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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
なろうモノ嫌いの異世界記
8/28

7話 失敗は、避けられない。

 召喚屋新人スタッフことサジは、引き続きポタルの助手のような仕事をしていた。

 店先に立ったり、ポタルの荷物を運んだり、研究開発の手伝いをしたり、その合間で自分の魔法を鍛錬したり。


 そんなある日の朝。召喚屋ギムズの店先に、四人組の冒険者がやってきた。


「Cランク冒険者パーティ、《薔薇と月》です。依頼に伺いました」


 先頭に立って挨拶したのは、ロゼと名乗る女性剣士。 鮮やかな薔薇色の髪を後ろで一つにまとめ、武人らしい鋭い眼光を持っている。

 鎧を着込んでいるが、腰には軽い装備の剣が収まっている。


 その後ろには、ガタイのいい大男のソウン。重厚な鎧を身にまとい、タンク役というのが一目でわかる。

 そして、小人族のマーチとアーチ。双子らしく、並んでいると完全に同じ顔だ。姉のマーチは魔法使いのローブを羽織り、弟のアーチは弓を背負っている。どことなく、人形みたいで可愛らしい。


 全員がそれぞれ役割を持ち、バランスの取れた構成……のようにサジには見えたが、パーティの代表であるロゼが深刻そうに口を開く。


「私たちのパーティ、戦闘力は悪くないんですが……どうしても対応しきれない局面があるんです」


 その言葉に、ポタルが興味深そうに頷いた。


「なるほどねぇ。パーティに弱点がある、ってことだね?」


「ええ。なので、それぞれの強みをさらに伸ばす形で、召喚獣を導入したいんです。個の強化が、全体の強化に繋がるのではないかと。」


 弱点というのは、どうも、聞いているとこんなことだった。


 剣士ロゼは、珍しい魔法適性”華属性”の持ち主で、自身の戦闘がノると、周りに強力なバフ、強化の魔法がかかる。

 しかし、アーチとマーチは後衛で打たれ弱いため、バフを受けようとロゼに接近すればするほど自らの身を危険に晒す。ソウンが守ればいいものの、格上相手だと守りきれない。

 なので、アーチとマーチが最前線に出てもなんとかなる格下相手には圧倒的に強いが、特に格上相手で、まして魔法主体で遠くからの打ち合いになり、ロゼが相手の盾職に捕まってしまいノれないと、俄然弱いという。


 ポタルは顎に手を当てて考える素振りを見せたあと、ニッと笑った。


「いいね! 召喚獣の導入だ! じゃあ、今日は召喚獣の基本的な扱いから、パーティ向けの調整までみっちり教えるよ!じゃあ、1人あたり1,000リムなんだけど、だいじょうぶかなー?」


 こうして、《薔薇と月》の召喚獣訓練が始まった。 サジはと言うと──。


  (荷物運びも必要じゃなさそうだしな……今日は見学、か。)


 特にやることもなく、レクチャーの様子を眺めながら、空いた時間で小さく[地の駆動]の練習をしていた。


 朝から始まった召喚獣の講習は、昼を過ぎ、夕方になってようやく終了した。 

 ポタルの解説は分かりやすく、実技を交えたレクチャーで、冒険者たちも次第に召喚獣の扱いに慣れていったようだった。


 講習が終わり、店の食堂で夕食をとることになった。 料理を運びながら、ポタルは満足げに言う。


「いやー、みんなそれぞれの強みを活かせる召喚獣が見つかってよかったねぇ!」


 《薔薇と月》は、早速新しい召喚獣を試しに、王都のクエストに挑戦するらしく、既に召喚屋を後にしていた。だが、サジにはなんとなく腑に落ちない部分があった。


「ん? サジ、何か気になることが?」


「うん、俺今日なんもしてなくて悪いな……。え?そんなことは平気?他にもあるだろう?うん、じゃあ話すけど……パーティのバランスが悪いっていうのが問題なら、強みを伸ばしても穴があることには変わらなくないか?ってコトがな。」


 ポタルの目が料理からサジに移る。サジが続けた。


「穴がある場合の選択肢は、思うに2つある。」


「まず1つ目は、穴があることを理解して、あえてその弱点を晒さないような仕事だけをすること。もしこの世界がテレビゲーム……いや、細部まで作られた物語と言い換えようか、それなら、プレイヤー……読者は色んな敵と戦いたいから、自分が考える”最強の存在”には、穴を作らないようにするだろう。」


「だけど、人間、世界は分業・協力することで経済を発展させて来ているんだから、得意なことだけやったっていい。」


 ポタルは、ふんふんとうなずきながら聞いている。


「2つ目は、バカ正直に、穴を埋めること。その場合は、強化すべきポイントは、「得意を伸ばす」じゃなくて『苦手を消す』になるはずなんだ。」


 サジは、続けて語る。


「加えて、もう1個気になることがある。初心者がバラバラの道具を使ったら、お互い、どこが良くてどこが悪いかわからないまま、相互にアドバイスもできないんじゃないのか?」


「慣れない道具ならばこそ、みんなが同じものを使って、召喚っていうのがどういうものか、理解しながら底上げするのが常道な気がする。 」


 ポタルは「なるほどねぇ」と頷いていた。



 ◇◇◇



 数日後。


 再び召喚屋ギムズを訪れた《薔薇と月》。ロゼは苦笑しながら、頭をかいた。


「召喚獣の扱い自体は理解できたんですがね……」


 ポタルはニヤリと笑う。


「そっかそっかー。やっぱりそうだったかー♪」


「え?」


「だから、統一式の召喚獣を用意しておいたんだよねぇ♪」


「……は?」


 冒険者たちが目を瞬かせる中、ポタルはスッと手をかざした。


「さぁ、新たな仲間を召喚するよ!」


 光の中から現れたのは……。


「[サモンドビースト-バラトツキ・テスト22ゴウクン!!!]」


 召喚獣の名を聞いた瞬間、冒険者たち……ロゼとソウンは揃って「えっ?」という顔をした。


「22号!?」


「……そこまで色々テストしたのか!?」


「うんうん、試行錯誤を重ねた結果の集大成!」


 まばゆい光と共に、2mほどの狼男型の召喚獣 が4体、姿を現す。

 鋼のような毛並みに、月光を帯びた目。その姿は威厳に満ちていた。


「この子は、全員が同じ特性を持った召喚獣を使えるようにするための特別モデル!特に接近戦に重きをおいて、キミたちの強みをより伸ばすことに長けた召喚獣だよ!」


「キミたちの戦い方なら、弱みを潰すより、強みをさらに強化して専門性を高める方が、ぜーったい強いって確信して、作りました!」


 ポタルがサジに向けて目配せした。


 だが、冒険者たちは 「全員が同じものを使うのは嫌だ」 と抵抗を示す。


 マーチとアーチがスネている。


「オリジナルの召喚獣を持ちたかったのに……」

「せっかく個性を伸ばそうとしたのに、みんな同じなんて……」


 そんな彼らの反応に、ポタルはニッコリ微笑み、


「じゃあ、ちょっと試してみようか?」


 と、召喚獣同士の模擬戦を提案した。



 ◇◇◇



 ポタルは自らバラトツキ・テスト22ゴウクン を使い、《薔薇と月》4人と戦った。


 結果──圧倒的な敗北。


 もちろん、《薔薇と月》が。


 あっという間にロゼとソウンの前衛召喚獣をかわし、後衛のアーチ、マーチの召喚獣を4対1で順番に急襲。

 続いて返す刀でロゼの召喚獣をまたも4対1で伸すと、ソウンの硬い召喚獣も、数の力には勝てずダウン。


「動きが速すぎる……!」

「なにあの連携!?」


 統一された召喚獣を使ったポタルの戦法は、連携が取れずバラバラなパーティを次々と圧倒していく。


「ふっふっふ。この子たちが、ロゼさんの”華属性”を受けて戦ったら、きっと、すっごいよー♪」


「……なるほど……」


 ロゼが息を呑む。


「……わかった。新しい召喚獣、買わせてもらう」


「やったー♪ 商談成立ー♪本来は1人1,000リムだから4,000リムだけど、今回は大きく割引して2,000リムでいかがでしょうー?」


 ポタルは満面の笑みで、サジにグータッチを求めてきていた。


(俺、なにかやっちゃいました?っていうか、しましたっけ?)


(いや、その、いかにもな”なろう的”なセリフじゃなくて、今回の手柄はもう120%ポタル店長だと思うんですけど。)


 ◇◇◇


 その日の夕食。ポタルは上機嫌で、食堂でも特に高いメニューをごちそうしてくれた。

 サジが、気になることを聞いてみる。


「……22号ってことは、そんなに色々テストしたのか?」


 ポタルが悪戯っぽく笑う。


「数字はね、倍に盛っちゃった♪」


「いや、半分だとしても11で、10を超えてるんだけど……。ちなみに、他にはどんなのがいたんだ?」


「えっとね、もっと多い、複数体で連携して戦う召喚獣も他にいて」


「それはスライムをモデルにしたの。」


「それが10号で、個体数も10体で設計していたから」


「心の中での愛称はテンスラ…」


 (はい、ポタル、そこまで。)


 ◇◇◇


 その後、《薔薇と月》は──。


 以前──

 それぞれが個別に動き、連携のズレが生じていた《薔薇と月》。

 しかし今──パーティは、メンバーの役割もさらに統合。


 ロゼとソウンが二枚タンクとして前線を支え、アーチとマーチがマジックアーチャーとして、統一された魔法射撃を叩き込み、四体のローズ・ワーウルフ(旧名:22ゴウクン)が、まるで群れのように動く。


「薔薇のように、美しく──」


「そして、月のように揺るがず──!」


 かつて 「バラついていた」 彼らは、今や戦場で最も統率の取れた 「薔薇と月」 となっていた。


 腕をさらに磨き、強力なSランク冒険者パーティへと進化していくのだが。



 ──それはまた、別のお話。


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