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なろうモノ嫌いの異世界記  作者: 不連続がと
なろうモノ嫌いの異世界記2

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5話 サジ

(リトル・ウィンターが乗り移ったアキさん……!速い……っ!)


ガンッ――!


 オンの[地の駆動]による回避が追いつかず、アキの打撃が背中にヒットする。オンは、吹っ飛ばされながらも、地面を転がり衝撃を逃がす。


 しかし、アキは手を緩めない。立ち上がったオンに追撃を狙い、宙を舞い、襲いかかる。



(おいおいおい、アキさんよりスパルタじゃないか……!?)



 二度目の直撃前に、なんとか[地の駆動]の発動を間に合わせ、距離を取る。だが、空を飛び、オンを追うアキは、しつこく、オンに張り付こうと迫る。


 [蝕の加農(カノン)砲]を撃つ、予備動作のための距離を、取ることが出来ない。ギリギリの、鬼ごっこが続く。


(これじゃあ、持っている魔法のどれも役に立たない――!)


(どうする――。こういうとき、主人(マスター)や、ポタ姉、あるいは魔王(フギリ)ならどうするんだ――!?)



 思考に集中力を取られ、逃げの行動がワンテンポ遅れたところで、アキの拳がもう一度、今度は腹に直撃した。



「がっ……っ!」



痛みは、相変わらず、無い。だが、遠くへ、遠くへ、オンは、弧を描き、弾き飛ばされた。


しかし。



「違う――。」



「そうだ、アキさんが言ってた『複眼』……。」



そのショックは、オンのエンジンを、静かに着火させた。



(『自分じゃなかったら、どうする』じゃない。今必要なのは、『この危機を乗り越えるために、自分こそが何をするか』だ。)



(今の僕の手元の魔法は、全て誰かの模倣。『持っている魔法の全てが役に立たない』なら、『自分の才を信じて新しい魔法を使う』しかないんだ。)



オンの全身が、蝕のマナで黒く輝く。



「そうか、だから、()()()()()()()、と。」


 


「他人の光を返すんじゃない、自らの力で照らせ、と」




主人(マスター)は……()()は確かに僕を照らしてくれたけど……」



「この……僕の物語の主人公は……!」



 今のアキは――リトル・ウィンターは、手加減や、オンを待つことなど、しない。


しつこく、しつこく追い掛けるため、風を切り、こちらに向かってくるのが、オンの目に入った。



紅葉の精霊が、宙を舞い、一撃を加えるため拳を振りかぶる。



「アキさん、リトル・ウィンター……!食らえ!」



オンの両手に、蝕のマナで形成された、黒く鈍く輝く魔法陣の腕輪が宿る。



「撃ち放す!……[蝕の……、機関銃(きかんじゅう)]!!」



ズダダダダダダダダ――!



無数の弾丸が、オンに覆い被さり、襲い掛かろうとするアキの全身にヒットする。


恩返しと言わんばかりに――否、実際、本心から、アキとリトル・ウィンターには恩を感じ、成長の跡を見せたいと思ったからこそなのだが――、遠巻きに見ていたキョウザメエルが、ちょっと引くほどに、オンは、しつこく連射を続けた。



アキの変身が解け、精霊・千秋楽から、少年の身体に戻る。仰向けに、地面に落ち、倒れたところで、オンは撃つのをやめた。



「アキさん、合格印かな?」



アキは、夜空を見上げたまま、静かに答えた。



「……ああ。」



アキは、ゆっくりと、起き上がり、ぱんぱんと、服の汚れを払った。



「まだ、夜明けまでは少し時間があるな……。オン、施設のシャワーとベッドを使うと良い。」


「若者の成長に勝る、良い夢など無いが……案内するよ。少し……朝まで、夢の続きを見るとしよう。」


 オンは、身体の疲れは感じなかったが、頭は既にぼーっとし始めていた。アキに案内されて、朝までゆっくりと眠るのだった。


◇◇◇


 翌朝。


 オンは、施設を管理するスタッフ(詳しく聞きはしなかったが、オンは「そういう使い魔」なのだろうと思った)の手厚いサービスで、快適に一晩を過ごした。


 昨夜、一度砕かれ、そして改めて、より堅く創り上げた自信。それを手に、オンは、次の目標を定めていた。


 施設を出ると、アキと、キョウザメエルがオンを待っていた。キョウザメエルが、オンに軽く頭を下げ、挨拶する。


「おはようございます。ちょうど先程、アキさんに、自己紹介を済ませ終わったところでした。」


アキも、それに合わせて無言でうなずく。


(天使の存在なんて、そう簡単に信じられるものなのか……?)


その考えは、オンの顔に出てしまったらしい。アキが口を開く。


「オン……、大丈夫だ。態々(わざわざ)細かくは言わないまでも――、経験上、信じるに足る理由は、いくつか、ある。」


オンは、アキが自然に受け入れているようなので、とりあえず流しておくことにした。


そして、キョウザメエルが続ける。


「さて、あなたには、仲間を二人集めるようお勧めしていましたね。あと一人、候補はいますか?」


オンは答えた。


「うん、決めたよ……。サジや、ポタ姉なら、たぶん選ばない選択肢だけど……僕の裁量と責任を()って、決めた。」


大きく息を吸い、吐く。


次に会いに行く相手は、アキや、リトル・ウィンターのように、好意的な反応をするとは限らない。敵意を持っての接触となる可能性もあった。


「僕と同じ、蝕属性の使い手――、この世界線の()()に会いに行こう。」


「目的地は、魔王と蝕属性の研究施設……フギリさんのところ、だ」


その言葉を受け、アキは、表情を変えないままに、オンとキョウザメエルに車に乗るように促す。


三人を乗せ、車は目的地に向かって出発した。


オンは、手元の手帳のページをぱらぱらと開き、自らの使用可能な魔法の一覧を確認した。


[火の弾]:火属性のエネルギー球、基本の魔法

[地の盾]:地属性の盾で相手の攻撃を防ぐ

[地の駆動]:地面を、マナの力で高速で駆動させる

[大地の球]:地属性の大きな球を生成する

[地の強化]:地属性のマナにより、魔力と身体能力を強化する


そこに、昨夜の経験と成長を踏まえて、二つ書き加えた。


★[蝕の加農(カノン)砲]:蝕属性のマナの大砲を中長距離に放つ

★[蝕の機関銃]:蝕属性のマナの弾丸を近距離で連射する


改めて、手元を、じっと眺める。


(外部媒体に記憶を任せて、自分の頭の処理容量を節約しておく……。サジの癖……いや、知恵を引き継いでいるとは言え、我ながらマメだな。)


そう、少し自嘲しながら、改めて一覧を見直す。


(これで、使えるカードは七つになった……。このあたりが、僕が管理出来る限界の数、かな。)


魔王フギリとの戦い、それから、その先に備えるため。オンは、身体が反応出来るように、それぞれのカードの切り方をシミュレーションしていた。


◇◇◇



――王都の西の外れ、研究施設


 石造りのその場所で、白髪に眼鏡、枯れかかる中に知性と野心を秘めた男――、フギリは、ひとり困惑していた。


(おかしい……。私は、確かにあの巨大な黒龍に蝕のマナを喰われ――。)


(正義の魔王として、影に君臨するビジョンは潰えたはず……。)


 フギリ本人はその理由を自覚していなかった。だが、フギリも、オンと同じように――、異世界の住人サジとの繋がり、そして、物語を「蝕む」マナの力の二つの力によって、世界に起きた異変を知覚していた。


 まだ壊れていない、石造りのドームを眺める。フギリは、自分が直前まで見ていたはずの世界を思い返していた。


(そうだ、私は――。)


 研究者であり商人である、フギリ。彼は、かつて王都を支配していた魔王の力を研究し、「蝕属性」のマナとして体系化、その魔法を自らのものとした。


 彼は、蝕属性の持つ、


・マナを吸い上げる力

・マナを染める力

・蝕属性同士においては強者が弱者を喰らう力


を用いて、王都を影から支配し、マナを再分配することで、「正義の魔王」として君臨することを目指した。


 しかし、その野望は、偶然対立した召喚屋ギムズの二人とその使い魔によって阻まれたのであった。


 王都に身柄を引き渡された彼は、研究結果の王都への提供と、王都への労働力の提供という、極めて軽い罰が与えられた。


 その理由のひとつは、王都が、事態を大きくすることを嫌ったことである。


 そして、もうひとつは、ポタル・ギムズが厳罰を求めなかったこと、オンが研究結果をほぼ喰らってしまったことに負い目を感じたため――、である。


(そこまでが、私が生きた世界、しかし――。)


 しかし、そんな失態は、ポタル・ギムズの消失による改変で「なかったこと」になっていた。


 巨大な龍によって壊されたはずの石造りの研究施設は、壊れる前の状態に時が巻き戻っていた。フギリ自身の能力も、龍に喰われる前の状態に戻っていた。



 フギリは、静かに呟いた。



「この事態は――、もう一度、私の野望を為すチャンスと見るか、それとも――。」


 思い返すのは、決戦の最後。さしたる力を持たない、あの男が、自らの魔法の全てを賭して、語った言葉。


『あんたが間違っているかどうかは、俺にはわからない。』


『“勝ったほうが正しい”ってのが、いつだって、理屈だよ。』



(だとしたら――。)


(私に与えられた運命は、勝ち直す、ことか――。)


「あるいは、誤りを認め、負けたなりに、新しい道を探すことでしょうかね――。」


 かつての魔王フギリと、それを喰らいし者オン。彼らの道が、再び重なろうとしていた。

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