2.神速の剣士と、負けられない最弱。
ここまでオープニング(*'▽')
――そして、翌日。
冒険者ギルドはいつになく、興奮したような雰囲気に包まれていた。
それというのも、血気盛んな冒険者たちにとって格好の見物が催されるから。ギルド最強の剣士であるリュクスに対するのは、俺こと底辺冒険者であるアグニス。いつもなら決闘にすらならず、俺が一方的に潰されて終わりだった。
だけど、今回に限っては別。
「わざわざ決闘の場を設ける、ってことは……アイツも本気だな」
あのリュクスが観客を入れてまで、俺のことを倒そうとしている。
それはつまり、いままでの遊び半分のものとは決定的に違うことを示していた。おそらく軽く見ていたら、俺の命はあっという間に刈り取られてしまうだろう。
残忍なる後輩は、完膚なきまでにこちらを壊すつもりに違いなかった。
「あの、本当に大丈夫なんですか……?」
緊張が伝わってしまったのか、傍らのニコルが不安げにそう訊いてくる。
そんな少年の言葉に、俺はしばし考えてから――。
「……さぁ、どうだろうな」
「えっ!?」
正直なところを白状した。
「いままでリュクスは、どんな敵を相手にする時も手加減してたんだ。俺だってアイツの本気、ってのを実際に見たことはない。勝てるかどうかは、出たとこ勝負だな」
「そんな……!」
俺の言葉にニコルが絶句する。
しかしそれが事実なのだから隠しようがない。リュクスはいままで、一度たりとも本気で剣を振るったことがないのは、間違いのないことだった。そんな状況や環境だからこそ、冒険者ギルド内において彼の増長を止めることができなかったのだ。
それをいま、付け焼刃の【伸縮】で超えられるか。
そこに明確なまでの自信はなかった。
「でも、ここまできたら引くわけにはいかないんだよ」
「…………え?」
それでも俺には、アイツを無視できない理由がある。
何故なら、
「だって、そいつが道を間違えたら止めるのが――」
俺にとってリュクスは、特別な存在だったから。
「元とはいえ、仲間の役割だろ?」
◆
「逃げなかったんですね、先輩」
「あー……まあ、な」
ギルド内に設置された決闘用の舞台。
そこに立って、リュクスはすでに剣を抜いて待っていた。
「分かってるとは思いますが、今回こそは手加減なしですよ。それで仮に先輩を殺してしまったとしても、オレには何も後悔はありませんから」
「そうか。それなら、こっちだって全力をだせる」
彼の言葉に俺はそう返しながら、久方ぶりに引っ張り出してきた剣を構える。
するとリュクスは静かに、しかし確かな熱のこもった声で言った。
「全力、たかが知れてるでしょう。才能の欠片もない先輩の剣術じゃ、オレには絶対に届かない。それこそ無限に近い時間でもなければ」
「はは……それは、そうかもな」
「それでも、やりますか?」
これが、最終確認だろう。
引き返すならいましかないのだが、だがしかし俺は――。
「あぁ、やるよ。今日はちょっと、意気込みが違うんだ」
迷うことなく、そう返した。
だって、この機を逃せばもう『届かない』と思ったから。
「今回こそ、お前の目を覚ましてやるよ。……リュクス」
「……あぁ、分かりました。それでは――」
リュクスが剣を構えて、叫ぶ。
そして直後、
「今日こそテメェを殺してやるよ、アグニスッ!!」
目の前から、青年の姿が消えた。
◆
――リュクスの剣技が最強たる所以は、その速度にある。
研ぎ澄まされ、無駄を一切に排除した動きから繰り出される一太刀は、容易くドラゴンをも一刀両断に斬り伏せる。そこにスキルなどによる補助はない。強いて言えばリュクスという青年の身に宿った才覚が、神の領域に迫る一撃を可能にしているのだった。
したがって、いかなる者にも彼の剣を回避することは不可能。
その、はずだった。
「………………どういう、ことだ?」
横に薙いだ剣が空を切ったことに、リュクスは静かな驚きを見せる。
いま確実に、青年は自身の先達の首を刎ねたはずだった。
だが目の前には首どころか、相手の姿すらない。
「いやあ、危ない。思った以上に速くなったな、お前の剣」
「………………」
声がしたのは、リュクスの遥か後方から。
ぼさぼさの黒髪に無精ひげを生やしたアグニスは、若干の冷や汗をかきつつ苦笑を浮かべていた。何が起こったのかは分からない。それでもどこか余裕のある彼の姿を目の当たりにして、赤髪の剣士は自然と口角を吊り上げた。
そして、
「あの頃とは、違いますよ? 先輩」
「分かってるよ。リュクス、お前は強くなった」
言うと、アグニスは静かに頷く。
その上で彼はリュクスに向かって、こう告げるのだった。
「お前は、たった一人で強くなり過ぎたんだよ」――と。
どこか悲しげな声色で。
かつて仲間であったという青年に、語りかけるのだった。
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