を左右する。


 〈フローライト〉の拠点のレベルはまだ2。建設できる施設も限られていた。


 ちなみにこのレベルは、区画自体のレベルであり、奪ったり、奪われた場合でもレベルは引き継ぎ、さらに戦闘により破壊されなかった建物はそのまま使える。


【ココア】「うーん、倉庫の拡張が先かな……でも防壁も上げたいし……」


 独り言のように呟きながら、梨花は素材リストを眺めた。

 鉄鉱石×50、木材×120…どれも相当な素材数ばかり。


(今のメンバーじゃ、素材集めも大変かもなぁ)


 だが、やらなければ次の戦いには勝てない。

 レイドで奇跡を起こした〈フローライト〉は、今や注目の的だ。


 梨花は決意を固めるように、画面をタップした。


【システム】「素材が不足しています」


「……わかってるってば」


 苦笑しながら、チャットを開く。


【ココア】「みんなー! 拠点強化の素材集め、今日から本格的に始めます!」

【そる】「了解っす! どこ潜る?」

【スカイ】「木材たくさんいるし、森にしましょう!」

【オニッシュ】「素材集め、手伝おう」

【ココア】「助かる! じゃあ、今夜22時集合ね!」


 現実の梨花は、台所で干しかごを畳みながら呟いた。


「……夜までに家事、全部片づけなきゃ」


 スマホの中ではリーダー。

 けれど現実では、家族の生活を回す主婦。


 それでも、心のどこかで思っていた。


(拠点を作るのも、家を守るのも……ゲームと現実、実は似てるかもね)


 画面の中のココアは、新たな拠点の設計図を開いた。

 その小さな城を、仲間とともに育てるために。

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