Ex10話 決勝戦!
一夜明けて、決勝戦当日。
ポタルとサジ、そしてオンは、競技場にやってきていた。
ポタルのすぐ後ろから応援出来るように、少し早めに到着して、席を確保した。
「ふー。ここまで来ると、もう賭け金がどうとか、そういう気持ちが薄くなってくるな。部活動を応援する親ってこんな気分なのかな」
「サジはうちの新人スタッフでしょー?ふふ、でも、ありがとね。がんばってくるよ!」
「おう、がんばれよ……、っていうのもなんか、上から目線で、しっくりこないな。」
少し考えると、言い直す。
「悔いの無いように、な。」
「オンオン!」
「うん!」
そして、二人は、オンの前足の届く高さまで拳を下げて、二人と一匹でグータッチした。
◇◇◇
決勝戦開始前。
競技場内には、既に、東ゲート側にポタル・ギムズが、西ゲート側にクイダ・レフト・オルトロスが待機している。
客席は、満員とまではいかないまでも、7~8割程度の席は埋まっており、なかなかの賑わいを見せている。
ポタルのオッズは8.0倍、クイダのオッズは7.0倍。先攻となるのはクイダである。
だが、この勝負においては、両者とも、準決勝と同じ召喚獣を選択した。
クイダの桜雷虎と、ポタルのブルースカイ・ランサークン。
両者の召喚獣が出揃った。
◇◇◇
――決勝戦、開始。
試合開始とともに、ここまでの二試合で見せたクイダの速攻がまたも繰り出される。
雷を纏った虎が、槍を携えた女騎士に襲い掛かる。
その拳を槍で受け流し、女騎士は槍による反撃を試みるが、こちらも防具でいなされる。
武器と防具が激しくぶつかる音に、魔法のオーラの接触による衝撃も重なる。
その迫力に、観客席が、大きく湧いた。
お互いの初撃がどちらもクリーンヒットしないと見るや、クイダは次の手に移った。
距離を取った状態から、桜雷虎は両手を前に突き出すと、雷属性の魔法を繰り出す。
稲妻を纏う光線が、敵を狙う。
それに対しブルースカイ・ランサークンは、懐から蒼い宝石のような投げナイフを数本取り出した。
青空のマナを結晶化したその武器を投げ、雷の魔法を迎撃する。
近距離戦、中距離戦、両者の力は拮抗していた。
激しい戦いは続く。
距離を取ればお互いの飛び道具が、接近すればお互いの武具と身のこなしが、お互いの勝利を許さない状況。
クイダも、ポタルも、決め手がないこの状況を、興奮を、楽しんでいた。
(すごいな、これが、決勝戦か……。)
このカードを作り上げたのは、他でもないサジなのだが、彼は、そんなことは知らない。
他の観客とともに、ただ、試合を見守っていた。
一進一退とすら呼べない、完全な拮抗。
しかし、お互いのマナは消耗していく。
一瞬の隙を見て、ブルースカイ・ランサークンは大きく距離を取ると、槍を天高く掲げた。
天から、青空のエネルギーを収束され、マナを補給する。
すぐさま桜雷虎は距離を詰め、その余裕を奪い取る。
しかし、補給というカードがあるだけでも、拮抗している勝負の行方は、大きくポタルに傾いた。少なくとも、多くの観客には、そう思えた。
(ま、そんな一筋縄ではいかないだろうけどね……!)
ポタルの予想通り、状況が相手側に傾いたように見えても、クイダに動揺は無かった。
ただ、堅実に、淡々と、隙も、穴も見せず、桜雷虎は攻撃と防御に徹した。
先程までの戦いと、全く、同じように。
そして、二度目の補給をポタルが狙ったそのとき。
トン、トコ、トン。
クイダが無言で太鼓を叩く。
桜雷虎は両手を天に掲げる。
小さな雷雲が生成される。
ブルースカイ・ランサークンの掲げた槍に、ロックオンマークと、”10”が照射される。
[J・F・K]、10カウントで降り注ぐ雷。
(なるほど、不利に見えても全く動きを「変えなかった」のは、補給を誘っていた、ってこと……!)
(あんなに無表情で、なかなかどうして……、やってくれる……!)
ポタルの拳に、汗が滲んだ。
(一発目の補給に合わせて決められなかったのは、こっちの失敗なんやけどな)
クイダは内心自嘲した。
しかし、状況は逆転した。補給で優位に立っていたポタルに、大火力によるダメージが宣告された状態。
条件を満たせば、後は防戦で良い。桜雷虎は自ら距離を取り、守りの構えを見せる。
クイダは、たとえ観客が冷めようとも――。
徹底的に、時間稼ぎに徹するだけの、勝負師の心を備えていた。
ブルースカイ・ランサークンは、攻勢を強めた。
槍による接近攻撃、飛び道具による中距離攻撃。しかし、全ては後退され、かわされていく。
無情にも、カウントは進む。”9”、”8”、”7”、”6”、”5”。
多くの観客は、確信した。
オッズやプロフィールを鑑みれば、ダーウェイ・ケンリスの劣化版に過ぎないポタル・ギムズ。
彼女は、たまたまトーナメントの組み合わせがラッキーだった面もあったかもしれないが、ここで、敗れるのだと。
優勝は、クイダ・レフト・オルトロスのものだと。
そのとき、ブルースカイ・ランサークンは、まるで試合を諦めたかのような行動に出た。
敵との距離が開いた状態から、自らが持つ槍を地面に突き刺し、武器を放棄した。
そして、召喚獣本人は、うつ伏せに、地面にべたっと伏せた。
「雷を避けてるの……?」「それとも土下座……?」
観客席のアーチとマーチも困惑している。
ポタルが、独り言のように、言葉を紡ぐ。
「ブルースカイ・ランサークンは、プライドの高い『女騎士』じゃない。槍手。」
ブルースカイ・ランサークンが、今まで補給していた、空を映した青色ではない、土色のオーラに包まれる。
「それから、わたしが異世界の住人に教えてもらったこと。」
「最強の護身術は、『短距離走』。」
桜雷虎の足元から、土で出来た手が四本伸びて、手足を拘束した。
サジの、[大地の球]と[地の駆動]を合わせて、さらに変形させた魔法。
サジが名付けたなら、[地の逃避禁止]とでも呼んだだろうか。
「他には、サジと一緒に学んだこともあって」
「『逃避』と、『駆動』は、紙一重の差。」
「それと、『名称は、わかりやすい方が、後任のため』……。そっちはカッコイイ方がわたし好みだから無視するけどね。」
ブルースカイ・ランサークンから、桜雷虎に、地面に沿って、地属性のマナが一直線に繋がる。
地面が、輝く。
「喰らえ、[大地の交換駆動!]」
カウントと狙いが刻まれた槍を残したまま、お互いの召喚獣が、「もともとお互いの居た場所」に向かって駆動する。
時代劇の決闘シーンのごとく、すれ違い、そして、静止する。
ブルースカイ・ランサークンは、桜雷虎の位置へ。
そして桜雷虎は、槍が刺さった場所へ。
客席のサジは呟いた。
「まるで、将棋だな。」
「最大のピンチのときに一発逆転する方法、それは、180度、盤を回転させること、か。」
そんな行為は、四コマ漫画の世界でしか許されないのではあるが。
いずれにせよ、合法なポタルの奇策によって、位置が入れ替わったお互いの召喚獣。
カウントは”1”、”0”と進み、そして。
ドッカァァァァン!!!
一撃必殺の天の裁きは、術者である虎に直撃した。




