プロローグ
――ポタポタ……ポタポタ……
「……ん?」
薄暗く湿った洞窟の中で、一人の少年が目を覚ました。
岩壁から落ちた一滴の水が少年の頬を濡らし、顎を伝って滴り落ちる。おそらく、その雫に眠りを妨げられたのだろう。
ゆっくりと身を起こした少年は、ぼんやりとした瞳のまま洞窟を出る。
視線の先には、昇りはじめた橙色の朝日。少年はただじっと、それを見つめ続けていた。まるで何かを思い出そうとしているかのように――。
やがて我に返った彼は、記憶を頼りに隠しておいたものを探り当てる。厚く巻かれた包帯に覆われてはいるが、それが剣であることは一目でわかった。
周囲には一面の草原が広がり、木々の隙間から差し込む陽光がきらめいている。
少年の瞳は依然として虚ろで、感情を失った人形のよう。
それでも剣を抱きしめ、一歩、また一歩と目的地へ向かって歩き出した。
どれほどの時間が過ぎただろうか。
ようやく森を抜けた少年の眼前に広がったのは、果てしなく続く青空。
その空の下に、今回の目的地がある。
「……あそこか。ヘクトの町。」
断崖の上に立った少年は、小さく呟いた。
彼は長いローブのフードを深く被り、その頭上には布で作られた獣人の狼耳がぴんと立っている。それはまるで狼族の耳を模した飾りのようだった。
少年は服についた洞窟の土を軽く払い落とし、身なりを整える。
そして、静かに一歩を踏み出した。――すべては、定められた任務を果たすために




