ハンターズギルド
北部のオルカから東部の首都べルファスク州に向けてバスを乗り継いで5日。
首都の東端に位置するロウレン区。
沿岸部には交易の要衝であるバルゲ港があり、それを守る第二海軍の基地が置かれているほか、港から都心へと続く主要な道路は舗装され、交易品を乗せたトラックが走る。
また、港と都心を繋ぐ貨物用の鉄道が走り、交易品はもとより必要に応じて軍事兵器の搬送も行っている。
一方で港や主要道路から離れたエリアはあまり開発されておらず、豊かな自然が目立つ。
「ここが、新天地か」
生活用具が入ったカバンを片手に、舗装がされていない土の道を進む。
左右には青々とした草が生えており、空気も多くの車の走る都心と比べて清澄な印象を受ける。
すれ違う人達に軽く挨拶しながら、20分ほど歩いていると立派な建物が見えてくる。
「ここが、ハンターズギルド…」
木造の3階建ての建物。
2メートルはある木製の扉を開けると、立派な受付が視界に入る。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」
要件を尋ねる受付嬢。
後ろ髪を留める赤い大きなリボンが特徴的だ。
「父…オーセン・ギヨームの紹介で参りました、ティレル・ギヨームであります」
海軍時代で染みついた口調で名乗る。
「ああ、あなたが…お待ちしておりました、ギルドマスターをお呼びしますのでお待ちください」
ぎこちない態度でそう応対して席を外す受付嬢。
やはり、あの件もしっかり伝わっていたのだろう、名前を口にしてから職員の視線が変わった気がする。
身を縮こませながら少し待つと、髭を生やした厳つい男がやってくる。
「私はここのギルドマスターを務めるレイブンだ。君がティレル・ギヨームか。話は聞いている、ついてきなさい」
「はい」
ギルドマスターの後ろを歩き、2階の部屋に入る。
「好きなところに座りなさい」
促されるまま、入り口付近の椅子に着席。
机を挟んでギルドマスターと対峙する。
「さて、君のことはオーセンから聞いている。かなりのやんちゃ者らしいな」
「…」
やはりというべきか、上官を殴り飛ばした話もしっかりと伝えられていた。
「そう気に病むな、ここは海軍じゃない。ギルドでトラブルを起こさなければそれでいいし、むしろハンターを相手にするのならばそのくらい元気な方がいい。」
「そうですか…それで、私は何を?」
「主に受付嬢としての仕事を担当してもらう。依頼書の管理や支給品の供給。
時にはハンターに同行して現地に向かってもらう」
「現地に…でありますか?」
「ハンターの補佐役だな。ベースキャンプでの装備の整備手伝いなど、狩りに集中できるようにサポートをしてもらいたい。
といってもさすがに危険な場所に新人を向かわせる事はできないから、この仕事はだいぶ先になる」
「そうでありますか」
ギルドマスターから伝えられた仕事の内容に、役不足のように感じる。
海兵ならば誰しもが憧れる撃龍艦隊勤務。
豊かな海を荒らす巨大なモンスターを大艦巨砲で打ち破り国民を守る花形の仕事を務めていたが、ハンターズギルドでは一転して地味な事務仕事。
その上、ハンターズギルドは正規軍の下請けであり、さらに親のコネで就いたとあってはやる気を出せるビジョンが見いだせない。
とはいえ、銃殺刑を免れた上に稼ぎ口が与えられた立場、これ以上の贅沢を言えない。
「とりあえず、あとはカレンに仕事を教えてもらうといい。
待遇面については終業時に説明する」
チリンチリンと鈴を鳴らすと、リボンが特徴的な先ほどの受付嬢が入室する。
「彼女がカレンだ。あとは彼女に教わりながら仕事に慣れていきなさい」