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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
なろうモノ嫌いの異世界記2

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6話 フジィ

 アキの運転によって、オン一行は、王都の西の外れ、石造りでドーム型の研究施設に辿り着いた。


 オンが、門を開ける。ギィ……という音とともに、見覚えのある中を進んだ先に、かつての魔王、フギリが待っていた。


 壁に点在する、蝕のマナフォージ石に照らされるように――、「あの時」と同じように、魔王は、そこに待ち構えていた。


「やはり、来ましたか……私の運命を導く者が。」 


顔をオンの方へ向けたフギリは、何かに感づく。


「おや……?そのマナは……。」


「そうですか、あなたはもしや、あの時の黒龍の使い魔……。」


オンにとっては意外な反応に、思わず言葉がこぼれる。


「フギリさん……。まさか、覚えているのか……?」


(そうか、(むしば)みのマナと、異世界人サジとの接触……。)


(僕と同じ、世界に改められない条件が、フギリさんにも揃っていたんだ……。)


フギリは、様子を伺うように、しかし冷静に、返した。


「ええ、覚えていますとも……。あの時、あなた方によって、私の望みが潰えたこと。」


「今度は、私からの質問です。この、実に不可解な状況……。世界が、改められたかのように、施設がこのように直っている……。否、壊れる前に時空が巻き戻っていること。これは、貴方の仕業ですか?」


オンは、言葉を選びながら、話す。


「いや、これは僕のやったことじゃない……。むしろ、僕らは被害者だ。」


「世界を書き換える、強い力を持った存在によって、召喚術師ポタル・ギムズは、存在ごと抹消されてしまったんだ。それとともに、世界に様々な波及が起きている。あなたに起こったことも、そのひとつ。」


「だから、僕は、あなたにお願いしに来た。かつて、『正義の魔王』を掲げたあなたに。」


「その強大な存在……勇者ジークに立ち向かい、僕の姉……ポタル・ギムズを取り戻すために、僕らの味方になって欲しい。」


フギリが、一瞬、動揺の表情を見せる。しかし、すぐにそれを隠すと、冷静に、続けた。


「ふむ……。わざわざ、自分の足元を掬った相手を助けろ、と?それで私になんの利が……?」


「召喚屋様がいないのであれば、私を止める者はいない。改めて、魔王と為すことも、可能だと言うのに?」



オンは、一瞬だけ思考を巡らせてから、即答した。


「いや、それは……おそらく叶わない。」


 オンは、自らの考えを説明した。


 自らの英雄譚(テンプレ)に保護され、守られる勇者ジーク(ナローシュ)は、辺境を平定したなら、次の活躍の場を求めて、活動の範囲を広げるのが道理である。そのとき、王都に『影の魔王』などが存在していたら、それは、英雄譚の格好の(まと)、すなわち敵となる。


 仮に、勇者(ナローシュ)を下せたとして、世界に望まれないその形は、ポタルのように消去されるか、ダーウェイのように改変されて弱体化されるに違いない。あるいは、時間や空間に別の方法で干渉される可能性もある。いずれにせよ、物事が勇者(ナローシュ)の有利に運ぶのは、目に見えている。


 例え、蝕属性のマナにより、ある程度は改変の力に立ち向かえたとする。しかしその場合も、天使キョウザメエルを味方に持たないままフギリが勇者(ナローシュ)と対立すれば、圧倒的に不利な戦いを強いられる可能性が高い。


「なるほど……よく、わかった。使い魔の(キミ)、名前は?」


オンの説明を聞き終わったフギリの言葉から、敬語が外れる。口調が少し、力強くなる。


「僕は……黒曜岩龍、オン・オワリ・ギムズ。」



「なるほど。では、オンくん。」


フギリは、キョウザメエルの方をちらりと見ると、オンに向かって、魔法を撃つ構えに入った。


「話を聞いていると、だ。私と君との差は、そこにいる、運命を司るのであろう――、天使が味方しているかどうか、その有無だけではないのかね。」


「蝕の力に導かれた我々二人には、どちらにも、望む世界を取り戻す権利がありそうではないか。」


「剣を交えて、君から天使を奪えば、だ。私にも、望む未来を切り拓く権利が生まれるのではないかね。」


その言葉を聞いて、キョウザメエルが呟く。


「良いですね。私のために……、是非、争ってください。」


「どちらに取って見ても、前作のラスボスが味方になるかもしれない……、定番の熱い展開。その中心に立っていると思うと、わくわくしますね。」


オンは、呆れながらも、戦闘態勢に入る。


「おキョウさん……。」


「でも、仕方がない。頑固なおじいちゃんを味方にするため……もう一度、僕が魔王を喰らう!」


 魔王vs黒曜岩龍。第一ラウンドから大きく時間を空けて、第二ラウンドが、始まる――。


◇◇◇


「よろしい。では、先手は頂く……。」


 フギリは、静かな発声とともに、右手を高く掲げる。


(蝕のマナは、お互いの強さがわからない以上、吸収される可能性がある……、ならば。)


 フギリは、魔法の詠唱もないまま、右の掌に、水属性のマナを集め、解き放った。白く輝きを放つ、大きな氷の剣が三本、空中に形成された。


「全力で、貫く。」


 右手を下ろすとともに、それがオンに向かって放たれる。


「[地の駆動]!」


(直線的な攻撃か、あるいは誘導弾(ホーミング)か……。分からないけど、まずは逃げの一手……!)


 滑る地面に乗り、射線を外れつつ、壁に向かって全力で後方へ退く。氷の剣は、緩やかに弾道を修整しながら、オンを追尾し宙を駆けていく。だが、オンよりもスピードで勝る氷の剣は、オンへの距離を詰める。


(迎撃が必要か……[蝕の……機関銃!])


 貫かんと迫る氷の剣を、無数の弾丸で弾く。蝕のマナが放つ黒い淀みに、砕けた氷の粒が混じり、黒い砂煙のように舞い上がった。


「そこまで遠くへ退いて、どうする?自らの運命を掴むための戦いとしては、いささか消極的に過ぎる。なんとも興冷めではないかね?」


 フギリは、オンを嘲笑してみせた。しかし、闇色の砂煙が晴れた時……オンは、そこに()()()()()()()()


「なに……!?」


フギリの顔に動揺が走る。


その瞬間。


ズオオオオオオ……!


 ドームの壁に複数個、配置された、鈍く輝く蝕のマナフォージ石。それらが、ドームの天井に向かい、吸い寄せられて行く。フギリが周りを見渡すと、戦いを見守っていた天使は、大きく上を向いていた。


「真上……!?」


 フギリもすぐさま上を向く。ドームの天井中心には、巨大な土の半球が形成されていた。その半球に向かって、蝕のマナフォージ石が吸い寄せられている。


 全てのマナフォージ石が、その半球に吸収されようとした、そのとき。


 彼らを取り巻くその空間は、ブラックアウトした――。


(ふう、上手く行った――。)


 暗闇に飲み込まれる中、半球の中に潜んでいた黒曜岩龍……オンは、安堵していた。


 この結果に至るまでのこと――。


 オンは、砂煙が上がると同時に、使い魔の人間形態を「解除」し、黒曜岩龍(ドラゴン)の姿へと変身していた。


 そして、砂煙を巻き込み動きを隠しながら天井中央まで飛び去り、天井中央に逆さまにしがみ付くと、身を包む[大地の球]を発動。


 さらにそこから、壁に沿って、放射状に[地の駆動]を発動。壁のマナフォージ石を掬って、滑らせる形で自らの手元に吸い寄せたのだった。


 オンが「一度喰らっている」エネルギーを、「もう一度喰らう」ことによって、世界に矛盾を引き起こす。世界は蝕まれ、この研究施設は、元の世界線に戻るはず。そして、それによってフギリへの勝利と、自らの力を再び示す――。オンは、そう目論み、そして、それを完遂させた。




(とはいえ……。)


 オンは、ブラックアウトした世界の中、静かに考えていた。


(変身による緊急回避と高速移動はアキさんのコピーだし)


([地の駆動]による石の移動と、[大地の球]による守りはサジの再現)


(魔法や作戦が滞りなく上手くいったのは、ポタ姉やリトル・ウィンターの優れた(マナ)が僕の身体に流れている、という面もあるはずで――。)


(僕の(コア)燃料(エンジン)である蝕のマナは、他の誰でもない、フギリさんが開発したもの……。)


(そうか、僕の生命(いのち)の全ては、先人達の礎の上に成り立っているんだ――。)



「あなたも、僕のおじいちゃんみたいなものか。もしも、僕の力になってくれるのなら……。親しみを込めて、フ(ジィ)とでも、呼ばせてもらおうかな。」


 暗闇に閉ざされたその空間の中で、オンは、そう呟いた。


◇◇◇


 世界の闇が晴れる。フギリの研究施設は、完全に崩壊し、瓦礫の山となっていた。


(本来の世界線の姿――。)


 ドラゴンの姿のまま、天井に張り付いていたオンは、しがみつく天井を失う。逆さまに落下しながら、周りの風景を眺めていた。


「……落下ぁ!?ヤバいっ!」


オンは我に帰ると、慌てて翼を動かし、体勢を整える。瓦礫の山の中、着地出来る場所を探し、滑空する。


――その一方。


暗闇から視界が晴れたフギリは、オンとの距離を視認すると、次の動きへと切り替える。


(施設は壊され、ひとつの運命は絶たれた、が……。)


(ならば次の運命を引き寄せるまで。あの天使を、強奪すれば……。)


瓦礫の合間を縫って、水属性の魔法を放つ。自身の位置から、キョウザメエルへと繋がる氷の道が形成される。


自身の足にも氷の鎧を纏わせると、右足で大きく蹴り出す。氷の道に沿って、スピードスケートの如く、高速でフギリはキョウザメエルに迫った。


そして、フギリがキョウザメエルに届く、その直前。




「小さい秋、小さい秋、小さい秋、見ーつけた……♪」



口ずさむ、キョウザメエルの歌とともに、キョウザメエルの身体が宙にふわりと浮き上がり、フギリの手から、空へと逃げ去る。



「なに……!?」


フギリの驚きをよそに、キョウザメエルは、紅葉の嵐を纏いながら、宙を浮いていた。


紅葉の嵐は、軍服の形を形成し、その頭の部分に、紅色の帽子が現れる。



「天使様……自分で回避するとか、そういうのはないのか……?」


紅葉の精霊、千秋楽こと、アキは、少し呆れながら、キョウザメエルをお姫様抱っこで抱き抱えていた。


「表向きは、中立でないと。」


「人の子に、直接手を下すのは、"理性と調和"にそぐわないですからね。」


平然と語るキョウザメエル。


ちょうどそこに、黒曜岩龍(ドラゴン)が舞い降り、人間体へと変身する。


「ありがとう、アキさん。」


オンはアキに感謝を述べると、フギリに向き直す。


「じゃあ……親しみを込めて、フギリさん……フ(ジィ)と呼ばせてもらうけど……、改めて、僕の仲間になってくれますか?」


「弱肉強食、それから、正義の魔王。その、あなたの価値観のどちらにも、決して反しない状況だと思うけど、……どうだろう?」


フギリは、静かに笑った。


「これは、随分と苛烈な飴と鞭だ……。」


「いいでしょう。微力で、老いた身ながら……、オンくん、君の力となろう。」


「私に代わる、魔王として、望む運命を……引き寄せてくれたまえ。」


オンも、笑った。


「ずっと気になってたけど、フジィ、僕からすると台詞回しがカッコつけ過ぎだよね……。ふふ。」


「でも、勇者vs魔王か……。物語としては、すごく収まりが良さそうだ。」


「一緒に引き寄せよう、魔王の望む未来……家族(ポタ姉)の奪還を。」


キョウザメエルが、口を挟む。


「黒曜岩龍の魔王……」


黒曜(デモンキング・)岩龍の(オブ・)(オブシディアン)(ドラゴン)というのはどうでしょうか……?」


オンは、すぐに断る。


「やめて。さすがに、恥ずかしい。」


「あと、なんか口が窮屈。」


こうして、オン、アキ、フギリと、キョウザメエルは、瓦礫の山の中で、『魔王パーティ』と成ったのだった。

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