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元海軍少尉の受付嬢  作者: 影光
一章外伝 撃龍艦隊
13/29

清掃

「これは凄いな」

 翌日。

 レオネスの回収に来た輸送艦の艦長であるオルドが驚きの声をあげる。

 モンスターの死体がしっかりと残っていた事もそうではあるが、彼をさらに驚かせたのは体内から見つかった金色の結晶。

 解体中に発見されたもので、煌めくそれは艦内の一室で佐官に囲まれながら厳重に管理されている。

「オルド艦長、あの結晶は?」

 結晶について聞きだす。

 発見時に提督に聞いたが「厳重に取り扱え」との一言のみで詳細を知ることはできなかった。

「これはモンスターの体内でごくまれに生成されるもので、宝飾品としてだけでなく、ハンターの装備の強化にも使用されるそうだ。

 モンスターを狩るハンターでも一生に一度手にするかどうか分からないくらい、非常に希少で高価な代物だ。

 外大陸では竜玉や宝玉とも呼ばれているな」

 一対の髭を揺らしながら、そう答えるオルド。

 モンスターの宝玉の話は以前から知ってはいたが、まさかここで実物を見れるとは…

「モンスターの移送準備、完了しました」

 輸送艦の兵員がオルド艦長にそう報告する。

「了解した」

 結晶もとい宝玉の入った小型のコンテナを両手に抱えた艦長が輸送艦に戻ると、彼の指揮の下に艦尾の大型クレーンが大きな駆動音を立てて作動。

 麻布に包まれたモンスターの体を各部位ごとに一つずつ慎重に積み込むと、氷石と呼ばれる冷たい鉱石を防腐用に大量に撒く。

 積み込み作業が一通り終わり、輸送艦が去った後は私たちは解体前の血抜き作業によって汚れた甲板の掃除に取り掛かる。

 水切りで体液を外に排出した後、海水で濡らした後にこびりついた汚れをデッキブラシで落とす。

 モンスターの体液は落ちにくく、力強く何度も擦ってようやく落ちる程であり、ティレルも「服の洗濯が大変だ」と手紙で愚痴っていた。

「ひどい汚れだ」

 染みついた体液に加え、乾燥した海水による塩の塊や海鳥の糞など、艦のあちこちをついでとばかりに清掃する。

 下士官に混ざってデッキブラシをシャコシャコと動かすこと1時間、艦の巡回をしていた提督がやってくる。

「アイリーン、少し良いだろうか?」

「はい、何でしょうか?閣下」

 デッキブラシを砲塔に掛けて向き直る。

「貴官はティレルと親しかったな?」

「はい、不本意ながら」

 すこし蔑んで答える。

 ろくでなしの大佐だったとはいえ、5階級も離れた上官を殴り飛ばしたうえに海に投げ落としたティレルのことをよく思うものは海軍内にはおらず、軍法会議の時でも「彼女を銃殺しろ」という声があちこちから飛び交った。

 結局は相手の落ち度も考慮されたことでティレルの処刑はギリギリのところで回避されたものの、この事件は海軍にとって最大の不祥事として扱われている。

「それで、彼女が一体?」

「シャークを殴り飛ばした彼女の現在が少し気になってな、出所後にどうしているかは分かるか?」

「はい、届いた手紙によれば、出所後に親の紹介でハンターズギルドで受付嬢として働いているそうです。

 ベルファスクのロウレン支部で、少尉だった頃と比べて退屈しているとか」

「そうか。

 それにしてもハンターズギルドか。

 オーセンも、ろくでもないところに娘を紹介したものだ」

「ろくでもないところ・・・ですか」

 ハンターズギルドを見下した発言にアイリーンが反応する。

「そうだろう?

 金のために身一つでモンスターに挑むハンター業など、愚の骨頂でしかない」

「……」

 提督の言葉に口を閉ざす。

 『大海の戦は大艦巨砲を以て臨むべし』が口癖のエル・ゼナ提督。

 その言葉を体現するように彼女はモンスター相手に戦艦を中心に運用する戦術を多用し、多大な戦果を挙げた。

 一方で危険なモンスターに武器一つで挑むハンターのことを「無謀な愚か者と」評している。

 確かにモンスターは恐ろしい存在だ。

 個体によっては村どころか都市一つさえもたやすく滅ぼしてしまう。

 そんな存在に挑むハンター業は、たとえるなら大型トラックや戦車、場合によっては軍艦に剣や弓で挑むようなものであり、常人からは理解しがたい存在だ。

 正直な話、私も村を滅ぼした赤いシーラゲーテを討つためにハンターをしていたこともあったが、自身よりもはるかに大きい体躯を持つモンスターに、対峙するたびに恐怖を覚えた。 

 結局はシーラゲーテに挑むことさえできないまま、下級で10年ほどくすぶり続けた末にハンターをやめてより強い力を持つ海軍に転属した末に、士官候補生時代に件の赤いシーラゲーテを艦砲射撃で粉砕した訳だが...

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