一息
暴漢から逃げてしばらく、淹れた紅茶をテーブルに置いて、落ち着いた彼女から事情を聴く。
「私はサクラ・ヨガミと言ってハンターとしてこの都市に来たばかりでして、食料品の買い出しに来たところを襲われそうになりまして…」
「それは大変でしたね」
「はい、貴女に助けてもらわなかったらどうなっていたか…」
ありえたかもしれない未来を想像して体を小さく震わすサクラに、私は気になったことを尋ねる。
「失礼ながら、ハンターである貴女ならば暴漢程度、簡単に蹴散らせたのでは?」
人間の何倍も背丈のあるモンスターを相手にするハンターであるはずなのに、暴漢に怯んでいたことを追究する。
「モンスターならいざ知らず、人間を相手にするのは苦手なんです」
「対人戦の訓練は積んでいないんですか?」
「ハンターはあくまでもモンスターの相手をするのが仕事なんです。だから訓練も対モンスター用のものばかりで対人戦は全く…
それに同じ人間を傷つけるのは…嫌です」
言われてみれば確かにそうだ。
私は士官学校で対人戦の訓練を積んでいた上に『実績』があるから暴漢を殴るのにためらいはなかったが、対人戦を想定していないハンターでは同じ人間を攻撃することへの抵抗が強いのだろう。
紅茶を啜って一息つく。
「それにしても、お強いんですね。武術でも習っていたんですか?」
空になったカップを置いてサクラがそう口にする。
「少し前まで海軍に所属していました」
「そうだったんですね」
私の話に俄に彼女の目が煌めく。
「海軍について、詳しく教えていただいても?」
「そうですね。まず、私は第一海軍の第三撃龍艦隊、第二水雷戦隊に少尉として所属していました。
砲術科長の補佐をする仕事です」
「少尉!?そんな方がどうしてここに…」
「いろいろとありまして…」
目を背けながら、そう答える。
さすがに初対面の人に「上官を殴り飛ばして軍法会議の末に除隊になりました」なんて言えない。
気まずくなる空気をさっさと換えようと、話を変える。
「ところで、今夜はどうしますか?よろしければ家まで送りますが」
「えっと…お願いできますか?」