渦巻く大海
アイリーン達がレガリアでの清掃に追われている頃、アルガーノ大陸から南に140キロメートル離れた外国の領海。
ハルカ海狭と名付けられたこの海域は大小さまざまな島があり、現地人が暮らす集落が建てられている。
そんな海域を、5隻からなる船団が進む。
ランデル国の保有する鋼鉄の艦艇とは異なる、木造の帆船。
マストは三本あり、兵装もバリスタや大砲などの旧時代的なものである。
「不気味なまでに大きな渦が発生したとの報告があって来てみれば、あれはなんだ?」
海洋警備隊の隊長であるイワオが望遠鏡越しに見えた光景に絶句する。
視界に広がるのは巨大な渦潮。
半径だけでも20メートルはあり、付近の海洋生物を飲み込みながら轟音を響かせている。
「錨を下ろせ」
警備隊長が停船を指示、錨が海底に投下される。
渦から距離を取っているにもかかわらず、海流によって船が僅かに引き寄せられる。
「この渦は一体何なのだ...」
この海域には干潮時と満潮時に大小様々な渦が起きるのだが、ここまで大きなものは観測史上初めてであり、ましてや今は干満潮時でさえない。
「これも…自然現象でしょうか?」
「・・・・・」
不自然な状況にモンスターの仕業を疑った部下の問いにしばし黙り込むイワオ。
モンスターの中には嵐を巻き起こしたり大河を凍結させたりなどの危険極まりないものが居るが、ここまでの大渦を作り出すモンスターの存在は知らない。
「念のため、本部に報告だ。伝書鳩を飛ばせ」
「了解です」
記した報告書を伝書鳩に括り付けて空に放つ。
5分ほどして渦は消え、いつも通りの潮の荒い海に戻る。
「いやな予感がするな」
乗船していた、大型の狙撃銃を背負う護衛のハンターであるヨシノ・ヨガミが静かに呟く。
ハンターズギルドでも腕利きのハンターであり、昇格を間近に控えている。
「8時の方角にモンスターを確認!雷空竜らしき!」
見張りの報告に全員が空を向く。
そこには雷空竜レオネスの姿。
『漁場』の異変を察知したのか、まっすぐ飛来してくる。
「錨をあげろ、急ぎここを離脱する!総員、戦闘態勢!」
急いで錨を巻き上げると同時に隊長船を先頭にオールを漕いで離脱を目指す。
同時に船員や乗船していたハンターは射撃武器を構えて戦闘体制に移行、急襲に備える。
「キシャァァァァァ!!!」
漁場を荒らしていると思ったのか、怒声をあげながらレオネスが襲来。
鋭い翼で、船団の後方に位置していた一隻の帆船のマストをすれ違いざまに3本をまとめて切り倒す。
「マストがやられた、航行不能!航行不能だ!くそったれが!」
動力を失った帆船から悲鳴が上がる。
「クソ、バリスタ!撃て!撃て!」
搭載されたバリスタで対空射撃を試みるも、初速の遅い矢では空を自由に駆けるレオネスには当たらず、反対に雷を落とされて甲板の中心で出火する。
ハンターたちも対モンスター用の大口径の銃砲を使って射撃するもなかなか当たらず、2度目の雷が落とされる。
「ぼさっとするな!消火を急げ!」
交戦するハンターたちをよそに、消火用のバケツで急いで消火を試みる船員。
鎮火自体は出来たものの、水浸しになった甲板に再び雷が落ちる。
―――!
一瞬の雷撃に甲板の船員たちは声すら上げずに倒れる。
さらに甲板に配備してあった大砲の炸薬に通電、爆発に巻き込まれたハンターが吹き飛んでそのまま落水。
鎧などの対モンスター用の重装備が仇となり、浮き上がることすら叶わないまま海底に沈んでいく。
「畜生!」
燃え上がる僚船を双眸に収めながら悔しがるイワオに、ヨシノが進言する。
「これ以上の戦闘はもう無理です!彼らを囮にして、撤退を!」
「…全速で離脱しろ。すまない…」
もう1隻に取り残された部下たちの悲鳴を背に、イワオは断腸の思いで現場を離脱する。




