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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
なろうモノ嫌いの異世界記
6/28

5話 ステータス画面は、ない。

 翌日。ポタルは、引き続きサジの魔法の練習に付き合ってくれるらしかった。

 

 サジは昨夜知ったことだが、召喚屋ギムズの寝室は1つしかなかった。

 そこにベッドが2つ。つまり、ポタルとサジは同じ部屋で寝るしかない。


 サジには正直、というかだいぶ、大人の男性として、年頃の女性と同じ部屋で寝る、ということに抵抗はあった。

 だが、『まぁまぁ、お客さんなんだし、せっかく用意したんだから、遠慮しないで!』と強引に押し切られてしまった。


(……まぁ、いいか。)


 お風呂もベッドも快適で、食事は街の食堂に出掛けたが、どれも全く生活するに問題なく、サジは、本当に観光しているような気分だった。

 だから、サジは今日も、体調面においては極めて元気であった。


ということで、[火の弾]を慣らすべく、反復して、魔法の訓練を続けていると、ふと疑問が湧いてきた。


 「なあ、ポタル。この世界には……ステータス画面みたいなものって、ないのか?」


 異世界モノには定番のシステム。

 能力値、レベル、スキル一覧──人間の能力を、数値づけしてありのままに示すもの──。

 サジが現実世界で”好きになれなかった”なろう系の物語であれば、極めて重要な鍵、あるいは武器になることが多いもの──。

 そんなものがあれば、


(自分の成長も一目で把握できるし、あわよくば、それこそチートスキルが入っていたりしてな。)


 だが、ポタルはキョトンとした顔で首を傾げた。


「ステータス画面? なにそれ?」


(あ、いや……、そりゃ『無い』よな……)


 サジは、自分で言っておいて、反応を見ただけですぐに納得してしまった。

 考えてみれば、サジの世界にだってそんなものはなかったし、そもそもあったら逆に怖い。

 いくら異世界だからって、ゲームのシステムが標準装備されているというのは、あまりに都合が良すぎたな、とサジは自嘲した。


「もしかして、キミの世界にはそういうのがあるの?」


「……いや、ないけど。」


「じゃあ、なんで聞いたの?」


「……なんとなく。」


「……???」


 ポタルの頭の上にハテナが出て、首を傾げている。


「うーん……まあ、確かに能力を数字で見られたら便利かもしれないね。でも、わたしたちは訓練して、身体で覚えていくものだから」

「あ、体重とか身長とか、そういうのを測るものはあるよ。あと、運動能力や魔法の能力は、実際にテストして基準値と比較してみたりね。」


(うーん。。。。妥当過ぎる。シンプルシリーズ、THE妥当。)


 サジは、異世界生活を始めてまだ数日だが、この世界のあり様に、少しずつ、慣れてきた。自分の成長を数値化してくれる親切なシステムなんて、結局はただの幻想なのだ。 


 サジは周りを気にしながら仕事をする性格であったため、先輩、後輩の業務内容をよく気にかけていた。


(仕事で新人を育成していた先輩がいたが、能力評価をどういう風に設定するかは、頭を悩ませ続けていたものな。人間を点数付けするのは、すごく難しいことだ。)


 サジは、そんなことを考えながら、[火の弾]を発射する練習を続けていた。


 シュッ。

 シュッ。

 シュッ。

 ……シュッ……。

 …………シュ……。


 パタリ。


 [火の弾]が打ち止まる。


「あれ?」


 何度試しても、手のひらにエネルギーが集まらない。 

 ポタルはサジの様子を見て、くすりと笑った。


 「マナ容量が切れたね」


 「……マナ容量?」


 「うん。魔法を使うときは、体内のマナを消費するんだけど……キミのは今、もうすっからかんってこと」


 「……なるほど、そういうことか。」


 なんとなく、スマホのバッテリーが切れたときのような感覚だった。あんなに普通に使えていたのに、急に動かなくなる不便さ。


「ちなみに、マナってどうやって回復するんだ?」


「休む!もっと言うと、寝る!それだけ!」


 ポタルは指を立てて、ドヤ顔で答えた。


「……めちゃくちゃシンプルだ。」

(そして、RPGゲームで寝るとMPが回復するとことは、一緒なんだな。)


 「うん、でも大事だよ? ちゃんと休まないと、マナを無理に使うと体にも負担がかかるし、最悪倒れちゃうしね」


 (なるほど、無限に魔法を撃てるわけじゃないし、限界を超えて使うと身体に影響が出る。どんなモノにもリソースの限界はある、と考えれば、しっくりくる。)


(現実世界にも税金や電気、労働力みたいな「有限な資源」があるのに、それを理解しない人間が多かった。俺も異世界に来た途端、その感覚がどこか麻痺していたのかもしれない。)


(異世界に来た途端、なんでもアリの世界だと思い込んでいたのかもしれない。だけど、よく考えればこの世界にも有限なリソースがあって、俺はそれを消費している。)


(どこに行こうと、世界は現実で、ルールは変わらない。)



(世界は、どこまで行っても、異世界に来ても、現実だ。)


◇◇◇


「ちょっと!暗いよ!なに上の方見てるの!まだ、今からお仕事するんだからね!」


 サジは、ポタルの声に現実へ引き戻される。

 

(いけないいけない、黄昏れてしまった。)


 今日の午後は、召喚屋ギムズの整理を手伝うことになっている。

 昨夜の食事中、サジが何気なく仕事の話をしていたら、思いのほかポタルが食いついてしまった。


『どの棚に何が入っているか、全員が把握できるようにするのが大事で……ラベルを貼って、モノを定置化、おして見える化すると、作業の効率が一気に上がるんだよ。』


『自宅でも、息子の服をしまう場所を全部ラベリングしててさ。最初は『おじいちゃんじゃないんだから、それくらい覚えてよ』って嫁に反対されたけど、結果的に家事のスピードもクオリティも安定するんだよなぁ……』


 そんな話をつい語ってしまったのが運の尽き。


『それ、うちの店でもやろうよ!!!』


 ポタルはめちゃくちゃ乗り気になってしまったのだった。


「うちの棚もステータス画面にしようね!」


……。

(少し、勘違いしているような気もするが。)

(まさか異世界で「見える化」の概念を広めることになるとは思わなかったが、まぁいいか。)


「楽しんで、やるべきことを――ってやつか。」


 サジは小さく笑いながら、ポタルの後に続いて、召喚屋ギムズへ帰って行った。


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