新人ハンター
受付嬢の朝は早い。
小鳥のさえずる中、制服に袖を通して夜勤の職員から仕事を引き継ぐ。
依頼票や現地のベースキャンプに運ぶ医薬品や安全帯などの支給品の用意、現場に出張しているハンターの情報などをしっかりと確認する。
朝の空気の冷たさが残る中、カレンと一緒に受付に立つ。
昨日と同様にハンターの提出する依頼書に判子を押す仕事。
少しすると、徹夜組のハンターが現地で発行された狩猟証明書を手に依頼達成の報告をしにやってくる。
男女3人組のハンターでそれぞれ双剣と大剣と対竜機関銃を背負っている。
「受理します」
狩猟の証拠を受け取って依頼達成の印を押すと、モンスターの回収担当の職員に伝達する。
外でトラックのエンジン音が響く。
何百キロ、個体によっては何トンもあるモンスターの体を容易に乗せられるほどの大きな荷台のついた大型の装甲トラック。
軍から払い下げられた旧式の軍用車両で、鋼鉄製の車体は軽機関銃の連射に耐えられるほど頑丈だ。
「それでは、素材分の報酬は後日お渡しします」
依頼主が用意した報酬と引き換え用の割符を手渡す。
ハンターに対する狩猟報酬は依頼主からの金銭報酬と素材を売却して得た報酬があり、金銭報酬はその場で、素材の売却報酬はモンスターの解体が完了した後でギルドが買い取る形で銀行口座に入金される。
そのうち解体も任されるのだろうかと思いながら、次々に来る依頼を書類に記してギルドマスターに提出する。
すべての依頼が受理されるわけではない。
モンスターの生息数や依頼内容の正当性等を考慮して時には依頼を断ることもある。
モンスターは空腹を満たすために人を捕食しようとしたり、時として縄張りを広げるために邪魔な都市を壊滅させることのある危険な生物ではあるが、同時に巨万の富をもたらす存在であり、なにより生態系の一部である。
金の卵を産むガチョウのおとぎ話のように、目先の利益欲しさに絶滅させてしまわないように慎重に取り組む。
「こんにちは、ここでハンターの登録をしたいのですが…あ」
やってきたのは前日に暴漢から助けたハンターのサクラ。
黒髪のポニーテールをして背中には赤い帯紐を垂らした大太刀を背負っている。
「ここで働いていたんですか」
「はい、まだ2日目の新人でありますが」
「知り合いなんですか?」
カレンの問いに「はい」とだけ答える。
「それで、ハンター登録でしたね。カレンさん」
「はい、ではこちらの書類にお願いします」
カレンの出した登録書に必要事項を記入するサクラ。
記入を終えた登録書を受けとると、カレンの代わりにギルドマスターへ持っていく。
木製の階段を上り、3階にあるギルドマスターの執務室へ向かう。
扉を3回ノック、扉越しに入室を許可する声が届く。
「失礼します、ハンターの登録書を持ってきましたであります」
立派な机の置かれた執務室。
窓から吹く風に髭を揺らすギルドマスターに書類を手渡す。
「『サクラ・ヨガミ』か。なるほど」
名前から生年月日、これまでの実績など記載された事項を細かく確認する。
「特に問題になりそうなことはないな。正式に所属を許可する」
認可の印を押されて返される登録書。
階段を3階から1階まで下りてカレンとサクラに結果を報告する。
「そうですか、よかった」
報告に安堵するサクラ。
「実は私、外大陸から来た、いわば移民なのでここのギルドに所属させてもらえるか不安だったんです」
「外大陸ですか」
「自動車やラジオなどのこの国の進んだ文明に興味がありまして、それで思い切って海を渡ろうと」
「そうだったんですか。なじめるといいですね」
カレンとサクラのやり取りを耳にしながら書類を整理していると、モンスターを乗せたトラックのエンジン音が外から響き渡る。
「どうやら討伐したモンスターが届いたようですね」
少しして正面入り口から作業着を着た男が生臭いにおいを漂わせて現れる。
「モンスターの解体をするから手伝ってくれ、カレン」
「わかりました。ティレルさん、代わりにここをお願いいたしますね」
カレンの要請に、頷いて応える。