撃龍艦隊
ティレルが受付嬢としての研修を受けているその頃。
軍事刑務所にティレルが服役している最中に駆逐艦ベラから第三撃龍艦隊の旗艦である戦艦レガリアに転属したアイリーンは、艦橋の見張り台の上で双眼鏡を構えながら白赤黒3三色の長い髪を海風になびかせていた。
「20キロメートル先に海洋竜の群れを確認!」
波高く、潮の速い荒々しいガイゼルの海。
古来より何隻もの船が沈んでいる危険な海域で海洋モンスターの筆頭である海洋竜が群れを成して泳いでいる。
角の生えた、細長い体躯のモンスターで黒い体をくねらせながら悠々と海を進む。
「了解、進路変更、迂回せよ」
海洋竜の報告に艦隊司令官であるエル・ゼナ大将は変針を指示。
高圧的な態度と多大な戦果から女帝と称される彼女の命令に、全艦が従う。
造船技術が拙かった時代、船さえも容易に沈める海洋竜をはじめとするモンスターは海軍にとっても脅威ではあったが、時代が進むに連れて戦艦等の頑強で巨大な軍艦が登場し、次第にその脅威は薄れていった。
しかしそれでも攻撃によってスクリューなどの主機が損傷したり、場合によっては甲板に乗り込んでくることもあり、時間と資源の浪費を減らすために無用な接触を避けるのが鉄則とされている。
「アイリーン少尉!」
聞こえた声に双眼鏡を下ろして振り向く。
そこには航海長を務めるロンドル。
階級自体は少尉より下ではあるが、海軍としてのキャリアは長く、艦内においては艦長の次いで序列が高い。
また、私と同様に彼もまた長い時を生きる竜人であり、若い見た目に反して年齢は老練のイスリー艦長よりも何世代も上だ。
「私の部屋から海図を持ってきてくれ。D-2だ」
「了解です」
第一艦橋のハシゴを降り、航海長の部屋に入る。
整理された、清潔感のある部屋。
その棚の中から変針後のD-2と記された海域が描かれた海図を取り出す。
「こちらです」
航海長に海図を手渡す。
「暗礁が多い、速度を落とせ」
海図を一瞥するなり操艦の全権を持つ艦長に指示。
「了解、機関、減速せよ。見張りは警戒を厳となせ」
≪了解、減速します≫
伝声管を通して機関科長が応答、同時に座礁を避けるべく見張りの警戒レベルを上げるように艦長から下命される。
双眼鏡で海洋竜達のじゃれあいを眺めながら、海風と太陽に身を晒し続ける。
艦の上でそんな生活を続けて居たため、色白だった肌はすっかり日焼けてしまった。
「報告、もうまもなくトーセイ海峡に入ります」
海洋竜を迂回してから30分、トーセイ海峡が見え始める。
この海峡は東と西の海を繋げる水路であり、交易路を2000キロメートル以上もショートカットできる反面、モンスターによる襲撃や交易品を狙う海賊の出没が相次いでいる。
交易路の護衛は基本的に第二海軍の役目ではあるが、この水路は国益における重要度の高さのほか、諸外国の交易商たちを始めとする船乗りに国威を見せつける目的から花形の第一海軍が受け持っている。
当艦隊に瞠目する外国の船員たちを双眼鏡越しに一瞥。
ほどなくして水平線の彼方にヘルブレード大将率いる第二撃龍艦隊が見え始める。
「礼砲用意」
提督の指示の下、すれ違う艦隊に礼砲として空砲の主砲を撃つ。
大海に響く17発の36センチ砲による轟音。
撃ち終えた後、向こうからも同数の礼砲が放たれる。




